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伏線と並行線(2)

並行線を挿入するタイミング

ぴこ蔵
「前述の例ではわかりやすくするために交互にポンポンと入れてみたが、本来はやはり主線の叙述がメインであることは忘れぬようにな」

ブンコ
「なんか映画みたい」

ぴこ蔵
「映画では緊迫感を出すために、カットバックを多用することがあるが、小説の場合は、よほど特殊な場面を除き、あまりやりすぎないようにしないと読みにくくなるぞ。注意せよ」

ブンコ
「あのさー、主線に並行線を挿入するためには、どんなタイミングでどのくらいの回数が適当なの?」

ぴこ蔵
「それには実は主線と並行線の心理的、物理的な距離が関係してくる」

ブンコ
「なんだそりゃー!?」

ぴこ蔵
「文章だけで説明するよりも、図解した方がわかりやすいので、こちら↓の図を見て欲しい。

 

ブンコ
「なんなんだー、このカマボコの切り口みたいな絵は?」

ぴこ蔵
「下の直線が主線。上の曲線が並行線じゃ」

ブンコ
「上の線はなんで曲がってんの?」

ぴこ蔵
「図面上の主線と並行線との距離は、そのままストーリー上での主人公と並行キャラとの距離にあたる」

ブンコ
「つまり、遠くにいるってこと?」

ぴこ蔵
「うむ。物理的な意味でも、心理的な意味でも遠くにいるのじゃ。オープニングでは同じところにいるが、徐々に離れていく」

ブンコ
「オープニングで同じところにいるって? だって、まだ知らない同士なんじゃないの?」

ぴこ蔵
「上記の例をよく読んでみるのじゃ。オープニングで、主人公と金持ちが同じシーンに登場しておる」

ブンコ
「あ! 主人公の資料が金持ちの机の上にある! これが『同じ場面に登場する』ということかー!」

ぴこ蔵
「こうやってオープニングでしっかり印象に残るように二人の関係が語られておれば、その後は全然からまなくても読者は忘れないのじゃ」




ブンコ
「解説図に戻るけど、オープニングが終わって、Aの『大切なものが奪われる事件』が起こる頃には主線と並行線ってけっこう離れてるよねえ?」

ぴこ蔵
「この段階では、主線の人物は並行線の人物のことを知らない場合がほとんどじゃ。知っておっても関係性は薄い」

ブンコ
「一番離れているのはBのところだけど。これはどういうこと?」

ぴこ蔵
「一番離れているということは、ここからまた近づくということじゃ。ここまでは接触しなかった二人の登場人物が、B『主人公が目的を見つけて立ち上がる』ことによってストーリーの流れを反転させ、再接近しはじめるわけじゃ」

ブンコ
「Cの『どんでん返し』の頃には、また猛烈に近づいてきてる!」

ぴこ蔵
「さらに、クライマックスではついに主線と並行線が合流するのじゃ」

ブンコ
「X、Y、Zにはなんの意味があるの?」

ぴこ蔵
「これこそ並行線の挿入ポイントじゃ。主線で起こるA、B、Cそれぞれの出来事の直後に、並行線の状況を描写したシーンを挿入すること。これが最も効果的なのじゃ!」

ブンコ
「場面を並行線に切り替えた隙に、例えば主線の主人公を移動させたりできるしね! 場面転換にも使えるってことだ」




並行線を本格的に作ってみよう

ぴこ蔵
「それでは実際に作ってみよう。素材はおなじみ猫型伝奇ホラー『烏王丸』じゃ!

ブンコ
「またかー!?」

ぴこ蔵
「隅々まで分かっているあらすじじゃからな。まずは仮筋で並行線の挿入ポイントを確認しておこう。

▲印が挿入ポイントじゃ!

(ドラドラⅠ、ウルウルⅠ、フラフラⅠ)
★敵だと思って追い詰めたら、実は別にいた★

▲挿入ポイント:オープニングには必ず並行線を登場させておく。

主人公は、他には替えがたい「大切なもの」を持っている。
主人公のまわりから「大切なもの」が失われる大事件が起こる。

▲挿入ポイント:事件がはじまった直後

「大切なもの」を奪った敵を探し出す必要がある。
「大切なもの」を取り戻すために主人公は立ち上がる。

▲挿入ポイント:主人公が立ち上がった直後

急がなければ、タイムリミットがやってくる!
主人公は「偽敵」を敵だと思い込んで追い詰める。
さまざまな障害が主人公の行く手を阻む。
ところが、追い詰めた「偽敵」は敵ではなかったのだ!
そして、「本敵」が姿を現わす。

▲挿入ポイント:どんでん返しの直後

「本敵」は強烈な欲求に突き動かされていた。
タイムリミットは容赦なく迫り、危地に陥る主人公。

▲挿入ポイント:クライマックスで合流

主人公はついに「本敵」と対決する。
そして、意外な結末を迎える。




ぴこ蔵
「次に、並行線に登場する人物たちを設定しよう」

ブンコ
「えっ? 並行線って『本敵・キナコ』の視点じゃないの?」

ぴこ蔵
「それだと読者にどんでん返しがバレバレになってしまうぞ」

ブンコ
「じゃあ『偽敵・ダイゴロー』の視点?」

ぴこ蔵
「それでもバレるな」

ブンコ
「そしたら全く新しいキャラクターを作るしかないじゃん!」

ぴこ蔵
「そういうことじゃ。ところが、この物語には、すでに話の中では登場しているのじゃが、キャラクターにはなっていない重要な登場人物(組織、集団)が存在する」

ブンコ
「だれ? 100匹のネズミ?」

ぴこ蔵
「違う! 猫の宿敵、烏一族じゃ!」

ブンコ
「ああ、あのアホーがらすたちか!」

ぴこ蔵
「人のことが言えるか! ま、それはともかく、この烏一族を象徴的に表現するキャラクターを設定しようと思う。会話をするために2羽ほど設定しておこうかな。おぬしが名前をつけていいぞ」

ブンコ
「んじゃあ、ガアとクロウ」

ぴこ蔵
「よし。それではガアを年寄りの占い師、クロウを烏一族の若き王としよう」

ブンコ
「それで、どんな並行線を作るの?」

ぴこ蔵
「まずは、すでにある主線の中で、まだ『誰が言うか決まっていないセリフ』や『どんなふうに説明するか決まっていない背景』などを捜すのじゃ」

ブンコ
「あ、そっか。いずれ誰かが語らなきゃいけない事柄だもんね。あたしはただ漠然と「地の文」で説明すればいいかなと思ってたけど、それだとしらけちゃうもんね」

ぴこ蔵
「そうなのじゃ。それをやっちゃあお終いなのじゃ。烏たちにはこの部分こそを語らせるべきなのじゃ。ではさっそく、烏一族の行動内容を考えてみよう」

ブンコ
「それじゃ、この物語のおさらいも兼ねて、「誰が言うか決まっていない」部分には★印をつけてあらすじを紹介するよー!」




『烏王丸』

トラ吉は野良王国の王様。
手下に野良猫たちを従えて平和に暮らしていた。
弟分のチビや、愛人のキナコも幸せそうだ。

トラ吉は、愛する雌猫キナコのため、豪勢な宴会の準備に余念がない。
家来からの食糧難の報告にも耳を貸さず、
逆にまもなく開催されるキナコとの結婚披露大宴会のために
生きたネズミを100匹捕まえてくるように命令する。

そんな時、何者かによってトラ吉のまわりから「烏王丸」が奪われた!

「烏王丸」は王様の象徴であった。

★伝説によると「烏王丸」はその昔、猫族と烏族が大戦争をしたときに
猫族が烏族を破り、当時の族長である大烏を殺し、
その血を固めて作ったとされる。

怨みと魔力のこもった宝石で、おろそかに扱ってはならないとされていた。

その宝玉のおかげでトラ吉は近隣の王国の中でも「由緒正しき大王」と
権威を認められていた。

宝玉が盗まれたとすると、近隣の王たちを集めて行う
結婚披露大宴会に支障が出る。

結婚披露宴までにはあと3日の猶予しかない。

失ったものを取り戻すためにトラ吉は立ち上がる。

弟分のチビに調査させると、以下のような報告が上がってきた。

「ダイゴローは最近どこかからやって来た渡り鳥ならぬ渡り猫。
乱暴者で、王国の国民達も被害を受けております」
トラ吉は大切なものを奪った犯人をダイゴローだとにらむ。

トラ吉は誰にも知られないように、ネズミ狩りだと偽って
ダイゴロー討伐の旅に出た。

ダイゴローを敵だと思い込んで追い詰めた。

ところが、そこに弟分のチビが現れて王を止める。

ダイゴローは本当の敵ではなかった。

弟分のチビによって密かに王国に呼ばれた賢者であった。
ダイゴローは、烏王丸の魔力について知っていた。

烏王丸には邪悪な魔力が封印されていた。

もともとは強い満足感を与える宝玉として重宝されていたが、

実は中毒性があり、これを長期間舐め続けると、習慣性、依存性が現れる。
そしてある日、凶暴な吸血鬼になってしまうのだ。

そして、本当の敵キナコが姿を現した。
配下の猫がそれを報告に来た。

ダイゴローが一振りの剣を差し出した。

★吸血鬼を倒すためには、この剣で、吸血鬼の心臓を刺すしかないのだ。

トラ吉はしかし、それを持たずに立ち去る。

縄張りに戻ると、猫たちに遠巻きに囲まれて、キナコが仁王立ちしていた。
尻尾は二つに割れ、本来は薄茶色の毛皮が漆黒に染まり、
血のように赤い目をしている。

キナコの足元で断末魔の悲鳴が聞こえた。
そこには2匹の野良猫が無残な姿で踏みつけられていた。
「キナコ! なんということだ!」
「トラ吉よ、おめえは知らなかったのかい。烏王丸をしゃぶると、
腹が減らなくなって、おまけに力が強くなるんだぜ。
犬だって前脚の一振りで殺せちまわあ。
でもなあ、そのかわり喉が渇いて生き血が飲みたくなるんだよ。ひひひ」

★キナコは「食欲の欲求」を満足させるために烏王丸を盗み出し、
隠れて舐め続けていたのだ。
そしてキナコは烏王丸を舐めているうちに吸血鬼へと化していた。

トラ吉は壮絶な死闘の末、化け猫となったキナコの胸を剣で刺し貫く。

王国は平和を取り戻す。その後、トラ吉は一生独身で過ごしたという。




ぴこ蔵
「まだ『誰が言うか決まっていないセリフ』や『どんなふうに説明するか決まっていない背景』は以下の3つじゃ」

★伝説によると「烏王丸」はその昔、猫族と烏族が大戦争をしたときに猫族が烏族を破り、当時の族長である大烏を殺し、その血を固めて作ったとされる。

★吸血鬼を倒すためには、この剣で、吸血鬼の心臓を刺すしかないのだ。

★キナコは「食欲の欲求」を満足させるために烏王丸を盗み出し、隠れて舐め続けていたのだ。
そしてキナコは烏王丸を舐めているうちに吸血鬼へと化していた。

ブンコ
「これを占い師ガアや烏王クロウが説明すればいいのね?」

ぴこ蔵
「うむ。しかし、並行線の役割はそれだけではないぞ。これから起こる惨劇の予告や、クライマックスシーンの盛り上げもせねばならん」

ブンコ
「司会進行かー。責任重大だねー」

ぴこ蔵
「見方を変えれば、非常においしいキャラクターなのじゃ。それでは、その行動の内容を考えてみよう」

ブンコ
「並行線のオープニングは、烏の占い師ガアが猫一族の未来を予言するところがいいと思いまーす」

ぴこ蔵
「ふむふむ。その内容は?」

ブンコ
「ずばり、惨劇の予告。誰かが烏王丸を狙っているという話や、近々猫族に恐ろしいことが起こるという怖い前フリがいいのでは」

ぴこ蔵
「それでは次の挿入ポイント、『烏王丸が奪われた直後』にはどんな並行線が入る?」

ブンコ
「★印の部分から“烏王丸の伝説”の紹介。あと、この辺で何かアクションがほしいなー。烏王クロウが猫族の様子を見に飛び立つってのはどう?」

ぴこ蔵
「なるほど、なかなか良いではないか。では、その次、『主人公が立ち上がった直後』はどうする?」

ブンコ
「この時点では、読者はダイゴローを疑っているわけだよね。だから、その疑惑に拍車をかけるような動きをさせる!」

ぴこ蔵
「というと、どうすれば読者はダイゴローを敵だと思うかな?」

ブンコ
「猫族の旧敵である烏族とつながりがあるような印象を与えるのよ。ダイゴローめは猫族を裏切って烏族と内通しているぞ、みたいな」

ぴこ蔵
「烏王クロウとダイゴローが謎めいた会話をするとかな。よし、それでは次じゃ! 『どんでん返しの直後』はなんとする?」

ブンコ
「ここまで来ればもう真犯人の正体がバラせるね。★印の部分から『キナコが吸血鬼になる』ことを予告する」

ぴこ蔵
「さあ、それでは最後のクライマックス、烏王クロウは猫たちの戦いにどうからむ?」

ブンコ
「烏の軍団を引き連れて、吸血鬼と化したキナコに上空から攻撃を仕掛けるというのはどうかなー?」

ぴこ蔵
「そりゃまた一体何のためにじゃ? なぜ猫族を助けるのじゃ?」

ブンコ
「猫とは仇敵でも見殺しにしてはいかんという決まりがあるのよ。それが烏王丸の取り決めなの。
仲が悪くても協力しなければダメなのよ。お互いに。吸血鬼は倒さなければならない敵なの。悪魔なの」

ぴこ蔵
「よし、それを文章にするのじゃ!」




ブンコ
「▲の部分が、並行線として新たに付け加えた部分です。原型の文章も、並行線との関係で少し改訂しています!」

『烏王丸』あらすじ

▲烏の根城である森の高い木の上で1羽の烏が瞑想している。
烏族の占い師ガアである。
ガアは近々猫族に恐ろしいことが起こることを占う。
「烏王丸の呪いが目を覚ます…」

トラ吉は野良王国の王様。
手下に野良猫たちを従えて平和に暮らしていた。
弟分のチビや、愛人のキナコも幸せそうだ。

トラ吉は、愛する雌猫キナコのため、豪勢な宴会の準備に余念がない。
家来からの食糧難の報告にも耳を貸さず、
逆にまもなく開催されるキナコとの結婚披露大宴会のために
生きたネズミを100匹捕まえてくるように命令する。

そんな時、何者かによってトラ吉のまわりから「烏王丸」が奪われた!

「烏王丸」は王様の象徴であった。

▲占い師ガアは若き烏王クロウに予言の話をしている。
「我々烏族の伝説によると「烏王丸」はその昔、
猫族と烏族が大戦争をしたときに
猫族が烏族を破り、当時の族長である大烏様を殺し、
その血を固めて作ったとされる宝玉でございます。
これを機に両族の間では戦争を止めたという契約が結ばれました」
「猫族にとっては武勇の証、我ら烏族にとっては屈辱の印。
できれば歴史から消し去ってしまいたいものだ…猫どもめ」
そう言うと烏王クロウは大きな黒い翼を広げて飛び立った。

トラ吉は腹心のチビに語る。
怨みと魔力のこもった恐ろしい宝石ではあるが、
おろそかに扱ってはならないとされてきた『烏王丸』のおかげで
トラ吉は近隣の王国の中でも「由緒正しき大王」として
その王位の権威を認められていた。

それなのに、宝玉が盗まれたとすると、近隣の王たちを集めて行う
結婚披露大宴会に支障が出るではないかとトラ吉は歯噛みする。

結婚披露宴までにはあと3日の猶予しかない。

失ったものを取り戻すためにトラ吉は立ち上がる。

▲その頃、深い森の奥、ダイゴローと呼ばれるはぐれ猫が
烏王クロウと謎めいた会話を交わしていた。
「猫族は烏の呪いの恐ろしさを知ることとなるだろう」
「多くの猫の血が流れることになるでしょう」

トラ吉のもとに、ダイゴローに関する報告が上がってきた。

「ダイゴローは最近どこかからやって来た渡り鳥ならぬ渡り猫。
正体の知れぬ不気味な猫で、烏と話をしているところを目撃したものもおります」
トラ吉は大切なものを奪った犯人をダイゴローだとにらむ。

トラ吉は誰にも知られないように、ネズミ狩りだと偽って
ダイゴロー討伐の旅に出た。

ダイゴローを敵だと思い込んで追い詰めた。

ところが、そこに弟分のチビが現れて王を止める。

ダイゴローは本当の敵ではなかった。
それどころか、ダイゴローは弟分のチビによって密かに王国に呼ばれた
猫の賢者であった。
ダイゴローは、烏王丸の魔力について知っていた。

烏王丸には邪悪な魔力が封印されていた。
もともとは強い満足感を与える宝玉として重宝されていたが、
実は中毒性があり、これを長期間舐め続けると、習慣性、依存性が現れる。
そしてある日、凶暴な吸血鬼になってしまうのだ。

そして、ついに本当の敵キナコが化け物となって姿を現した。
配下の猫がそれを報告に来たが、トラ吉は信じようとしない。

▲ダイゴローはここでトラ吉に烏王クロウを紹介する。
烏王クロウはトラ吉に鳥達が見た情報を伝える。
「烏王丸を盗み出したのは確かにキナコと呼ばれている雌猫だ。
キナコは「食欲の欲求」を満足させるために烏王丸を盗み出し、
隠れて舐め続けていたのだ。
そしてキナコは烏王丸を舐めているうちに吸血鬼へと化したのだ」

それを聞いたトラ吉はクロウに謝罪する。
「祖先の契約の徴しである烏王丸を紛失して申し訳ない。
この命に換えても必ず奪還する。契約とはそういうものだ」

ダイゴローが一振りの剣を差し出す。

▲「吸血鬼を倒すためには、この剣で心臓を刺すしかありません」

しかしトラ吉は首を振ると剣を持たず黙って立ち去る。

縄張りに戻ると、猫たちに遠巻きに囲まれて、キナコが仁王立ちしていた。
尻尾は二つに割れ、本来は薄茶色の毛皮が漆黒に染まり、
血のように赤い目をしている。

キナコの足元で断末魔の悲鳴が聞こえた。
そこには2匹の野良猫が無残な姿で踏みつけられていた。
「キナコ! なんということだ!」
「王様、あたしはただ淋しかっただけなの。あなたのお気持ちが離れていくのが」
「馬鹿を申せ。わしはお前を変わらず愛しておる」
キナコの目から血の涙が噴き出した。
「もう遅いのだ! トラ吉よ、世間知らずの貴様は知るまい。
女という生き物はな、胸が空っぽになるとと腹が減るのだ。
ところが、烏王丸をしゃぶると、
腹が減らなくなって、おまけに力が強くなる。
犬だって前脚の一振りで殺せるほどに。
だがな、そのかわり喉が渇いて生き血が飲みたくなるのだ。ひひひ」

▲吸血鬼となったキナコは恐ろしく強く狂暴だった。
多くの猫たちが命を失い、トラ吉さえも危うくなったその時、
空中から烏たちが急降下し、トラ吉の窮地を救った。

烏王クロウが叫んだ。
「烏王丸はわが先祖の血! そして契約!
お前達がそれを奉ずる限り、我等烏族は猫族と共にある!」

その時、チビが駆け寄ると
あの吸血鬼殺しの剣をトラ吉に差し出した。
「哀れなキナコのためにもこの剣をお取りください」

トラ吉はその剣をとると、化け猫となったキナコの胸を刺し貫く。

王国は平和を取り戻す。その後、トラ吉は一生独身で過ごしたという。

ぴこ蔵
「こんな感じじゃ。ドラマが生き生きしてきたのではないかな?」

ブンコ
「なかなかいいホラ話になったよ」

ぴこ蔵
「ホラーじゃ!」




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伏線と並行線(1)

伏線について

ぴこ蔵
「ブンコちゃんよ! 何ぞ面白いアイデアは浮かんだかな?」

ブンコ
「こんなのはどうかなー? 主人公が道を歩いていて、偶然、手帳を拾うの。その手帳には、近所の家の住所を書いてる。で、主人公がなんとなくその家の前を通りかかるんだけど、偶然その時、持ち主は留守なの。でも、偶然、持ち主が鍵をかけ忘れてたもんで主人公はなんとなく家の中に入っちゃうのよね。

そしたら偶然持ち主が帰ってきて主人公はあわてて隠れるの。それでクローゼットからのぞいてたらその家に住んでいるのはなんと偶然にも昔の初恋の人だったのよ。

でも、泥棒だと思われるから出るに出れないの。そのうちにとうとう初恋の人がクローゼットを開く。どう? ちょっとロマンチックなコメディーでしょ?」

ぴこ蔵
「“なんとなく”とか“偶然”が多すぎる!」

ブンコ
「えへへ! やっぱりなー」

ぴこ蔵
「物語において最も慎重にならなければならないのがこの『偶然』の使い方じゃ。例えば、主人公にあることをさせたいとする」

ブンコ
「どうしても初恋の人とクローゼットで再会させたいんだよねー」

ぴこ蔵
「しかし、その目的を果たすまでに偶然は2回も3回も起こってはならない。さすがにどんな辛抱強い読者も怒り出すぞ」

ブンコ
「じゃーどーすりゃいいのさー」




ぴこ蔵
「偶然が重なりそうな時は、できるだけ『必然』に転化すること。そしてそうなった理由をあらかじめ読者に見せておくこと。なお、いくつもの偶然をまとめて処理したいときには流れを自動化しておくことがコツなのじゃ」

ブンコ
「自動化って何? ベルトコンベアみたいなもの?」

ぴこ蔵
「そうじゃ。この場合は例えば、

初恋の人が技術者で、たまたま『完全自動帰宅システム』みたいなものを研究中。しかし未完成でうまく動かない…という設定を見せておく。

玄関で機械に手帳のバーコードを読ませると、自動的にドアが開き、歩道が動き、コートを脱がせ、それをクローゼットに仕舞ってくれる装置。

ところが、未完成で、コートの代わりに人間をクローゼットに叩き込んで閉じ込めてしまうのじゃ。

そうすると、主人公が手帳を取り出せば後は自動的に事が進み、クローゼットに…ということを読者が予測できるわけじゃ」

ブンコ
「先にそういう仕掛けを作って、見せておくのかー。でも、なんでそんなことを?」

ぴこ蔵
「こうしておけば、読者は『唐突感』に襲われずにすむ。前もって知っていたからすでにその道具の意味も理解済みなのじゃ。手に入れてからいちいち説明する手間も省けるので、ストーリーのテンポを崩すことがない」

ブンコ
「こんな仕組みがあったら繰り返して使っても面白いしねー」

ぴこ蔵
「こういう風にあらかじめ自動装置を前フリしておくことを『伏線を敷く』というわけじゃな」

ブンコ
「これが伏線かー!」

ぴこ蔵
「ただし“伏線”というのはいったん忘れさせることが重要である。なぜなら、「忘れた」ものは「思い出す」ことができるからである。この「思い出す」という作業が読者の心を奪うポイントなのじゃ」

ブンコ
「なんでわざわざそんなことするの?」

ぴこ蔵
「何かを思い出した時、人間はハッとするじゃろ? その瞬間、思わず我を忘れて夢中になってしまうものなのじゃ。それが人間の脳の仕組みなのじゃ」

ブンコ
「伏線敷いたら、ちょっと他の話でもして間を置くわけね?」

ぴこ蔵
「面白いと感じさせるストーリー作りとは、こういう『脳の仕組み』を利用する仕掛けをいくつも積み重ねて、人の心を夢中にさせていくことなのであーる」

ブンコ
「手品師みたいなもんかなー?」

ぴこ蔵
「言えておるな。手品師の技術と科学者の冷徹な眼が必要なのである」

ブンコ
「でも、ちょっと詐欺師みたいでもあるなー」




並行線について

ぴこ蔵
「オホン。ところで、物語には、この伏線と同じような機能を持ち、伏線よりもさらに長大で重要なサブストーリーが必要になる場合が少なくない。それが今回のテーマ『本筋と並行して進む物語』である」

ブンコ
「つまり同時進行するでっかい伏線だね!」

ぴこ蔵
「見よう見まねですでに無意識に使っている人もけっこういると思うが、意識的に使えればそれに越したことはない。それではすぐに使えるように実践的な例を示そう。お題はこれ!」

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●金持ちが泥棒をつかまえる話

↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

ブンコ
「金持ちが泥棒をつかまえる?」

ぴこ蔵
「この素材で面白いストーリーのオープニングを作ることにしよう。普通に考え付くのは【泥棒が金持ちの屋敷に忍び込んで、へまをしてつかまる】みたいな話であろう」

ブンコ
「うーん、あまりふくらまないなー」

ぴこ蔵
「面白くするためには、本物の泥棒の技術を学んでそのノウハウの面白さで盛り上げるという手もあると思うが、それならむしろノンフィクションを書いたほうがよいのじゃ」

ブンコ
「あたしのように一流ストーリーテラーを目指すものとしてはこれじゃ物足りないなー。ぴこ蔵師匠、なんかない?」

ぴこ蔵
「それでは登場人物のキャラを少しひねってみよう。「裏切りあう言葉」の技を使ってみるのじゃ。こういうのはどうじゃろう? 『善人の泥棒、悪党の金持ち』 するとこうなる…」

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

●悪党の金持ちが善人の泥棒をつかまえる話

↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

ぴこ蔵
「どうじゃ? 少しはインパクトが出てきたじゃろ?」

ブンコ
「なんか水戸黄門の前半30分みたいな話だなー」

ぴこ蔵
「うん、言えておる。これはまさにオープニングで、この後、悪党の金持ちはぎゃふんと言わされるのじゃが、今日はその話はしない。泥棒がつかまる所までじゃ」

ブンコ
「ケチくさいなー。でも、全部語られても長くなりそうだしねー」

ぴこ蔵
「それにしても善人の泥棒とはどんな人間じゃろう? どうやれば善人が他人の屋敷に盗みに入るのじゃろう?」

ブンコ
「よっぽどのことがない限りそんなことしないと思うよ」

ぴこ蔵
「わかっとるわい! そのよっぽどのことを起こすのがドラマ作りなのじゃ。まずはストーリーにアクションを付けてやること。強引でも全然かまわない。とにかく泥棒を金持ちの屋敷に押し込んでやるのじゃ!」

●泥棒の前科がある男がいる。
男が町を歩いていると黄金の鍵を拾う。
それには金持ちの名前と「金庫の鍵」という名札が付いていた。
男はさっそく金持ちの家に盗みに入る。
ところが金持ちの家にはたくさんの猛犬が放し飼いにされていた。
男は犬に追いかけ回されて捕まってしまう。

ぴこ蔵
「これで何とかストーリーが動き出す。しかし…

『泥棒が鍵を拾う』という馬鹿馬鹿しい偶然。
『鍵に名札が付いている』というあり得ない小道具。
『屋敷に猛犬が放し飼い』という都合のよすぎる状況。

この強引な設定を、おぬしは読者に納得させなければならない。ただし、

『たまたま強運の持ち主である泥棒は鍵を拾った』
『そのうえ持ち主がたまたま整理整頓好きで名札を付けていた』
『しかも、偶然にも大型犬の飼育が趣味の金持ちの屋敷だった』

などと書いたらその瞬間、読者は読むのをやめる」

ブンコ
「え~っ!? なんでなんで?」

ぴこ蔵
「『偶然』が2度も3度も重なることを『奇跡』と呼ぶ。例えばO・ヘンリーの「緑の扉」のように『奇跡』そのものが明確なテーマである話を除いて、そんなにたびたび奇跡が起こる物語なんてつまらないではないか。とたんに読者はこの物語が作り物であると感じて醒めてしまう」

ブンコ
「確かにねー。他人が3回も宝くじを当てた話はムカツクよう」

ぴこ蔵
「ところが、泥棒に鍵を拾わせたのも、鍵に名札をつけておいたのも、屋敷にちょうど猛犬を放っていたのも、すべて金持ちが仕組んだ罠だったとすればどうじゃ?」

ブンコ
「ワザとだったら納得できる! 罠だったのかー! 悪い奴だなー」

ぴこ蔵
「罠を仕掛けるような金持ちはじゅうぶん悪党っぽいじゃろ? あとは泥棒が善人であるような理由を作ればよいのじゃが、おぬしならどう設定する?」

ブンコ
「子供が病気で、お金が欲しくてやむを得ずっていうのはどう?」

ぴこ蔵
「どんな理由であっても犯罪は犯罪じゃが、ま、この場合は金持ちが罠を仕掛けているということもあるので、読者の同情もひけるじゃろう。その理由で行ってみよう。

では、いよいよ主人公は罠の待ち受ける屋敷へ侵入するのじゃ!」

ブンコ
「待ってよ! 罠が待ち受けてるってことを読者に伝えるにはどうするの? 主人公は『金持ち』が罠を仕掛けていることなんて知らないよ。主人公が知らないことはどこに描けばいいの?」




ぴこ蔵
「そこで二人の視点を別々に描くのじゃ。

主人公の視点(●)と、金持ちの視点(▲)。
2つの物語が並行して進んでいって、やがて交わる。(●▲) 」

ブンコ
「●主人公の男の話が「主線(メインプロット)」、
▲金持ちの話が「並行線(サブプロット)」ということになるんだね」

ぴこ蔵
「わかりやすくするために交互に描いてみよう」

●主人公がいる。貧乏である。
主人公には前科があった。その世界ではちょいと名の売れた泥棒だったのだ。
しかし、主人公は10年前に捕まり、長い間刑務所暮らしをした。
▲そんな前科持ちの主人公の資料を机の上に広げて
葉巻をくゆらしている金持ちがいる。
彼はさらなる金儲けのために、あるものを盗みたがっていた。
そのために腕のいい泥棒がひとり欲しい。
そこで主人公に狙いをつけたのだ。

●今は2歳になる娘が生まれて以来、
主人公はもう二度と泥棒はやらないと決めていた。

▲金持ちはたくさんの猛犬と訓練士を雇い入れ、屋敷の中に放ち、
人間を追い込む訓練をはじめる。

●主人公は苦悩していた。
娘が重い病気なのだ。高価な薬を飲ませれば治るという。
だが、主人公にはその金がなかった。
▲金持ちは今度は、巨大な黄金色の金庫を作らせ、
町中を目立つように練り歩かせてから自分の屋敷に運びこませた。

●前科持ちの身では、高い給料がもらえる仕事にはありつけない。
主人公は目を光らせて金持ちの金庫を見つめていた。
▲金持ちは次に自分の名前を彫りこんだ黄金の鍵を作り、
「金庫の鍵・予備」という名札を付けて、主人公の目前でわざと落とさせた。

●その鍵を拾った主人公は、ベッドでぐったりする娘の姿を見ながら
何事かを考えていたが、その夜、ついに金持ちの屋敷に忍び込んだ。

▲●待ち構えていた金持ちの合図とともに、たくさんの猛犬が放たれた。
主人公は犬に追いかけ回されて捕まってしまう。

▲●そこへ金持ちが現れ、自分の計画への協力を要請する。
「断ればお前はまた刑務所行きだ」
主人公は仕方なくうなずく。

ぴこ蔵
「以上じゃ。どうじゃな? 悪い金持ちのベタな作戦を笑いながらも、手に汗握るなかなか面白い展開にふくらんだのじゃ」

ブンコ
「つまり、一つの事件を二つ以上の視点から見て進行することで、主人公の行動と同時に起こっている裏の出来事や迫りつつある危機がわかるわけだね!」

ぴこ蔵
「これから主人公を襲う危険の予告ができるから読者はハラハラドキドキ。サスペンスがぐっと盛り上がるのじゃ!」

ブンコ
「これなら主人公がのんびりしていても、読者は陰で進行している悪事のことを忘れないよね!」

ぴこ蔵
「これが並行線の効果なのじゃ!」




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