吸血鬼が教えてくれる“高品質な恐怖”の描き方


ホラーのエースである吸血鬼には伝統的な弱点がある。日光、鏡、墓場の土など。ところが安易な吸血鬼キャラにはその制約が効果的に使われていない。制約こそが魅力を生むことを忘れるな!

吸血鬼ブームは永遠に

2000年から2010年まで、エンタメ先進国アメリカに第1次(笑)吸血鬼ブームが吹き荒れました。

大ブレイクした映画の原作小説『トワイライト』(ステファニー・メイヤー著)。ローレル・ハミルトン著の吸血鬼ロマンス『Skin Trade』。高視聴率を誇る吸血鬼コメディドラマ『トゥルーブラッド』とその原作、シャーレイン・ハリス著『Dead and Gone』。

スリラー・ミステリー『The Strain』は、アカデミー賞受賞監督ギレルモ・デル・トロと作家チャック・ホーガンとの共著で吸血鬼VS人間の戦いを描いた三部作からなる小説。文庫版邦題は『沈黙のエクリプス』『暗黒のメルトダウン』『永遠の夜』(いずれも上下巻/早川書房)。注目のTVシリーズは2014年の夏にアメリカで放映されるとか。これでまた第2次ブームが来るのではないかと楽しみであります(^^


これらがいずれもベストセラーとなっています。

棺の中で太陽を避けて眠るカビの生えた『吸血鬼』は、いまやイケメンや美少女となり、ヒーローの側面と同時に闇の顔も持つ、まさに時代が求める『クール』の象徴的な存在となっています。

実は、ぴこ蔵宛てに送られてくる作品に登場するキャラクターの中でも特に多いのがこの『吸血鬼』なのです。女子高生だったりイケメンだったり老人だったり。いろんなバリエーションの吸血鬼が続々と登場します。ところが、せっかく生まれた吸血鬼キャラなのにそのほとんどがあまり記憶に残らないのです。吸血鬼ストーリーの数自体が多いのもその一因ですが、それだけではありません。

提出された吸血鬼のあらすじを読んでいてもっとも問題だと感じるのは「これはとりあえず吸血鬼属性のキャラです……」という感じで大雑把に処理されていて、その特徴を生かしたストーリーになっていないことです。

つまり、吸血鬼であることが話の面白みにつながっていないのです。

吸血鬼キャラを選んだ意味はあるか?

面白い物語創作の流れとして、ストーリーの根幹が決まったら、次にキャラを作ります。ただ、それほど間が空くわけではありません。ほぼ同時に閃いたように感じられることも少なくないでしょう。どちらかといえば「ストーリーからの要請をキャラの完成よりも優先するように意識する」ぐらいの感覚でしょうか。

しかし、この微妙な順番がとても大事なのです。ストーリーの核心が決まっていないうちにキャラを先行して固めてしまってはいけません。もちろん不可能ではありませんが、この方法だと後からストーリーを変更しようとする時にとても大変なのです。ストーリーを変えようとするとかなりの確率で登場人物のキャラ変更につながります。

例えば、「ある特徴を持った人を見つけると殺さずにはいられない快楽殺人者が、その条件を満たす人物を殺す」というストーリーだったとします。ところが『どんでん返し』のためのトリックを仕掛けるという理由から「その被害者をあえて生かしておく」というストーリーに変更することになったとします。

そのために、『快楽殺人者』ではなく『職業的な殺し屋』にキャラを変更しなければならなくなるわけです。狂気の情熱で刹那的に行動する人物から、完璧な計算に基づいて冷酷に人を殺す人物に交代するわけです。

真反対の人物になるわけですから、当然、前者のキャラクターは消滅します。

しかし、すでに自分の分身となってしまっている登場人物の場合、(せっかく作ったキャラをなかったことにするなんて無理……)と執着しがちなのです。そうするとどうなるか?

「キャラの魅力である快楽殺人者の情熱を残すために、ストーリーの変更をやめよう。どんでん返しはやらない!」

こうして展開の面白さよりも、好きなキャラクターへの執着を優先するがゆえに、魅力の乏しい陳腐なストーリーへの回帰に走ってしまうのです。

物語というのは始めるよりも終わらせるのが百倍も難しいわけですが、完成されたキャラクターは頑固です。自分の話をなかなかお開きにしたがりません。読者にとって興味のある話かどうかに関わらず、だらだらとしゃべりたがるのであります。作り手がかなりキャリアを積んでキャラに惑わされないコツを掴んでいないとコントロール出来なくなります。

設計図を持たずに話を膨らませていくと、吸血鬼であるがゆえの『タイムリミット』であるとか、その弱点を生かした『障害物』とか。あるいは吸血鬼ならではのリスクを逆手に取った『切り札』などの、面白い物語を形作るさまざまな要素の大半が『連動』しきれないままに終わってしまうのです。

吸血鬼であることが『物語を面白くする要素』とうまく絡み合って連動しないのであれば、そのキャラクターにした意味がありません。いわゆる「書きたいから書いた」という自己満足に終わります。必然性のないキャラを出すと辻褄合わせが大変です。「このキャラを使いたいから」というのは作者の都合に過ぎません。しっかりとストーリーと絡めてこそのキャラ立てなのです。

どうすればキャラを立てられるのか?

しかし、書くべきことがはっきり見えたとき、1の話を10倍魅力的にするのがキャラクターの力です。とくに漫画ではキャラの力が作品の評価を決定します。そこで今回は、人気キャラの代表格である吸血鬼を使っていかに物語を面白くするかについて考えてみましょう。

作者がはっきり決めておくべきなのは「なぜそいつは吸血鬼キャラなのか?」ということです。

「血を吸われる恐ろしさを読者に感じて欲しいから」とか「暗黒世界をスタイリッシュに楽しんでもらいたいから」とか、あえて吸血鬼を選んだ理由があるはず。その『理由』を具体化して前面に打ち出さなければ、吸血鬼モノの面白さは読者に伝わりません。

特に吸血鬼でなくても、狼男でも雪女でもかまわないようにしか思えない、あまりにも必然性のない設定が多いのです。吸血鬼を登場させるのなら吸血鬼らしさを活かさないと、まるでハロウィンの仮装行列みたいな、底が浅くて現実感のない登場人物になってしまいます。

ならば、吸血鬼を書くコツとは何でしょうか? それは、思わず吸血鬼の実在を信じてしまうような『リアリティ』を読者に感じさせることです。夢を見せるとはそういうことなのです。美しい幻ではなく現実感を与えること。ただ登場させればいいのではなく、実在しない吸血鬼が本当にいるかのように感じさせることこそが「キャラを立てる」と言う意味です。

S・キングの吸血鬼2題

そんなわけで、現代に生きる吸血鬼を描く場合、例えば、ホラーの帝王スティーヴン・キングはいったいどんな段取りでリアリティを出しているかを見てみましょう。

具体例として短篇を二つご紹介したいと思います。題名は『ポプシー』と『ナイト・フライヤー』です。両作品ともこの1冊↓に収録されています。『ドランのキャデラック(文春文庫)』

ただし、ここで気をつけていただきたいのは文芸的な描写方法についてではありません。いわゆる『設定』というものです。それも『背景』や『ルール』に関する設定です。

どちらも短篇なので読んでいただくのが一番速いし、判りやすいのですが、ネタバレにならないように気をつけながらポイントを解説してみましょう。

ポプシーは日常に溶け込む

『ポプシー』に登場するのは、おそらく吸血鬼であろうと思われるモンスターなのですが、彼はアメリカの郊外に住んでいます。ポプシーは人間の日常に溶け込んだ暮らしをしているのです。ただし、吸血鬼らしく、表は黒で裏は赤い絹地のケープを羽織っていたり、普段は緑色の眼が怒ると赤くなったりします。

ちなみにその日、吸血鬼ポプシーはある理由で『ニンジャタートルズ』のフィギュアを買うために巨大なショッピング・モールにやって来ました。

いいですねえ、こういうの^^;

吸血鬼だって、現代を生きているわけですから、私たちと変わらない毎日の暮らしがあるんです。そんなポプシーは自分たちに接触してきた人間にこう言います。「お前はわしらを放っておくべきだった」

つまり、いろいろ便利なので仕方なく人類の文明を利用しているけれども、本音では彼らは人間社会になんぞコミットメントしたくないのです。完全なるアウトローであり、究極のエトランゼなのです。恐るべき優越性に支えられた傲岸なプライドを隠そうともしません。吸血鬼は人間にとっての純粋な恐怖の対象であることを忘れてはなりません。不倶戴天の敵なのであります。そこを外すと、どこかピンと来ないストーリーになってしまいます。

あなたの『吸血鬼』の日常には『恐怖』がしっかり宿っているでしょうか?

例えアウトプットする作品がコメディであろうと、ギャグ漫画であろうと、「人間がコミュニケーションをはかろうとするだけで死に直結する」という吸血鬼らしい恐怖の悪臭をぷんぷん漂わせることが重要です。

ナイト・フライヤーはルールを頑なに守る

次は『ナイト・フライヤー』というやや長めの短篇です。こちらもキングが『現代に生きる吸血鬼』をテーマに描いた作品。

小さなローカル空港を次々と訪れる一台のセスナ、スカイマスター337。転々とするそのセスナ機が飛び立ったあとには必ず一滴残らず血を抜かれた死体が残される。アメリカ中を股にかけて起こる残虐なシリアル殺人を不審に思ったゴシップ新聞のカメラマンは、自らの飛行機で現場を取材するうちに犯人のセスナが止まっている空港に着陸してしまう。血にまみれた凄惨な『狩り場』で、主人公が目撃した恐怖の光景とは……。

この作品の魅力は『現代の吸血鬼はこんな風に人間を狩っている』という背景(ルール)設定の妙に尽きると思います。

※設定にもいろいろあるが、舞台と背景の設定を混同しやすいので注意。舞台設定は『どんな場所で』事件が起こるのかを決めること。対して背景設定は『どんな事情の下で』事件が起こるのかを考えること。

作者はリアリティを生むために、吸血鬼のさまざまな定番行事を忠実に再現してみせます。必要があれば現代風にアレンジして。例えばこの吸血鬼、夜間はセスナで空を飛び、昼間はその貨物室に詰めた墓場の土の上で眠るのです。もちろん『招待されないと家の中に入れない』とか『古風なマントを羽織っている』とか『鏡に姿が映らない』などの伝統的な吸血鬼のルールもきっちり守ります。

キングはこれらの『吸血鬼のルール』を一つ一つエピソード化し、連続殺人事件と絡めて紹介していくわけですが、そのことによってどんどん吸血鬼の実在感の濃度が高まっていきます。

このように、吸血鬼のように有名なキャラクターを描く場合、読者が吸血鬼には慣れっこであることを計算に入れつつ、しかも吸血鬼らしさを期待していることを考えなければなりません。吸血鬼ならではのベタな設定を徹底的に踏襲して、しかも、『吸血鬼なのにそんなことを?』という新機軸を組み込むこと。何はなくともそのアイデアだけは練ってください。

また、『ナイト・フライヤー』のイントロダクションはちょっとハードボイルドな推理小説風に始まります。そして、主人公が『空の旅』を繰り返すことによって現実世界から吸血鬼の棲むホラー世界への移行が行われます。

二つの異なる世界を往還するというのはファンタジーやホラーでは必然的な構造ですが、『ナイト・フライヤー』で繰り返されるセスナ機による飛行は、まさに異世界への旅を象徴するモチーフなのです。こういう鉄板の原則には徹底的にこだわりましょう。

直接の描写を抑えて想像させる

……と、まあ、ここまで読むと、これらの小説はさぞや吸血鬼についてたっぷり描きこんでいるのだろうなあ、とあなたは思われるかもしれません。

ところが、おどろくべきことに実はその逆なのです!

『ポプシー』においても『ナイト・フライヤー』においても、肝心の吸血鬼はほとんど登場しません。どちらも物語終盤のクライマックスにちょこっと姿を現すだけなのです。しかも、その外見的な描写も1、2行程度。つまり、それこそが正統ホラーの書式であり、怖さを盛り上げる秘訣なのです。

主人公は普通の人間で、ストーリーは彼が体験する出来事として描写されます。ポプシーやナイト・フライヤーが何者であるかはいっさい説明されておりません。読者はポプシーの正体についてほぼ想像のみで読んでいくのです。

しかし、その少ない描写の中から、人血への飢渇と軽蔑に溢れた吸血鬼本来の姿が迫力たっぷりに浮かび上がってきます。人間を捕食する天敵、どう考えても友だちにはなれない輩です。この『天敵としての細部』をしっかり考えておくのが大事なんです。描写するしないに関わらず、こういう何気ないバックストーリーの設定が効くんです。

あなたの吸血鬼物語には、吸血鬼ならではの制約や特徴がこれでもかとばかりに詰め込まれていますか? 吸血鬼でなければ起こりえない事件に仕上がっていますか? 吸血鬼の放つ『絶対悪』の妖しい魅力が読者のハートを鷲づかみに出来ていますか? 何よりも、その外見を描きすぎることで読者の想像を阻害していませんか?

怪物は普段見えない心の暗闇に棲んでいます。質の高い恐怖を生み出したければ、惨劇を扉の向こう側で起こし、読者にはそれを暗示することでより強烈に想像させましょう。

そして、有名な既存のキャラクターを使うときには、彼らのルールを徹底的に守り、さらにそれを詳細に語りましょう!

吸血鬼に代表される『人類の天敵』という設定は、その設定自体がすでに対立軸を内包しているために、ストーリーを最初から全力疾走させやすい構造になっています。つまり、『敵』とか『悪』について迷うことがないわけです。

さあ、あなたもさっそくルールを守って伝統的な天敵を設定に組み込みましょう。そうすれば、いつも苦しんでいる『悪の動機』作りに時間を取られることなく、主人公と敵を思いきり激突させることができるのです。

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