仮筋
面白いストーリーを素早く効率的に作るためには どんでん返しを組み込んだ「あらすじ」の原型が必要です。 今後、ご自分でいろいろ研究して、自分だけの必殺パターンを 作り上げることをおすすめいたします。例えばその一つが、これから紹介する「 仮筋 」です。
「仮筋」は、秘伝と奥義をたっぷり詰め込んだ、物語の濃縮エキスです。タイプごとに異なる「どんでん返し」をきっちり成立させるためにはどのタイプならどの段階でどんな伏線を張っておくべきか? 事件はどんな順番で起こらねばならないか? そんな、ストーリーの「定石」を誰にでもわかりやすい形式にして組み立ててあります。
「仮筋」こそは「型」です。秘伝中の秘伝です。どんでん返しを無理やり物語に挿入するのではなく、物語をどんでん返しから自然に作り上げる黄金の型なのです。この仮筋を元にあらすじを作ってみてください。
娯楽作品として読者を楽しませるために不可欠なポイントが示されますので、「面白い物語」の創り方を効率よく身につけることが出来ます。
どんでん返しTYPE01の仮筋と実例
<TYPE01>(ドラドラ1、ウルウル1、フラフラ1)
★敵だと思って追い詰めたら、実は別にいた★
◆仮筋◆
主人公は、他には替えがたい「大切なもの」を持っている。
主人公のまわりから「大切なもの」が失われる大事件が起こる。
「大切なもの」を奪った敵を探し出す必要がある。
「大切なもの」を取り戻すために主人公は立ち上がる。
急がなければ、タイムリミットがやってくる!
主人公は「偽敵」を敵だと思い込んで追い詰める。
さまざまな障害が主人公の行く手を阻む。
ところが、追い詰めた「偽敵」は敵ではなかったのだ!
そして、「本敵」が姿を現わす。
「本敵」は強烈な欲求に突き動かされていた。
タイムリミットは容赦なく迫り、危地に陥る主人公。
主人公は危地から脱出し、ついに「本敵」と対決する。
そして、意外な結末を迎える。
▲構造上の特徴▼
読者をだますための囮である「偽敵」と、本当の敵である「本敵」が同じタイプである場合、「えっ? 本当に悪いのは主人公だったの?」みたいな、主人公のアイデンティティーに関わる深甚な衝撃はなかなか仕掛け難いものである。
そこで、「敵の意外な正体」を設定するという方法をとる。まるでノーマークだった人物が、最後の最後に、主役に踊り出るのである。これが「正体探し」の王道であり、最も多用されるノーマルなプランなのじゃ。
これには「こいつの存在を忘れていた」という「盲点」を突く技と、「こいつは絶対に敵ではないはずである」という「誤解(錯覚)」を招く技がある。
ベタな例だが、前者(盲点)は「貴族のパーティーが行われている会場にいる小間使い」のように
ついその存在を員数外に置きがちな人物を設定するパターンである。
後者(誤解)の代表格は「連続殺人事件で3人殺されたうちの2番目の被害者が殺人犯」みたいに
「一見、論理的にありえない」と思われるパターン。
この手のトリックは出尽くしたと言われるが、要はいかに「型」をドラマティックに使うかであり、また逆に、よく知られた定石を使うと見せかけて裏をかくという手もあるのである。
いずれにせよ、「型」や「定石」を知らなければ話にならないので、この手のトリックを仕掛けたいのならクリスティーでも読んで基礎を学ぶことを勧める。応用として「目的のものを隠す場所」にもこの技は有効である。「木は森の中に隠せ」というやつである。
▲解説▼
【TYPE01】のどんでん返しは”犯人当て”のためのものです。「ミステリー」と呼ばれるジャンルで多用されるパターンです。「意外な敵」が登場する物語を作りたい時に使ってください。もちろんミステリーだけで使われるわけではありません。
例えば…時代小説の名手・藤沢周平。『隠し剣孤影抄』(文春文庫)に収録されている「暗殺剣虎ノ眼」という短編などでこのどんでん返しが見られます。
詐欺師を題材にした傑作映画『スティング』で「主人公を追う殺し屋の正体」に仕掛けられたどんでん返しもこのタイプでした。成功のポイントは盲点を突くことです。
さて、それでは、あらすじの作り方の手順とともにぴこ蔵の実例作品を見ていただきましょう。どうやって話をふくらましていくかを見てください。