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ユーモアという武器

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真面目に生きることは素晴らしいことですし、誠実さは何よりの美徳であります。

運転士が真面目に運転しなければ電車は遅れます。海パン一丁の出納係がいる銀行にお金は預けたくありません。皆さん勤務中はニコリともせずにお仕事に打ち込んでいただきたい。

だがしかし、人間、堅いだけでは長く持たないもんです。

真面目に仕事をするだけでは飽きがきます。ストレスも溜まることでしょう。ぴりぴりした現場に長時間いると身も心も疲れ果てます。だからこそ人生にはユーモアが必要なのでしょう。

いわんやこれを読んでいるあなたのように、小説であれマンガであれ映画や演劇であれ、ましてやセールストークならばなおのこと、面白いストーリーを書いて他人を楽しませようって人は、誰よりも楽しみ上手、笑い上戸、感動屋でなければなりません。何よりも洒落が分かんなくちゃいけません。

断定! 断定! 断定! こうあらねばならない! かくかくしかじかで間違いない! ナントカなのだ! カントカしかあり得ないのだ!

……そんなに張り詰めてばかりでは酸欠で死んじゃいますぞ。

作者の断定が激しくてちっともくつろげない物語では末梢血管にまでヘモグロビンとか多分そういうものが届かないのだのだ! そうなのだ! そうに決まっているのだ! 断定口調はたまにやるから面白いのだ!

ユーモアは心を豊かにさせてくれるけれど、笑いと言うのはなかなか難しいものです。人気芸人だってそう簡単に爆笑百発百中とはいかないもんね。

でも、大切なのは、なんとか人を笑わせてやろう、リラックスさせてあったかい心持になってもらおうというサービス精神なのであります。そういう気持ちは必ず通じます。

汝の隣人を愛するのです。寒さの夏はおろおろ歩くのです。まずはお茶でも一杯いかがですか、なのです。おもてなしの心がないとユーモアなんか生まれません。

人を癒し、気持ちを楽にし、冷え切った感情に血を送り込み、ああ、生きてるって悪くないなあ、と思わせてくれるもの。

ユーモア、ドイツ語で言えばフモール。ヒューマン、つまり人間性とかかわりの深いこの言葉、「ユーモア」を解さない奴は大成しないぞう。ギャグやお笑いが好きとか、ジョークを収集しているとかそういうこととはまた少し違うようですな。もっと複雑で知的で、そして人間的であることが求められます。人に対する洞察力と懐の深い愛情がなきゃダメなのじゃ。

あなたがユーモアという名の他人に対する興味と情愛を残念なことにまだ持っていないというのであればそれは非常に由々しき事態であります。

ユーモアのセンスは必ずあなたを救けてくれます。

短めの白い浴衣(正式名称は知らぬ)を着て真冬の早朝に滝に打たれたり、バヌアツの若者にまぎれ足をくくって高い塔の上からジャンプするなどの難行苦行荒行を重ねながら是が非でも身につけることをお薦めしますぞ。

コミック・リリーフ

まあ、あなた自身のことはこの際おいておきましょう。大事なのはいつもながらあなたの物語の登場人物のことです。ユーモアがどこかに漂っていなければその物語は誰からも好かれっこありません。

困ったときのwikipediaにはこんな記述もあります。

「小説、映画、漫画などの物語芸術では、まじめな話ばかりで読者を飽きさせないように、またあまりに深刻な雰囲気を和らげるためにコミック・リリーフと呼ばれるコミカルな登場人物を登場させることがある。」

コミック・リリーフ。

あなたの物語にそういう機能を持ったキャラクターはいますか?

スターウォーズのロボットコンビC3POとR2D2といえば分かりやすい。チューバッカなんかもコミック・リリーフだと言えます。ストーリーを軽やかに語るために、とぼけた会話やドタバタでシリアスな展開にちょっとした息抜きを与えて読者や観客の緊張をほぐす役回りです。こういう存在がストーリーに深みを加えるんですね。

初心者は、ともすると主人公に直接おっちょこちょいな失敗をさせて「私ってドジな女の子、てへっ」みたいなことを直接言わせてしまう。これはいかん、いけませんなあ。何がイカンと言ったって、自分で自分にツッコむのは断固として禁じ手でございます。だってキモイでしょ、ひとりでノリツッコミする人って。

これでは作者のノリノリぶりが痛々しいだけで誰も主人公を好きになってはくれません。だから主人公は絶対にやってはいけないのです。禁断のテクニックの一つでありますな。

そういうヘンテコなことは、コミック・リリーフ・キャラにやらせればいいのです。

重苦しく緊迫したシーンが長く続くとだんだん肩が凝ってくる。物語の聞き手は緊張感に飽きてくる。ふとコミック・リリーフ・キャラがおかしなことをつぶやく。笑いが生まれる。聞き手はホッと息をつく。また緊迫した状況に戻る。すると聞き手は新鮮な気持ちでまた緊張感を楽しむことができる。

こういうシーンは映画やドラマでもよく目にしているはずです。こういうキャラが使いこなせるようになるとちょっとおしゃれなあなた独特の世界が作れます。

コミック・リリーフ。

それはユーモアという気配りの武器。大人の階段を一歩登るために、あなたもさっそく使ってみてください。

 

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生成AIに対抗できるライティング技術を手に入れたければ「どんでん返しのスキル」を身に付けることです。このニュースレターでは文字コンテンツを発信したいあなたに、小説のプロットから記事の構成にまで使える『物語の技法』を徹底解説。謎と驚きに満ちた、愉快で痛快なストーリーの作り方を伝授します。

面白くない物語の作り方

面白くない物語の作り方

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まずベタから始めよ!

ストーリー作りを始めたばかりの人が最も恐れているのが「自分のストーリーはベタすぎるのではないか?」ということです。

しかし、それはそれでいいのです。今はまだ。

最初はとにかく手順を覚えるのです。物語を作る上で必要な要素をまずは決めてしまうのです。そういうと何やらごそごそと計算を始める人がいます。

私も昔、計算した覚えがあります。好きなタイプのキャラクターを2人思いついていましたが、あまりにもネタが浮かばないもので、先に『枠組み』を決めてやろうと思ったわけです。

全部で何ページの小説にしたいから登場人物は何人で、シーンはいくつで、エピソードは何個。それが決まれば「後は何とかなりそう」な気がしていました。

そこで、手近にある小説を読んで登場人物の数を数えてみました。こういう時、海外のミステリーは便利です。たいてい登場人物一覧が付いておりますから。

『マルタの鷹』341ページで12人。
『羊たちの沈黙』505ページで15人。
『鷲は舞い降りた』493ページで22人……。

なんとなくですが、長編小説を書く場合、20ページから30ページの分量に対して登場人物が一人という関係ではないかということはわかりました。自分の作品を240ページにするとなると、適切な登場人数は8人ぐらいかなと思いました。

この時点で少しヤな予感がしました。人数だけ決まっても、イメージが全く浮かばなかったからです。そこで今度はシーンを数えてみました。

『レッド・ドラゴン』は720ページ。全部で54章ありました。各章に2~3シーンが入っていますので120シーンぐらい。「240ページの作品なら40シーンぐらいか……」

タチドコロに計算しました。私がこれから書こうとしている小説は240ページで登場人物は8名、シーンは40。

……だからどうした。

結局、この数字から何か物語が浮かんでくることはついにありませんでした。自分が語るべき事柄を見つけ出せていなかった私には登場人物やシーンの数が分かったところで何の参考にもならなかったのです。

紅葉した渓谷の美しさの秘密を理解しようとして生えている樹木の葉っぱの枚数を数えてしまったわけです。

こういう試行錯誤が悪いと言うわけではないのですが、猿知恵と言われても仕方がありません。そんなヘンテコな計算をしていては面白いものなんぞ出来るわけがない。それどころか私は「数合わせ」のために無理矢理エピソードを作ろうとしました。

ところが、何のテーマもイメージもない。決まっているのは主要なキャラクターが二人だけ。仕方なく、なんとなく仲間であるということにして二人を会話させてみました。

しかし、最終的に何をすればいいのかが見えていないので目的を持った話などは全然出てきません。畢竟、今後の展開を探ることが中心になります。

情けないことに、何とかしてキャラクターに自分自身で目的を見つけさせて行動してもらおうと思ったわけです。

そうすると例えば……

「あいつだけは許さないぞ」
「そういうのを弱い犬ほどよく吠えるというんだ」
「黙ってろ、一寸の虫にも五分の魂があるんだ」
「愚か者め、郷に入れば郷に従え」
「いや、虎穴に入らずんば虎子を得ず」
「急がば回れ」
「河童の川流れ」
「屁のつっぱりにもならんですよ」

見事にことわざや故事成語のオンパレードになりました。

テーマがない会話というのは恐ろしいものです。ひねり出されるのはよくある常套句の応酬。どこかで見たようなじゃれあいとツッコミ合い。

ストーリーはちっとも前に進まず、自分ならではの主張や意見など、どこを見渡しても一言もありません。

これじゃいけません。

一方、キャラクタからエピソードを発想する人もいると思います。この方法だと、時たまいいアイデアが出てくることがあります。もともとキャラの誕生と同時に発生したシーンなので、自分の中では物凄く鮮烈でインパクトがある。我ながら才気に溢れた名場面の出来上がりであります。

しかし、パッと思いつくシーンがいくら強烈でも、それをストーリーの文脈としてつなげていくのはとても大変な作業なのです。

あなたの創作ノートの中にも、私のそれと同じように、塩漬けになったままの名場面がたくさんあるはずです。

名場面の中の主人公は、燦然と輝いています。いつだってどこからともなくマントを翻して現れるのです。モンスターバイクのエンジン音と重なって、どわはははは、と聞こえる高笑いを響かせながら。

しかし実は、あなたの主人公はこの先、どこへ行けばいいのかさえわからないのです。思いついたはいいが、その後の展開が出てこない名場面。

何とか次への展開を試みていろいろと書くうちに、どこまでが夢でどこからが現実なのかよくわからない、まるで半身が霧の中に溶けているようなゆるい妄想になることも度々です。

それじゃ困るのであります。

書くべきことが見当たらない。何を書けばいいのかわからない。日記なら書けるのに、小説が書けない。

そういう人にとっては、まず、最後まで作りきることが大事なのです。

肝心なのはどうやって話を終わらせるか。クライマックスをどう盛り上げるか。エンターテインメントの読者はそこが一番読みたいのです。

そのためのどんでん返しであり、伏線の練りこみなのであります。単なる日常のスケッチではいけません。思いつきだけで書けるのはオープニングまで。

最初のアイデアを披露したところで作者だけが気持ちよく燃え尽きてしまい、クライマックスもエンディングもない断片的な話では感想の言いようもないではありませんか。

それは物語などではなく「なんでもいいから俺様をリスペクトしろ!」という一種のジャイアン・リサイタルであり、読者への幼稚極まりない脅迫なのであります。

ベタを恐れてはならない

「よくあるベタな展開にはしないぞ!」という意気込み。これは非常に大事なことだと思います。

あなただからこそ書ける、あなたらしいお話であるために、オリジナリティーにこだわるのは重要です。ずっとこの気持ちを忘れずにいてほしいと思います。

ただし私は、まだストーリー創作を始めて間がない方には、むしろあえてベタな物語を作ってみることをオススメします。

ベタを憎むことも重要ですが、ベタを恐れないことも大事なんです。

テレビの2時間サスペンスドラマのようなベタな展開、という例えをよく使います。私も何度もそう言ったことがあります。もちろん否定的なニュアンスで。本当は自分でもベタなストーリーを作ってきたくせに。

しかし、実のところ、ベタな物語を作ったことのない人にベタの本質は絶対に分かりません。

ベタのいけないところは安易な設定にあります。どこかの漫画で見た類型的なキャラクター。いつかのテレビで見た類型的なセリフ。それらを乱発してしまうと「ベタ」な作品だと言われるのです。

しかし、その類型の使用頻度を考慮しながら鑑賞すれば、ベタドラマのストーリー展開にはとても大切なツボが隠されていることに気がつくはずです。

それは「予定調和」のさじ加減です。

どこかにこの「予定調和」的な側面があると、人は安心します。緊張するシーンの後にコミカルなキャラが出てきたら、案の定おかしなことを言って笑わせてほしいのです。

結婚式のシーンでは花嫁の父親は号泣してくれないと、なんだか心がホッとしないのです。

頭から終わりまで予定調和ばかりしているとさすがに馬鹿にされてしまいますが、多少はこれがないと、全編が緊張感だけでは読者や観客も疲れてしまいます。

また、無駄なようでもリラックスする時間は必要なのです。弛緩があってこそ次の緊張の効果が出るからです。これは基本ですよね。

自分の作風に最適な「緩急」のリズムを調整するためにも、ベタな展開をどこまで盛り込むか、斬新なアイデアをどこまで広げるか、というバランスを計算してください。

そのためには、やはり最低でも2,3本は習作を書いてみることです。

具体的であれ

ストーリー作りに慣れるまでは、目的が抽象的になってしまうことがよくあります。

抽象的な概念だと自分自身がイメージしづらい恐れがあります。これを何か具体的なものに変換すると、その存在が想像力を刺激して話を活性化してくれます。

「具体性」はイメージを喚起してくれます。「世界の平和を守るんだ!」よりも「この重要な機密の入ったUSBメモリを守るんだ!」のほうが物語を発想しやすくなるのです。

そうやって一手間かけることで、その具体的なイメージから読者がすんなり理解しやすいエピソードが生まれて、もっともっと共感しやすい物語になります。

ベタな物語を作る

物語を語ることはあなた自身を語ることでもあります。何気なく紡いだ一言から恐ろしいほど自分自身が剥き出しになってしまうものです。

そこにはあなた自身の性格を形作ってきた人生観や人間に関わる考察の深さ、あるいは浅さ、そして強さと弱さが、残酷なほどあふれ出してしまうのです。

もしかすると逆にそれこそが私たちがこれほどまでに物語を語りたがる理由なのかもしれません。

しかし、エンターテインメントはそれだけでは済みません。そんなあなたの個性を生かすためにも、あなた自身を語ったところで一丁上がりとはいかないのです。

しっかり展開して、たっぷり盛り上げ、きっちり終わらせる。

いくら複雑な構造でも、今何が起こっているかが子どもにも明快に伝わるストーリーを作ってください。

その練習のためなんですから、最初はベタでかまわないんです。ベッタベタでいいから最後まで作りきる!

――創部以来、一度も勝ったことのないお嬢様ラクロス部 しかし一人の転校生を迎えることで戦うチームに変貌し、 全国大会出場のために燃え上がる。

ところが副主将のユキには家庭内の心配事があり練習に打ち込めない。それに気づいたチームメイトは一計を案じて……

そんな「どこかで見たような」話でいいんです。

最初から独自性の高い斬新な物語を作ろうとしては必ず失敗します。まずはベタな設定を使って、肝心なクライマックスの作り方を身に付けましょう。

ベタなストーリー作りの大まかな流れとしては……

【ストーリーラインその1】

▼ベタな舞台を設定する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼ベタな目的を設定する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼目的の達成を邪魔するベタな問題を設定する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼その解決のためのベタな『切り札』を用意する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼『切り札』の伏線を物語の序盤に張る
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼『切り札』を使って問題を解決する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼最後にちょっと意外な結末

やってみるとわかるのですが、ベタでもけっこう満足できるものです。

もう一つ、主人公のベタなエピソードの流れを紹介しておきましょう。

【ストーリーラインその2】

主人公は、まず何らかの失敗を犯し、それが元で大惨敗します。しかし、あることをきっかけに反撃を開始し、ついに大逆転するのです。

失敗→大惨敗→反撃開始→大逆転

この大きな流れを押さえるだけでスカッとする話が作れます。

試しに、この2つのストーリーラインを交錯させながら物語を構成してみてください。ベタです。しかし、強力です。

そして、そういう作業を繰り返すうちに、ベタな展開のどこが自分の表現したいものとどれだけ重なり、どれだけ理想と食い違っているのかを客観的に確認できるようになってきます。

物語を作るあなたのポジションがはっきりしてくるのです。

やがて物語をコントロールするすべを身に付け、自分が書いたベタストーリーに飽き足らなくなった時、初めて本当の創作が始まります。

手順を覚えるまでは苦しい作業です。しかし、薄っぺらな自尊心を捨ててこの作業をやり遂げない限り、あなたの物語はリアリティーを獲得できないのです。

この段階を省略したり、考えることさえ避けていたりしていては、本当に大切な基礎の部分、地味でも面倒でもごまかさずに作りこまなければならない箇所がいつまでたっても見えてきません。

一歩一歩、一作一作、物語を作り、それを分析すること。

上達のためにはベタでもなんでもとにかく書くこと。書いて書き続け、書き終わったら何度でも読む。それが一番の道であり、この他に道はありません。

 

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生成AIに対抗できるライティング技術を手に入れたければ「どんでん返しのスキル」を身に付けることです。このニュースレターでは文字コンテンツを発信したいあなたに、小説のプロットから記事の構成にまで使える『物語の技法』を徹底解説。謎と驚きに満ちた、愉快で痛快なストーリーの作り方を伝授します。

意外な結末とオチ

『どんでん返し』と『意外な結末』の違い

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ブンコ
「突然なんだけどさ、師匠」

ぴこ蔵
「なんじゃらほい?」

ブンコ
「そもそもどんでん返しってどんなもの? いや、そりゃなんとなく大雑把には分かってるつもりなんだけど、いまいちピンと来ないんだよね~」

ぴこ蔵
「むむ。それはマズイなー。どの部分がどんでん返しなのかがきっちり見抜けないことには、いつまでたっても正確に技を使いこなせないのじゃ」

ブンコ
「だからもっとこう具体的にさ、これがどんでん返しだっていうのを教えてくれないと、自分はどんでん返しだと思い込んでいても『意外な結末』だとか『オチ』だとか言われちゃうとさ、自信がなくなっちゃう」

ぴこ蔵
「ならば簡単な見分け方を一つ教えておこう。『どんでん返し』はクライマックスの直前に起こって、物語を一気に盛り上げる号砲となる!」

ブンコ
「号砲って何だ? 警報みたいなもん?」

ぴこ蔵
「大砲とか銅鑼の音とか法螺貝とかサイレンみたいなもんじゃな。これからコトが始まりますぞー、というお知らせじゃな」

ブンコ
「そっかー、どんでん返しの後にクライマックスに突入するのか……」

ぴこ蔵
「例えば、ある事件でどんでん返しが起こり、真犯人の正体が明らかになるとしよう。すると真犯人は高笑いしてこう言う。

『ワッハッハー、よく気がついたな! その通り、私が真犯人・怪盗手品師ピコピーコであーる! しかし、ちょっとばかし遅かったようだな。これを見たまえ、君たちの大切なダイヤモンドは先ほど私がすりかえておいたのだ!』

 さあ、どうする名探偵ブンコ!」

ブンコ
「チクショー! 待てーッ、大泥棒! アタシのダイヤを返せ!」

ぴこ蔵
「そして物語はクライマックスに突入するのじゃ!」

ブンコ
「なるほど、『どんでん返し』はクライマックスの始まりなわけだね」

ぴこ蔵
「それに対して『意外な結末』は、そのクライマックスの大問題が最終的に解決される場面のことじゃ」

ブンコ
「ってことはつまり、さっきの泥棒手品師の話で言うと……」

ぴこ蔵
「……その時、名探偵ブンコはとっさに壁の隠しボタンを押した! すると怪盗手品師ピコピーコの足元が音を立てて崩れ、大きな穴が開いた! あわれピコピーコはその穴に真っ逆さま。床下はるかの荒海へと落ちていったのである」

ブンコ
「しまった! アタシのダイヤが……」

ぴこ蔵
「……ところがぎっちょん、落ちていく怪盗手品師のポケットから一羽のハトが飛び出した。ハトは羽ばたくとぐんぐん上昇し、ブンコの肩に止まった。するとそのクチバシには、なんとあのダイヤモンドがしっかりとくわえられていたのだった」

ブンコ
「ああっ、お前はアタシが幼いころ飼っていた伝書鳩のクーポ!」

ぴこ蔵
「そして名探偵とお手柄の伝書鳩は、いつまでもうっとりと輝く宝石を見つめるのであった。めでたしめでたし」

ブンコ
「くわ~っ! これが『意外な結末』かーっ!」

ぴこ蔵
「もちろんこの鳩と名探偵の関係を語るエピソードは出来るだけ序盤の段階で描いておかねばならない。しかも、いったんそのことを読者に忘れさせておくような工夫も必要じゃ」

ブンコ
「『どんでん返し』と『意外な結末』の違いはなんとなくわかったよ。それじゃ『オチ』はどうなるの?」

ぴこ蔵
『オチ』というのはじゃな、『どんでん返し』と『意外な結末』がいっぺんに起こることをいう

ブンコ
「例えば?」

ぴこ蔵
「……穴から落ちていった怪盗。呆然として残された名探偵と関係者の皆さん。やがてジェニガッタ警部が言う。

『えー、そんなわけで皆さん、ご覧のとおり怪盗とダイヤモンドは海の藻屑と消えました。さてこれからどうしましょ?』

収まらないのはダイヤの警備係・ゲス夫。名探偵ブンコに掴みかかって怒声を浴びせる。

『このヘボ探偵! てめえがあのボタンを押したからこうなったんじゃねえか! 責任取れ! 10億円払え!』

そのはずみに足がもつれてゲス夫とブンコは穴に転落。慌ててはるかな海面を覗きこむジェニガッタ警部。しかし、夜の海、しかも霧が出てきて何も見えない。

途方に暮れる警部はやがて首をふるとつぶやいた。

『まあ、しかたないな。これは単なる事故だ。それ以外に私の責任を問われるような事件は何も起こらなかったことにしよう』」

ブンコ
「アタシのダイヤと命はどうなった?!」

ぴこ蔵
「……その頃、海面では一艘のクルーザーが落ちてきた3人を回収していた。ずぶ濡れの名探偵と警備係にシャンパングラスを渡して、怪盗は言った。

『2年越しの計画は大成功! お疲れ様でした! それでは我々の友情に乾杯!』」

ブンコ
「なるほど、実は警備員と探偵と怪盗がグルだったのか。そんでもってみんなで警部をたぶらかしたと。これが『オチ』なんだね!」

ぴこ蔵
「まあ、急ごしらえのへっぽこコン・ゲームで申し訳ないが、言いたいところは分かってくれたかな」

ブンコ
「一応分かったけど、さすがにこれだけじゃ不安だからさ~、もっと実際の作品の例を教えてよ」

ぴこ蔵
「よかろう。具体的な作品名を挙げておくので、実際に読んでみることじゃな。ここでわしがネタバレして解説したところで、そんなに気やすくお主の身には付かないじゃろうて。鵜の目鷹の目、本気で見破ろうとしなければ真髄は見えてこないものなのじゃ。

と言っても、世の中にどんでん返し入りの作品はごまんとあるぞお。まあとりあえず誰もが知っている有名作家のものを紹介してみよう。

例えばわしが好きなのはおなじみ天才人喰い博士ハンニバル・レクターが登場する『レッド・ドラゴン』(原作:トマス・ハリス)じゃな。シリアルキラーの残虐な連続殺人事件が描かれるサスペンスなのにも関わらず、どんでん返しの伏線となる美しくもロマンティックなラブストーリーの構成がお見事である。

また、どんでん返しの達人といえばジェフリー・ディーヴァーかな。中でも『コフィン・ダンサー』のどんでん返しには恐れいった。

ミステリーの大御所、アガサ・クリスティーの短編『青い壷の秘密』『第四の男』などは短編なので時間がかからずに要点がわかり、しかも面白い。超おすすめなのじゃ!(創元推理文庫『クリスチィ短編全集1』

ディーン・R・クーンツのベストセラーで言えば『汚辱のゲーム』や『ストレンジャーズ』にどんでん返しがあるし、ジョニー・デップ主演の映画『シークレット・ウインドウ』並びにその原作となったスティーヴン・キングの中篇小説『秘密の窓、秘密の庭』(文芸春秋『ランゴリアーズ』収録)は、普段、この手のどんでん返しを使わないキングが珍しく書いたミステリー風の作品。

日本のものなら藤沢周平の『隠し剣孤影抄』(文春文庫)に収録されている『必死剣鳥刺し』なんかどうじゃ。時代小説の名人中の名人が贈る珠玉の傑作短編にはよく読むとラブストーリーの鉄則まで入っていてお得なのじゃ。

きりがないので後1つだけ。

映画『スティング』はポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが共演した傑作名画じゃ。二人の詐欺師がギャングのボスを騙すために命がけで頑張るストーリーなのじゃが、この作品にはどんでん返しもあるが、それとは別にオチがある」

ブンコ
「おっと出たね! 1本で2度おいしいってやつだね!」

ぴこ蔵
「『スティング』のどんでん返しのほうは『主人公を狙う凄腕の殺し屋の正体』で、オチはまさにラストシーンのサプライズなのじゃ。これはまあ本当に面白い映画なのでまだなら必ず観たほうがいいぞ」

ブンコ
「うーん、詳しく知りたいけど、そんなに面白いんなら観てみるよ。だからとりあえずそれ以上のネタバレ解説はしなくていいや!」

ぴこ蔵
「まあ、構造的に言うとすればこうなるかな。

物語を面白くするには3つのポイントがある。主人公の目的と、それを邪魔する敵や障害、そして主人公の変化じゃ」

ブンコ
「それは前にも聞いたな」

ぴこ蔵
「問題はその次。つまり、物語を面白く、エキサイティングに語ろうとするならば、主人公が目的を果たそうとするストーリーラインと、主人公が敵と戦うストーリーライン、そして主人公が変化するストーリーラインの3本の筋が必要だということじゃ。そしてそのストーリーラインが交錯する瞬間に『どんでん返し』や『オチ』が発生する」

ブンコ
「えっ? そういうことなの?」

ぴこ蔵
「もちろんじゃ。これらを一緒くたに一本のストーリーで語ろうとするからお主の物語はごちゃごちゃのボケボケになってしまうのじゃ」

ブンコ
「べ、別々に作るのかー。でもどうやって?」

ぴこ蔵
「そこで大事なのが『伏線』と『並行線』なのであーる」

 

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