「実践! 物語マッシュアップ 浦島桃太郎」オリジナル設定編


 

urataro

◆2月28日の有料講座『ぴこ塾χ』で出された課題より

「実践! 物語マッシュアップ 浦島桃太郎」オリジナル設定編

去る2月28日(土)、東京は多摩・南大沢で開催された第1回『ぴこ塾χ』。19名の参加者には「物語マッシュアップ」を使った宿題が出されました。

その内容は「日本の代表的なおとぎ話、桃太郎と浦島太郎。この二つの物語をマッシュアップして一つの新たなお話にせよ。ただし『玉手箱』と『きびだんご』を一つに統合したアイテムを登場させること。また、主人公は『浦島桃太郎』とする」

そんな宿題『浦島桃太郎』から下記の作品をピックアップしました。おとぎ話の構造だけ残して、登場人物や舞台を全く変えた作品です。へえ、こんな話になっちゃうんだ、と目からウロボロス!

物語マッシュアップは、既存の物語を利用して新たなストーリーが簡単に構成できるテクニック。使い慣れてくると非常に愉しく、しかも便利です。

●T・Jさんの作品

容姿端麗でやさしい男子高校生、浦野志真(うらのしま)は、よく街で芸能事務所にスカウトされている。
ある日、怪我をして瀕死の犬を見つけて助ける。首輪の連絡先から飼い主に届ける。

飼い主は、年齢不詳の妖艶な美女、竜宮(たつみや)乙女。大物財界人など専属の占い師として陰の世界では有名らしい。お礼にもてなされつつ、「凶相があり命の危険があるので注意」と言われる。たかれていた香に懐かしい感覚を覚え、乙女から匂い袋と香木の入った香箱をもらう。

帰宅すると刑事の父親が、鬼頭組の麻薬取引現場で同じ匂いをかいだという。
再度乙女に連絡しようとするが電話は不通で家はもぬけのからになっていた。

じつは志真は浦野家の本当の子どもではなく、17年前暴行されて死んだ少女(当時17)が死に際に産み落とした子だった。遺体からは花の香りがしたという。

被害者、百瀬はるかは孤児で身寄りがなく父親もわからなかった。
また、犯人グループに権力者がいたらしく事件はあいまいにもみ消されていた。

当時担当していた乾(いぬい)刑事に話を聞く。
はるかは孤児院出身で当時犯人を見たというこどもが孤児院にいたという。乾刑事は暴漢に襲われて長年寝たきり。息子が院長を務める病院に入院している。
匂いの成分が気になるという乾医師に匂い袋を一つ渡す。

目撃者のこどものことを聞きに孤児院を訪れるが相手にされず
孤児院併設の教会裏にある墓地、母はるかの墓へ。

母の墓の前で花を手向けている青年は俳優の沢渡(本名:猿渡(さるわたり))篤だった。
そして彼こそが犯人の目撃者(当時10歳)。はるかを姉のように慕っていた。
その時はるかは美貌を買われて芸能事務所にスカウトされデビュー目前だった。
犯人の一人はその芸能事務所で見覚えがあった男。猿渡はそのことがどうしても気になって芸能界にはいった。匂い袋の香りは最近芸能界でもかいだ事があると言う。匂い袋を渡す。

当時はるかが所属していた芸能事務所は木島プロダクション。志麻がスカウトされたことのある事務所だった。父親には、ヤクザとの癒着も噂され評判のよくない事務所だと止められるが、名刺から連絡をとって木島プロのオーディションを受けることにする。

木島プロの社長、木島龍太は元俳優。17年前はるかとつきあっておりデビュー前に妊娠させてしまった。(つまり志麻の実の父)敬虔なクリスチャンだったはるかは中絶を拒否。
デビューできないと多額のプロモーション費用が無駄になり木島プロがつぶれてしまう。
当事社長だった龍太の父は死亡保険金で事務所存続費用をまかなうため鬼頭組のヤクザをつかってはるかを襲わせたのだった。父親の悪行を知り憤る木島龍太。

匂い袋の香りは芸能人その他がよく出入りする秘密クラブでたかれている香と同じだという。母を殺した犯人たちもそこに関係している可能性が高い。

秘密クラブに潜入する志麻、沢渡、木島。秘密クラブのボスは鬼頭組組長、鬼頭玲司。
鬼頭組は竜宮の占いから恩恵をうけており、竜宮家に代々伝わる占い用の香木を盗んで
麻薬成分を抽出し、新種の麻薬として売買していた。竜宮一族は鬼頭組を恐れて香木の麻薬的使用を黙認してきた。
乙女は一念発起して通報しようとしたのだがそれが組にばれて監禁されてしまっていた。

秘密クラブではふんだんに香がたかれている。みな朦朧としてあまり動けない中、香木の麻薬成分に毒されていたはるかから生まれた志麻は、この香に耐性があった。監禁されていた乙女を見つけて助けようとする。そこを、玲司に見つかって殺されそうになりもみ合う中、玲司がとりおとした拳銃で乙女が玲司を撃つ。

匂い袋から香の成分を分析していた医師の乾、
麻取刑事の父、浦野の協力で、鬼頭組、秘密クラブが検挙される。
乙女は竜宮家の莫大な財産を志麻に残して亡くなる。

↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

▲黙っていれば、これが「浦島太郎」と「桃太郎」の物語構造を使って作られたものだとは読者もなかなか気づかないでしょうねえ(^o^)

二つの物語をマッシュアップした上で、登場人物の名前やキャラクター、そして舞台設定をオリジナルのものに変える。それだけで聞き飽きたあのおとぎ話がこんなにドロドロとしたクライム・ストーリーになってしまうわけです。

もちろん、世界観を選定する作者のセンスは重要ですが、ゼロから物語を構築するよりもはるかに短時間でストーリーが組み上がります。あなたもぜひお試しください。

それではもう一つ、作品をご紹介しましょう!

●Y・Hさんの作品

うらぶれた街・フクトミ町の片隅で、アルバイトをしながら小さい探偵事務所を営む僕。
最近、この界隈で中国パブ「竜が島」という店に行った人間が何人か行方知れずになっているという噂がささやかれていた。
が、この小さな街の地理は大体知り尽くしているはずの僕ですら「竜が島」なんて店は聞いたこともないし
探してみてもそんな店はいっこうに見つからない。

ある日、好物のピーチパイを作って食べようと桃を刻んだところでパイ生地がないことに気付く。
パイ生地を買いに行く道すがら、地元のチンピラに絡まれているみすぼらしい爺さんを助ける。
お礼がしたいという爺さんに「竜が島」という店を知らないかと聞くと、爺さんはその店の従業員で、僕を連れて行ってくれるという。
僕は一瞬とまどったが、好奇心がまさって「竜が島」へ行くことに決めた。

爺さんに連れられて裏路地に入っていくと、見慣れない風景が広がってきて「竜が島」に到着する。
こんな場所があったのかと驚きながら店の中に入ると、鬼乙姫という名の美人ママが現れて、もてなしてくれる。
店の隅には見事な玉手箱が厳重に封印されて置かれていて、触るとなにやらイビキのような音がする。
これは何だと尋ねると、触ってはいけないし、絶対に開けてはダメなものだと叱られる。

気になりつつも鬼乙姫の美貌と謎の酒のもてなしにすっかりやられ、なんだかずっとここにいたいような気分になってきたが
ふとピーチパイを作りかけだったことを思い出して我に返った僕は、今日はとりあえず帰ると告げた。
会計を済ませるために鬼乙姫が奥に入った隙に、僕は玉手箱を持って逃げ出した。

血眼になって探しているであろう鬼乙姫の追跡を恐れながら無我夢中で見慣れたフクトミ町に戻ると、僕は急いで玉手箱を開けた。
すると中には小さくなって眠る男が半分繭になりかけて入っていた。
驚いてアッと声をあげると、イセサキ署の犬山、猿田、雉谷と名乗る刑事が現れ、事情を聞かれる。
事情を説明すると捜査に協力してくれるという。

例の爺さんを探し出し、再び竜が島へ行くと、鬼の形相の鬼乙姫が出迎える。
「これはマズいものですよね?」と問いただすと、鬼乙姫がものすごい力で襲い掛かってくるが
失神しかけたところで隠れていた刑事が飛び込んできて鬼乙姫は御用となる。

後日、「竜が島」の奥からは繭に包まれて小さくされた男たちが続々と発見された。
鬼乙姫は、どうやら玉手箱の力を使って気に入った男たちを繭にしてコレクションしていたらしい。
繭を解くと男たちは何事もなかったかのように日常へと戻っていき、爺さんの記憶もなくなってしまった。
鬼乙姫は留置場から跡形もなく消えてしまい、玉手箱はただの箱になり、「竜が島」へ続く道が見つかることは二度となかった。
相変わらず僕の事務所に客はなく、ピーチパイだけがひたすらに美味いのであった。

↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

▲桃太郎の「鬼ヶ島」と浦島太郎の「竜宮城」を『竜が島』という舞台に、そして「鬼」と「乙姫」を『鬼乙姫』というキャラに統合することで、二つのおとぎ話をがっつり接着しています。しかも「浦島桃太郎」は「僕」の一人称によるハードボイルド設定であります! さらに「玉手箱+きびだんご」はジャック・フィニイばりのまさかの本格SF設定! それなのに全編に漂う脱力系のユーモアがたまりません。この話の肝は「僕が玉手箱を持って逃げ出す」ところ。こういうアクティヴなシーンを入れることでストーリーは俄然生き生きと動き出すわけですね。勉強になりました!


ぴこ山ぴこ蔵の物語創作支援メールマガジン
このブログの記事は全て、ぴこ蔵メールマガジン『面白いストーリーの作り方』から転載したものです。メルマガでは「いかにして面白い物語を生み出すか?」をテーマに、毎月、ぴこ蔵流の実践的考察を続けています。バックナンバーは公開しておりませんし、ブログ記事になるまでにはけっこうなタイムラグがあります。すぐにお読みになりたい方は、以下より配信をお申し付けください。折り返し、最新号が届きます!

創刊2004年、愛されて好評配信中! 今すぐ無料登録