伏線と並行線(1)


伏線について

ぴこ蔵
「ブンコちゃんよ! 何ぞ面白いアイデアは浮かんだかな?」

ブンコ
「こんなのはどうかなー? 主人公が道を歩いていて、偶然、手帳を拾うの。その手帳には、近所の家の住所を書いてる。で、主人公がなんとなくその家の前を通りかかるんだけど、偶然その時、持ち主は留守なの。でも、偶然、持ち主が鍵をかけ忘れてたもんで主人公はなんとなく家の中に入っちゃうのよね。

そしたら偶然持ち主が帰ってきて主人公はあわてて隠れるの。それでクローゼットからのぞいてたらその家に住んでいるのはなんと偶然にも昔の初恋の人だったのよ。

でも、泥棒だと思われるから出るに出れないの。そのうちにとうとう初恋の人がクローゼットを開く。どう? ちょっとロマンチックなコメディーでしょ?」

ぴこ蔵
「“なんとなく”とか“偶然”が多すぎる!」

ブンコ
「えへへ! やっぱりなー」

ぴこ蔵
「物語において最も慎重にならなければならないのがこの『偶然』の使い方じゃ。例えば、主人公にあることをさせたいとする」

ブンコ
「どうしても初恋の人とクローゼットで再会させたいんだよねー」

ぴこ蔵
「しかし、その目的を果たすまでに偶然は2回も3回も起こってはならない。さすがにどんな辛抱強い読者も怒り出すぞ」

ブンコ
「じゃーどーすりゃいいのさー」

ぴこ蔵
「偶然が重なりそうな時は、できるだけ『必然』に転化すること。そしてそうなった理由をあらかじめ読者に見せておくこと。なお、いくつもの偶然をまとめて処理したいときには流れを自動化しておくことがコツなのじゃ」

ブンコ
「自動化って何? ベルトコンベアみたいなもの?」

ぴこ蔵
「そうじゃ。この場合は例えば、

初恋の人が技術者で、たまたま『完全自動帰宅システム』みたいなものを研究中。しかし未完成でうまく動かない…という設定を見せておく。

玄関で機械に手帳のバーコードを読ませると、自動的にドアが開き、歩道が動き、コートを脱がせ、それをクローゼットに仕舞ってくれる装置。

ところが、未完成で、コートの代わりに人間をクローゼットに叩き込んで閉じ込めてしまうのじゃ。

そうすると、主人公が手帳を取り出せば後は自動的に事が進み、クローゼットに…ということを読者が予測できるわけじゃ」

ブンコ
「先にそういう仕掛けを作って、見せておくのかー。でも、なんでそんなことを?」

ぴこ蔵
「こうしておけば、読者は『唐突感』に襲われずにすむ。前もって知っていたからすでにその道具の意味も理解済みなのじゃ。手に入れてからいちいち説明する手間も省けるので、ストーリーのテンポを崩すことがない」

ブンコ
「こんな仕組みがあったら繰り返して使っても面白いしねー」

ぴこ蔵
「こういう風にあらかじめ自動装置を前フリしておくことを『伏線を敷く』というわけじゃな」

ブンコ
「これが伏線かー!」

ぴこ蔵
「ただし“伏線”というのはいったん忘れさせることが重要である。なぜなら、「忘れた」ものは「思い出す」ことができるからである。この「思い出す」という作業が読者の心を奪うポイントなのじゃ」

ブンコ
「なんでわざわざそんなことするの?」

ぴこ蔵
「何かを思い出した時、人間はハッとするじゃろ? その瞬間、思わず我を忘れて夢中になってしまうものなのじゃ。それが人間の脳の仕組みなのじゃ」

ブンコ
「伏線敷いたら、ちょっと他の話でもして間を置くわけね?」

ぴこ蔵
「面白いと感じさせるストーリー作りとは、こういう『脳の仕組み』を利用する仕掛けをいくつも積み重ねて、人の心を夢中にさせていくことなのであーる」

ブンコ
「手品師みたいなもんかなー?」

ぴこ蔵
「言えておるな。手品師の技術と科学者の冷徹な眼が必要なのである」

ブンコ
「でも、ちょっと詐欺師みたいでもあるなー」

並行線について

ぴこ蔵
「オホン。ところで、物語には、この伏線と同じような機能を持ち、伏線よりもさらに長大で重要なサブストーリーが必要になる場合が少なくない。それが今回のテーマ『本筋と並行して進む物語』である」

ブンコ
「つまり同時進行するでっかい伏線だね!」

ぴこ蔵
「見よう見まねですでに無意識に使っている人もけっこういると思うが、意識的に使えればそれに越したことはない。それではすぐに使えるように実践的な例を示そう。お題はこれ!」

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●金持ちが泥棒をつかまえる話

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ブンコ
「金持ちが泥棒をつかまえる?」

ぴこ蔵
「この素材で面白いストーリーのオープニングを作ることにしよう。普通に考え付くのは【泥棒が金持ちの屋敷に忍び込んで、へまをしてつかまる】みたいな話であろう」

ブンコ
「うーん、あまりふくらまないなー」

ぴこ蔵
「面白くするためには、本物の泥棒の技術を学んでそのノウハウの面白さで盛り上げるという手もあると思うが、それならむしろノンフィクションを書いたほうがよいのじゃ」

ブンコ
「あたしのように一流ストーリーテラーを目指すものとしてはこれじゃ物足りないなー。ぴこ蔵師匠、なんかない?」

ぴこ蔵
「それでは登場人物のキャラを少しひねってみよう。「裏切りあう言葉」の技を使ってみるのじゃ。こういうのはどうじゃろう? 『善人の泥棒、悪党の金持ち』 するとこうなる…」

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●悪党の金持ちが善人の泥棒をつかまえる話

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ぴこ蔵
「どうじゃ? 少しはインパクトが出てきたじゃろ?」

ブンコ
「なんか水戸黄門の前半30分みたいな話だなー」

ぴこ蔵
「うん、言えておる。これはまさにオープニングで、この後、悪党の金持ちはぎゃふんと言わされるのじゃが、今日はその話はしない。泥棒がつかまる所までじゃ」

ブンコ
「ケチくさいなー。でも、全部語られても長くなりそうだしねー」

ぴこ蔵
「それにしても善人の泥棒とはどんな人間じゃろう? どうやれば善人が他人の屋敷に盗みに入るのじゃろう?」

ブンコ
「よっぽどのことがない限りそんなことしないと思うよ」

ぴこ蔵
「わかっとるわい! そのよっぽどのことを起こすのがドラマ作りなのじゃ。まずはストーリーにアクションを付けてやること。強引でも全然かまわない。とにかく泥棒を金持ちの屋敷に押し込んでやるのじゃ!」

●泥棒の前科がある男がいる。
男が町を歩いていると黄金の鍵を拾う。
それには金持ちの名前と「金庫の鍵」という名札が付いていた。
男はさっそく金持ちの家に盗みに入る。
ところが金持ちの家にはたくさんの猛犬が放し飼いにされていた。
男は犬に追いかけ回されて捕まってしまう。

ぴこ蔵
「これで何とかストーリーが動き出す。しかし…

『泥棒が鍵を拾う』という馬鹿馬鹿しい偶然。
『鍵に名札が付いている』というあり得ない小道具。
『屋敷に猛犬が放し飼い』という都合のよすぎる状況。

この強引な設定を、おぬしは読者に納得させなければならない。ただし、

『たまたま強運の持ち主である泥棒は鍵を拾った』
『そのうえ持ち主がたまたま整理整頓好きで名札を付けていた』
『しかも、偶然にも大型犬の飼育が趣味の金持ちの屋敷だった』

などと書いたらその瞬間、読者は読むのをやめる」

ブンコ
「え~っ!? なんでなんで?」

ぴこ蔵
「『偶然』が2度も3度も重なることを『奇跡』と呼ぶ。例えばO・ヘンリーの「緑の扉」のように『奇跡』そのものが明確なテーマである話を除いて、そんなにたびたび奇跡が起こる物語なんてつまらないではないか。とたんに読者はこの物語が作り物であると感じて醒めてしまう」

ブンコ
「確かにねー。他人が3回も宝くじを当てた話はムカツクよう」

ぴこ蔵
「ところが、泥棒に鍵を拾わせたのも、鍵に名札をつけておいたのも、屋敷にちょうど猛犬を放っていたのも、すべて金持ちが仕組んだ罠だったとすればどうじゃ?」

ブンコ
「ワザとだったら納得できる! 罠だったのかー! 悪い奴だなー」

ぴこ蔵
「罠を仕掛けるような金持ちはじゅうぶん悪党っぽいじゃろ? あとは泥棒が善人であるような理由を作ればよいのじゃが、おぬしならどう設定する?」

ブンコ
「子供が病気で、お金が欲しくてやむを得ずっていうのはどう?」

ぴこ蔵
「どんな理由であっても犯罪は犯罪じゃが、ま、この場合は金持ちが罠を仕掛けているということもあるので、読者の同情もひけるじゃろう。その理由で行ってみよう。

では、いよいよ主人公は罠の待ち受ける屋敷へ侵入するのじゃ!」

ブンコ
「待ってよ! 罠が待ち受けてるってことを読者に伝えるにはどうするの? 主人公は『金持ち』が罠を仕掛けていることなんて知らないよ。主人公が知らないことはどこに描けばいいの?」

ぴこ蔵
「そこで二人の視点を別々に描くのじゃ。

主人公の視点(●)と、金持ちの視点(▲)。
2つの物語が並行して進んでいって、やがて交わる。(●▲) 」

ブンコ
「●主人公の男の話が「主線(メインプロット)」、
▲金持ちの話が「並行線(サブプロット)」ということになるんだね」

ぴこ蔵
「わかりやすくするために交互に描いてみよう」

●主人公がいる。貧乏である。
主人公には前科があった。その世界ではちょいと名の売れた泥棒だったのだ。
しかし、主人公は10年前に捕まり、長い間刑務所暮らしをした。
▲そんな前科持ちの主人公の資料を机の上に広げて
葉巻をくゆらしている金持ちがいる。
彼はさらなる金儲けのために、あるものを盗みたがっていた。
そのために腕のいい泥棒がひとり欲しい。
そこで主人公に狙いをつけたのだ。

●今は2歳になる娘が生まれて以来、
主人公はもう二度と泥棒はやらないと決めていた。

▲金持ちはたくさんの猛犬と訓練士を雇い入れ、屋敷の中に放ち、
人間を追い込む訓練をはじめる。

●主人公は苦悩していた。
娘が重い病気なのだ。高価な薬を飲ませれば治るという。
だが、主人公にはその金がなかった。
▲金持ちは今度は、巨大な黄金色の金庫を作らせ、
町中を目立つように練り歩かせてから自分の屋敷に運びこませた。

●前科持ちの身では、高い給料がもらえる仕事にはありつけない。
主人公は目を光らせて金持ちの金庫を見つめていた。
▲金持ちは次に自分の名前を彫りこんだ黄金の鍵を作り、
「金庫の鍵・予備」という名札を付けて、主人公の目前でわざと落とさせた。

●その鍵を拾った主人公は、ベッドでぐったりする娘の姿を見ながら
何事かを考えていたが、その夜、ついに金持ちの屋敷に忍び込んだ。

▲●待ち構えていた金持ちの合図とともに、たくさんの猛犬が放たれた。
主人公は犬に追いかけ回されて捕まってしまう。

▲●そこへ金持ちが現れ、自分の計画への協力を要請する。
「断ればお前はまた刑務所行きだ」
主人公は仕方なくうなずく。

ぴこ蔵
「以上じゃ。どうじゃな? 悪い金持ちのベタな作戦を笑いながらも、手に汗握るなかなか面白い展開にふくらんだのじゃ」

ブンコ
「つまり、一つの事件を二つ以上の視点から見て進行することで、主人公の行動と同時に起こっている裏の出来事や迫りつつある危機がわかるわけだね!」

ぴこ蔵
「これから主人公を襲う危険の予告ができるから読者はハラハラドキドキ。サスペンスがぐっと盛り上がるのじゃ!」

ブンコ
「これなら主人公がのんびりしていても、読者は陰で進行している悪事のことを忘れないよね!」

ぴこ蔵
「これが並行線の効果なのじゃ!」

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