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ユーモアという武器

ユーモアという武器

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真面目に生きることは素晴らしいことですし、誠実さは何よりの美徳であります。

運転士が真面目に運転しなければ電車は遅れます。海パン一丁の出納係がいる銀行にお金は預けたくありません。皆さん勤務中はニコリともせずにお仕事に打ち込んでいただきたい。

だがしかし、人間、堅いだけでは長く持たないもんです。

真面目に仕事をするだけでは飽きがきます。ストレスも溜まることでしょう。ぴりぴりした現場に長時間いると身も心も疲れ果てます。だからこそ人生にはユーモアが必要なのでしょう。

いわんやこれを読んでいるあなたのように、小説であれマンガであれ映画や演劇であれ、ましてやセールストークならばなおのこと、面白いストーリーを書いて他人を楽しませようって人は、誰よりも楽しみ上手、笑い上戸、感動屋でなければなりません。何よりも洒落が分かんなくちゃいけません。

断定! 断定! 断定! こうあらねばならない! かくかくしかじかで間違いない! ナントカなのだ! カントカしかあり得ないのだ!

……そんなに張り詰めてばかりでは酸欠で死んじゃいますぞ。

作者の断定が激しくてちっともくつろげない物語では末梢血管にまでヘモグロビンとか多分そういうものが届かないのだのだ! そうなのだ! そうに決まっているのだ! 断定口調はたまにやるから面白いのだ!

ユーモアは心を豊かにさせてくれるけれど、笑いと言うのはなかなか難しいものです。人気芸人だってそう簡単に爆笑百発百中とはいかないもんね。

でも、大切なのは、なんとか人を笑わせてやろう、リラックスさせてあったかい心持になってもらおうというサービス精神なのであります。そういう気持ちは必ず通じます。

汝の隣人を愛するのです。寒さの夏はおろおろ歩くのです。まずはお茶でも一杯いかがですか、なのです。おもてなしの心がないとユーモアなんか生まれません。

人を癒し、気持ちを楽にし、冷え切った感情に血を送り込み、ああ、生きてるって悪くないなあ、と思わせてくれるもの。

ユーモア、ドイツ語で言えばフモール。ヒューマン、つまり人間性とかかわりの深いこの言葉、「ユーモア」を解さない奴は大成しないぞう。ギャグやお笑いが好きとか、ジョークを収集しているとかそういうこととはまた少し違うようですな。もっと複雑で知的で、そして人間的であることが求められます。人に対する洞察力と懐の深い愛情がなきゃダメなのじゃ。

あなたがユーモアという名の他人に対する興味と情愛を残念なことにまだ持っていないというのであればそれは非常に由々しき事態であります。

ユーモアのセンスは必ずあなたを救けてくれます。

短めの白い浴衣(正式名称は知らぬ)を着て真冬の早朝に滝に打たれたり、バヌアツの若者にまぎれ足をくくって高い塔の上からジャンプするなどの難行苦行荒行を重ねながら是が非でも身につけることをお薦めしますぞ。

コミック・リリーフ

まあ、あなた自身のことはこの際おいておきましょう。大事なのはいつもながらあなたの物語の登場人物のことです。ユーモアがどこかに漂っていなければその物語は誰からも好かれっこありません。

困ったときのwikipediaにはこんな記述もあります。

「小説、映画、漫画などの物語芸術では、まじめな話ばかりで読者を飽きさせないように、またあまりに深刻な雰囲気を和らげるためにコミック・リリーフと呼ばれるコミカルな登場人物を登場させることがある。」

コミック・リリーフ。

あなたの物語にそういう機能を持ったキャラクターはいますか?

スターウォーズのロボットコンビC3POとR2D2といえば分かりやすい。チューバッカなんかもコミック・リリーフだと言えます。ストーリーを軽やかに語るために、とぼけた会話やドタバタでシリアスな展開にちょっとした息抜きを与えて読者や観客の緊張をほぐす役回りです。こういう存在がストーリーに深みを加えるんですね。

初心者は、ともすると主人公に直接おっちょこちょいな失敗をさせて「私ってドジな女の子、てへっ」みたいなことを直接言わせてしまう。これはいかん、いけませんなあ。何がイカンと言ったって、自分で自分にツッコむのは断固として禁じ手でございます。だってキモイでしょ、ひとりでノリツッコミする人って。

これでは作者のノリノリぶりが痛々しいだけで誰も主人公を好きになってはくれません。だから主人公は絶対にやってはいけないのです。禁断のテクニックの一つでありますな。

そういうヘンテコなことは、コミック・リリーフ・キャラにやらせればいいのです。

重苦しく緊迫したシーンが長く続くとだんだん肩が凝ってくる。物語の聞き手は緊張感に飽きてくる。ふとコミック・リリーフ・キャラがおかしなことをつぶやく。笑いが生まれる。聞き手はホッと息をつく。また緊迫した状況に戻る。すると聞き手は新鮮な気持ちでまた緊張感を楽しむことができる。

こういうシーンは映画やドラマでもよく目にしているはずです。こういうキャラが使いこなせるようになるとちょっとおしゃれなあなた独特の世界が作れます。

コミック・リリーフ。

それはユーモアという気配りの武器。大人の階段を一歩登るために、あなたもさっそく使ってみてください。

 

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『生成AI時代のストーリーテリング』

生成AIに対抗できるライティング技術を手に入れたければ「どんでん返しのスキル」を身に付けることです。このニュースレターでは文字コンテンツを発信したいあなたに、小説のプロットから記事の構成にまで使える『物語の技法』を徹底解説。謎と驚きに満ちた、愉快で痛快なストーリーの作り方を伝授します。

面白くない物語の作り方

面白くない物語の作り方

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まずベタから始めよ!

ストーリー作りを始めたばかりの人が最も恐れているのが「自分のストーリーはベタすぎるのではないか?」ということです。

しかし、それはそれでいいのです。今はまだ。

最初はとにかく手順を覚えるのです。物語を作る上で必要な要素をまずは決めてしまうのです。そういうと何やらごそごそと計算を始める人がいます。

私も昔、計算した覚えがあります。好きなタイプのキャラクターを2人思いついていましたが、あまりにもネタが浮かばないもので、先に『枠組み』を決めてやろうと思ったわけです。

全部で何ページの小説にしたいから登場人物は何人で、シーンはいくつで、エピソードは何個。それが決まれば「後は何とかなりそう」な気がしていました。

そこで、手近にある小説を読んで登場人物の数を数えてみました。こういう時、海外のミステリーは便利です。たいてい登場人物一覧が付いておりますから。

『マルタの鷹』341ページで12人。
『羊たちの沈黙』505ページで15人。
『鷲は舞い降りた』493ページで22人……。

なんとなくですが、長編小説を書く場合、20ページから30ページの分量に対して登場人物が一人という関係ではないかということはわかりました。自分の作品を240ページにするとなると、適切な登場人数は8人ぐらいかなと思いました。

この時点で少しヤな予感がしました。人数だけ決まっても、イメージが全く浮かばなかったからです。そこで今度はシーンを数えてみました。

『レッド・ドラゴン』は720ページ。全部で54章ありました。各章に2~3シーンが入っていますので120シーンぐらい。「240ページの作品なら40シーンぐらいか……」

タチドコロに計算しました。私がこれから書こうとしている小説は240ページで登場人物は8名、シーンは40。

……だからどうした。

結局、この数字から何か物語が浮かんでくることはついにありませんでした。自分が語るべき事柄を見つけ出せていなかった私には登場人物やシーンの数が分かったところで何の参考にもならなかったのです。

紅葉した渓谷の美しさの秘密を理解しようとして生えている樹木の葉っぱの枚数を数えてしまったわけです。

こういう試行錯誤が悪いと言うわけではないのですが、猿知恵と言われても仕方がありません。そんなヘンテコな計算をしていては面白いものなんぞ出来るわけがない。それどころか私は「数合わせ」のために無理矢理エピソードを作ろうとしました。

ところが、何のテーマもイメージもない。決まっているのは主要なキャラクターが二人だけ。仕方なく、なんとなく仲間であるということにして二人を会話させてみました。

しかし、最終的に何をすればいいのかが見えていないので目的を持った話などは全然出てきません。畢竟、今後の展開を探ることが中心になります。

情けないことに、何とかしてキャラクターに自分自身で目的を見つけさせて行動してもらおうと思ったわけです。

そうすると例えば……

「あいつだけは許さないぞ」
「そういうのを弱い犬ほどよく吠えるというんだ」
「黙ってろ、一寸の虫にも五分の魂があるんだ」
「愚か者め、郷に入れば郷に従え」
「いや、虎穴に入らずんば虎子を得ず」
「急がば回れ」
「河童の川流れ」
「屁のつっぱりにもならんですよ」

見事にことわざや故事成語のオンパレードになりました。

テーマがない会話というのは恐ろしいものです。ひねり出されるのはよくある常套句の応酬。どこかで見たようなじゃれあいとツッコミ合い。

ストーリーはちっとも前に進まず、自分ならではの主張や意見など、どこを見渡しても一言もありません。

これじゃいけません。

一方、キャラクタからエピソードを発想する人もいると思います。この方法だと、時たまいいアイデアが出てくることがあります。もともとキャラの誕生と同時に発生したシーンなので、自分の中では物凄く鮮烈でインパクトがある。我ながら才気に溢れた名場面の出来上がりであります。

しかし、パッと思いつくシーンがいくら強烈でも、それをストーリーの文脈としてつなげていくのはとても大変な作業なのです。

あなたの創作ノートの中にも、私のそれと同じように、塩漬けになったままの名場面がたくさんあるはずです。

名場面の中の主人公は、燦然と輝いています。いつだってどこからともなくマントを翻して現れるのです。モンスターバイクのエンジン音と重なって、どわはははは、と聞こえる高笑いを響かせながら。

しかし実は、あなたの主人公はこの先、どこへ行けばいいのかさえわからないのです。思いついたはいいが、その後の展開が出てこない名場面。

何とか次への展開を試みていろいろと書くうちに、どこまでが夢でどこからが現実なのかよくわからない、まるで半身が霧の中に溶けているようなゆるい妄想になることも度々です。

それじゃ困るのであります。

書くべきことが見当たらない。何を書けばいいのかわからない。日記なら書けるのに、小説が書けない。

そういう人にとっては、まず、最後まで作りきることが大事なのです。

肝心なのはどうやって話を終わらせるか。クライマックスをどう盛り上げるか。エンターテインメントの読者はそこが一番読みたいのです。

そのためのどんでん返しであり、伏線の練りこみなのであります。単なる日常のスケッチではいけません。思いつきだけで書けるのはオープニングまで。

最初のアイデアを披露したところで作者だけが気持ちよく燃え尽きてしまい、クライマックスもエンディングもない断片的な話では感想の言いようもないではありませんか。

それは物語などではなく「なんでもいいから俺様をリスペクトしろ!」という一種のジャイアン・リサイタルであり、読者への幼稚極まりない脅迫なのであります。

ベタを恐れてはならない

「よくあるベタな展開にはしないぞ!」という意気込み。これは非常に大事なことだと思います。

あなただからこそ書ける、あなたらしいお話であるために、オリジナリティーにこだわるのは重要です。ずっとこの気持ちを忘れずにいてほしいと思います。

ただし私は、まだストーリー創作を始めて間がない方には、むしろあえてベタな物語を作ってみることをオススメします。

ベタを憎むことも重要ですが、ベタを恐れないことも大事なんです。

テレビの2時間サスペンスドラマのようなベタな展開、という例えをよく使います。私も何度もそう言ったことがあります。もちろん否定的なニュアンスで。本当は自分でもベタなストーリーを作ってきたくせに。

しかし、実のところ、ベタな物語を作ったことのない人にベタの本質は絶対に分かりません。

ベタのいけないところは安易な設定にあります。どこかの漫画で見た類型的なキャラクター。いつかのテレビで見た類型的なセリフ。それらを乱発してしまうと「ベタ」な作品だと言われるのです。

しかし、その類型の使用頻度を考慮しながら鑑賞すれば、ベタドラマのストーリー展開にはとても大切なツボが隠されていることに気がつくはずです。

それは「予定調和」のさじ加減です。

どこかにこの「予定調和」的な側面があると、人は安心します。緊張するシーンの後にコミカルなキャラが出てきたら、案の定おかしなことを言って笑わせてほしいのです。

結婚式のシーンでは花嫁の父親は号泣してくれないと、なんだか心がホッとしないのです。

頭から終わりまで予定調和ばかりしているとさすがに馬鹿にされてしまいますが、多少はこれがないと、全編が緊張感だけでは読者や観客も疲れてしまいます。

また、無駄なようでもリラックスする時間は必要なのです。弛緩があってこそ次の緊張の効果が出るからです。これは基本ですよね。

自分の作風に最適な「緩急」のリズムを調整するためにも、ベタな展開をどこまで盛り込むか、斬新なアイデアをどこまで広げるか、というバランスを計算してください。

そのためには、やはり最低でも2,3本は習作を書いてみることです。

具体的であれ

ストーリー作りに慣れるまでは、目的が抽象的になってしまうことがよくあります。

抽象的な概念だと自分自身がイメージしづらい恐れがあります。これを何か具体的なものに変換すると、その存在が想像力を刺激して話を活性化してくれます。

「具体性」はイメージを喚起してくれます。「世界の平和を守るんだ!」よりも「この重要な機密の入ったUSBメモリを守るんだ!」のほうが物語を発想しやすくなるのです。

そうやって一手間かけることで、その具体的なイメージから読者がすんなり理解しやすいエピソードが生まれて、もっともっと共感しやすい物語になります。

ベタな物語を作る

物語を語ることはあなた自身を語ることでもあります。何気なく紡いだ一言から恐ろしいほど自分自身が剥き出しになってしまうものです。

そこにはあなた自身の性格を形作ってきた人生観や人間に関わる考察の深さ、あるいは浅さ、そして強さと弱さが、残酷なほどあふれ出してしまうのです。

もしかすると逆にそれこそが私たちがこれほどまでに物語を語りたがる理由なのかもしれません。

しかし、エンターテインメントはそれだけでは済みません。そんなあなたの個性を生かすためにも、あなた自身を語ったところで一丁上がりとはいかないのです。

しっかり展開して、たっぷり盛り上げ、きっちり終わらせる。

いくら複雑な構造でも、今何が起こっているかが子どもにも明快に伝わるストーリーを作ってください。

その練習のためなんですから、最初はベタでかまわないんです。ベッタベタでいいから最後まで作りきる!

――創部以来、一度も勝ったことのないお嬢様ラクロス部 しかし一人の転校生を迎えることで戦うチームに変貌し、 全国大会出場のために燃え上がる。

ところが副主将のユキには家庭内の心配事があり練習に打ち込めない。それに気づいたチームメイトは一計を案じて……

そんな「どこかで見たような」話でいいんです。

最初から独自性の高い斬新な物語を作ろうとしては必ず失敗します。まずはベタな設定を使って、肝心なクライマックスの作り方を身に付けましょう。

ベタなストーリー作りの大まかな流れとしては……

【ストーリーラインその1】

▼ベタな舞台を設定する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼ベタな目的を設定する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼目的の達成を邪魔するベタな問題を設定する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼その解決のためのベタな『切り札』を用意する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼『切り札』の伏線を物語の序盤に張る
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼『切り札』を使って問題を解決する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼最後にちょっと意外な結末

やってみるとわかるのですが、ベタでもけっこう満足できるものです。

もう一つ、主人公のベタなエピソードの流れを紹介しておきましょう。

【ストーリーラインその2】

主人公は、まず何らかの失敗を犯し、それが元で大惨敗します。しかし、あることをきっかけに反撃を開始し、ついに大逆転するのです。

失敗→大惨敗→反撃開始→大逆転

この大きな流れを押さえるだけでスカッとする話が作れます。

試しに、この2つのストーリーラインを交錯させながら物語を構成してみてください。ベタです。しかし、強力です。

そして、そういう作業を繰り返すうちに、ベタな展開のどこが自分の表現したいものとどれだけ重なり、どれだけ理想と食い違っているのかを客観的に確認できるようになってきます。

物語を作るあなたのポジションがはっきりしてくるのです。

やがて物語をコントロールするすべを身に付け、自分が書いたベタストーリーに飽き足らなくなった時、初めて本当の創作が始まります。

手順を覚えるまでは苦しい作業です。しかし、薄っぺらな自尊心を捨ててこの作業をやり遂げない限り、あなたの物語はリアリティーを獲得できないのです。

この段階を省略したり、考えることさえ避けていたりしていては、本当に大切な基礎の部分、地味でも面倒でもごまかさずに作りこまなければならない箇所がいつまでたっても見えてきません。

一歩一歩、一作一作、物語を作り、それを分析すること。

上達のためにはベタでもなんでもとにかく書くこと。書いて書き続け、書き終わったら何度でも読む。それが一番の道であり、この他に道はありません。

 

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伏線と並行線(2)

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並行線を挿入するタイミング

ぴこ蔵
「前述の例ではわかりやすくするために交互にポンポンと入れてみたが、本来はやはり主線の叙述がメインであることは忘れぬようにな」

ブンコ
「なんか映画みたい」

ぴこ蔵
「映画では緊迫感を出すために、カットバックを多用することがあるが、小説の場合は、よほど特殊な場面を除き、あまりやりすぎないようにしないと読みにくくなるぞ。注意せよ」

ブンコ
「あのさー、主線に並行線を挿入するためには、どんなタイミングでどのくらいの回数が適当なの?」

ぴこ蔵
「それには実は主線と並行線の心理的、物理的な距離が関係してくる」

ブンコ
「なんだそりゃー!?」

ぴこ蔵
「文章だけで説明するよりも、図解した方がわかりやすいので、こちら↓の図を見て欲しい。

 

ブンコ
「なんなんだー、このカマボコの切り口みたいな絵は?」

ぴこ蔵
「下の直線が主線。上の曲線が並行線じゃ」

ブンコ
「上の線はなんで曲がってんの?」

ぴこ蔵
「図面上の主線と並行線との距離は、そのままストーリー上での主人公と並行キャラとの距離にあたる」

ブンコ
「つまり、遠くにいるってこと?」

ぴこ蔵
「うむ。物理的な意味でも、心理的な意味でも遠くにいるのじゃ。オープニングでは同じところにいるが、徐々に離れていく」

ブンコ
「オープニングで同じところにいるって? だって、まだ知らない同士なんじゃないの?」

ぴこ蔵
「上記の例をよく読んでみるのじゃ。オープニングで、主人公と金持ちが同じシーンに登場しておる」

ブンコ
「あ! 主人公の資料が金持ちの机の上にある! これが『同じ場面に登場する』ということかー!」

ぴこ蔵
「こうやってオープニングでしっかり印象に残るように二人の関係が語られておれば、その後は全然からまなくても読者は忘れないのじゃ」

ブンコ
「解説図に戻るけど、オープニングが終わって、Aの『大切なものが奪われる事件』が起こる頃には主線と並行線ってけっこう離れてるよねえ?」

ぴこ蔵
「この段階では、主線の人物は並行線の人物のことを知らない場合がほとんどじゃ。知っておっても関係性は薄い」

ブンコ
「一番離れているのはBのところだけど。これはどういうこと?」

ぴこ蔵
「一番離れているということは、ここからまた近づくということじゃ。ここまでは接触しなかった二人の登場人物が、B『主人公が目的を見つけて立ち上がる』ことによってストーリーの流れを反転させ、再接近しはじめるわけじゃ」

ブンコ
「Cの『どんでん返し』の頃には、また猛烈に近づいてきてる!」

ぴこ蔵
「さらに、クライマックスではついに主線と並行線が合流するのじゃ」

ブンコ
「X、Y、Zにはなんの意味があるの?」

ぴこ蔵
「これこそ並行線の挿入ポイントじゃ。主線で起こるA、B、Cそれぞれの出来事の直後に、並行線の状況を描写したシーンを挿入すること。これが最も効果的なのじゃ!」

ブンコ
「場面を並行線に切り替えた隙に、例えば主線の主人公を移動させたりできるしね! 場面転換にも使えるってことだ」

並行線を本格的に作ってみよう

ぴこ蔵
「それでは実際に作ってみよう。素材はおなじみ猫型伝奇ホラー『烏王丸』じゃ!

ブンコ
「またかー!?」

ぴこ蔵
「隅々まで分かっているあらすじじゃからな。まずは仮筋で並行線の挿入ポイントを確認しておこう。

▲印が挿入ポイントじゃ!

(ドラドラⅠ、ウルウルⅠ、フラフラⅠ)
★敵だと思って追い詰めたら、実は別にいた★

▲挿入ポイント:オープニングには必ず並行線を登場させておく。

主人公は、他には替えがたい「大切なもの」を持っている。
主人公のまわりから「大切なもの」が失われる大事件が起こる。

▲挿入ポイント:事件がはじまった直後

「大切なもの」を奪った敵を探し出す必要がある。
「大切なもの」を取り戻すために主人公は立ち上がる。

▲挿入ポイント:主人公が立ち上がった直後

急がなければ、タイムリミットがやってくる!
主人公は「偽敵」を敵だと思い込んで追い詰める。
さまざまな障害が主人公の行く手を阻む。
ところが、追い詰めた「偽敵」は敵ではなかったのだ!
そして、「本敵」が姿を現わす。

▲挿入ポイント:どんでん返しの直後

「本敵」は強烈な欲求に突き動かされていた。
タイムリミットは容赦なく迫り、危地に陥る主人公。

▲挿入ポイント:クライマックスで合流

主人公はついに「本敵」と対決する。
そして、意外な結末を迎える。

ぴこ蔵
「次に、並行線に登場する人物たちを設定しよう」

ブンコ
「えっ? 並行線って『本敵・キナコ』の視点じゃないの?」

ぴこ蔵
「それだと読者にどんでん返しがバレバレになってしまうぞ」

ブンコ
「じゃあ『偽敵・ダイゴロー』の視点?」

ぴこ蔵
「それでもバレるな」

ブンコ
「そしたら全く新しいキャラクターを作るしかないじゃん!」

ぴこ蔵
「そういうことじゃ。ところが、この物語には、すでに話の中では登場しているのじゃが、キャラクターにはなっていない重要な登場人物(組織、集団)が存在する」

ブンコ
「だれ? 100匹のネズミ?」

ぴこ蔵
「違う! 猫の宿敵、烏一族じゃ!」

ブンコ
「ああ、あのアホーがらすたちか!」

ぴこ蔵
「人のことが言えるか! ま、それはともかく、この烏一族を象徴的に表現するキャラクターを設定しようと思う。会話をするために2羽ほど設定しておこうかな。おぬしが名前をつけていいぞ」

ブンコ
「んじゃあ、ガアとクロウ」

ぴこ蔵
「よし。それではガアを年寄りの占い師、クロウを烏一族の若き王としよう」

ブンコ
「それで、どんな並行線を作るの?」

ぴこ蔵
「まずは、すでにある主線の中で、まだ『誰が言うか決まっていないセリフ』や『どんなふうに説明するか決まっていない背景』などを捜すのじゃ」

ブンコ
「あ、そっか。いずれ誰かが語らなきゃいけない事柄だもんね。あたしはただ漠然と「地の文」で説明すればいいかなと思ってたけど、それだとしらけちゃうもんね」

ぴこ蔵
「そうなのじゃ。それをやっちゃあお終いなのじゃ。烏たちにはこの部分こそを語らせるべきなのじゃ。ではさっそく、烏一族の行動内容を考えてみよう」

ブンコ
「それじゃ、この物語のおさらいも兼ねて、「誰が言うか決まっていない」部分には★印をつけてあらすじを紹介するよー!」

『烏王丸』

トラ吉は野良王国の王様。
手下に野良猫たちを従えて平和に暮らしていた。
弟分のチビや、愛人のキナコも幸せそうだ。

トラ吉は、愛する雌猫キナコのため、豪勢な宴会の準備に余念がない。
家来からの食糧難の報告にも耳を貸さず、
逆にまもなく開催されるキナコとの結婚披露大宴会のために
生きたネズミを100匹捕まえてくるように命令する。

そんな時、何者かによってトラ吉のまわりから「烏王丸」が奪われた!

「烏王丸」は王様の象徴であった。

★伝説によると「烏王丸」はその昔、猫族と烏族が大戦争をしたときに
猫族が烏族を破り、当時の族長である大烏を殺し、
その血を固めて作ったとされる。

怨みと魔力のこもった宝石で、おろそかに扱ってはならないとされていた。

その宝玉のおかげでトラ吉は近隣の王国の中でも「由緒正しき大王」と
権威を認められていた。

宝玉が盗まれたとすると、近隣の王たちを集めて行う
結婚披露大宴会に支障が出る。

結婚披露宴までにはあと3日の猶予しかない。

失ったものを取り戻すためにトラ吉は立ち上がる。

弟分のチビに調査させると、以下のような報告が上がってきた。

「ダイゴローは最近どこかからやって来た渡り鳥ならぬ渡り猫。
乱暴者で、王国の国民達も被害を受けております」
トラ吉は大切なものを奪った犯人をダイゴローだとにらむ。

トラ吉は誰にも知られないように、ネズミ狩りだと偽って
ダイゴロー討伐の旅に出た。

ダイゴローを敵だと思い込んで追い詰めた。

ところが、そこに弟分のチビが現れて王を止める。

ダイゴローは本当の敵ではなかった。

弟分のチビによって密かに王国に呼ばれた賢者であった。
ダイゴローは、烏王丸の魔力について知っていた。

烏王丸には邪悪な魔力が封印されていた。

もともとは強い満足感を与える宝玉として重宝されていたが、

実は中毒性があり、これを長期間舐め続けると、習慣性、依存性が現れる。
そしてある日、凶暴な吸血鬼になってしまうのだ。

そして、本当の敵キナコが姿を現した。
配下の猫がそれを報告に来た。

ダイゴローが一振りの剣を差し出した。

★吸血鬼を倒すためには、この剣で、吸血鬼の心臓を刺すしかないのだ。

トラ吉はしかし、それを持たずに立ち去る。

縄張りに戻ると、猫たちに遠巻きに囲まれて、キナコが仁王立ちしていた。
尻尾は二つに割れ、本来は薄茶色の毛皮が漆黒に染まり、
血のように赤い目をしている。

キナコの足元で断末魔の悲鳴が聞こえた。
そこには2匹の野良猫が無残な姿で踏みつけられていた。
「キナコ! なんということだ!」
「トラ吉よ、おめえは知らなかったのかい。烏王丸をしゃぶると、
腹が減らなくなって、おまけに力が強くなるんだぜ。
犬だって前脚の一振りで殺せちまわあ。
でもなあ、そのかわり喉が渇いて生き血が飲みたくなるんだよ。ひひひ」

★キナコは「食欲の欲求」を満足させるために烏王丸を盗み出し、
隠れて舐め続けていたのだ。
そしてキナコは烏王丸を舐めているうちに吸血鬼へと化していた。

トラ吉は壮絶な死闘の末、化け猫となったキナコの胸を剣で刺し貫く。

王国は平和を取り戻す。その後、トラ吉は一生独身で過ごしたという。

ぴこ蔵
「まだ『誰が言うか決まっていないセリフ』や『どんなふうに説明するか決まっていない背景』は以下の3つじゃ」

★伝説によると「烏王丸」はその昔、猫族と烏族が大戦争をしたときに猫族が烏族を破り、当時の族長である大烏を殺し、その血を固めて作ったとされる。

★吸血鬼を倒すためには、この剣で、吸血鬼の心臓を刺すしかないのだ。

★キナコは「食欲の欲求」を満足させるために烏王丸を盗み出し、隠れて舐め続けていたのだ。
そしてキナコは烏王丸を舐めているうちに吸血鬼へと化していた。

ブンコ
「これを占い師ガアや烏王クロウが説明すればいいのね?」

ぴこ蔵
「うむ。しかし、並行線の役割はそれだけではないぞ。これから起こる惨劇の予告や、クライマックスシーンの盛り上げもせねばならん」

ブンコ
「司会進行かー。責任重大だねー」

ぴこ蔵
「見方を変えれば、非常においしいキャラクターなのじゃ。それでは、その行動の内容を考えてみよう」

ブンコ
「並行線のオープニングは、烏の占い師ガアが猫一族の未来を予言するところがいいと思いまーす」

ぴこ蔵
「ふむふむ。その内容は?」

ブンコ
「ずばり、惨劇の予告。誰かが烏王丸を狙っているという話や、近々猫族に恐ろしいことが起こるという怖い前フリがいいのでは」

ぴこ蔵
「それでは次の挿入ポイント、『烏王丸が奪われた直後』にはどんな並行線が入る?」

ブンコ
「★印の部分から“烏王丸の伝説”の紹介。あと、この辺で何かアクションがほしいなー。烏王クロウが猫族の様子を見に飛び立つってのはどう?」

ぴこ蔵
「なるほど、なかなか良いではないか。では、その次、『主人公が立ち上がった直後』はどうする?」

ブンコ
「この時点では、読者はダイゴローを疑っているわけだよね。だから、その疑惑に拍車をかけるような動きをさせる!」

ぴこ蔵
「というと、どうすれば読者はダイゴローを敵だと思うかな?」

ブンコ
「猫族の旧敵である烏族とつながりがあるような印象を与えるのよ。ダイゴローめは猫族を裏切って烏族と内通しているぞ、みたいな」

ぴこ蔵
「烏王クロウとダイゴローが謎めいた会話をするとかな。よし、それでは次じゃ! 『どんでん返しの直後』はなんとする?」

ブンコ
「ここまで来ればもう真犯人の正体がバラせるね。★印の部分から『キナコが吸血鬼になる』ことを予告する」

ぴこ蔵
「さあ、それでは最後のクライマックス、烏王クロウは猫たちの戦いにどうからむ?」

ブンコ
「烏の軍団を引き連れて、吸血鬼と化したキナコに上空から攻撃を仕掛けるというのはどうかなー?」

ぴこ蔵
「そりゃまた一体何のためにじゃ? なぜ猫族を助けるのじゃ?」

ブンコ
「猫とは仇敵でも見殺しにしてはいかんという決まりがあるのよ。それが烏王丸の取り決めなの。
仲が悪くても協力しなければダメなのよ。お互いに。吸血鬼は倒さなければならない敵なの。悪魔なの」

ぴこ蔵
「よし、それを文章にするのじゃ!」

ブンコ
「▲の部分が、並行線として新たに付け加えた部分です。原型の文章も、並行線との関係で少し改訂しています!」

『烏王丸』あらすじ

▲烏の根城である森の高い木の上で1羽の烏が瞑想している。
烏族の占い師ガアである。
ガアは近々猫族に恐ろしいことが起こることを占う。
「烏王丸の呪いが目を覚ます…」

トラ吉は野良王国の王様。
手下に野良猫たちを従えて平和に暮らしていた。
弟分のチビや、愛人のキナコも幸せそうだ。

トラ吉は、愛する雌猫キナコのため、豪勢な宴会の準備に余念がない。
家来からの食糧難の報告にも耳を貸さず、
逆にまもなく開催されるキナコとの結婚披露大宴会のために
生きたネズミを100匹捕まえてくるように命令する。

そんな時、何者かによってトラ吉のまわりから「烏王丸」が奪われた!

「烏王丸」は王様の象徴であった。

▲占い師ガアは若き烏王クロウに予言の話をしている。
「我々烏族の伝説によると「烏王丸」はその昔、
猫族と烏族が大戦争をしたときに
猫族が烏族を破り、当時の族長である大烏様を殺し、
その血を固めて作ったとされる宝玉でございます。
これを機に両族の間では戦争を止めたという契約が結ばれました」
「猫族にとっては武勇の証、我ら烏族にとっては屈辱の印。
できれば歴史から消し去ってしまいたいものだ…猫どもめ」
そう言うと烏王クロウは大きな黒い翼を広げて飛び立った。

トラ吉は腹心のチビに語る。
怨みと魔力のこもった恐ろしい宝石ではあるが、
おろそかに扱ってはならないとされてきた『烏王丸』のおかげで
トラ吉は近隣の王国の中でも「由緒正しき大王」として
その王位の権威を認められていた。

それなのに、宝玉が盗まれたとすると、近隣の王たちを集めて行う
結婚披露大宴会に支障が出るではないかとトラ吉は歯噛みする。

結婚披露宴までにはあと3日の猶予しかない。

失ったものを取り戻すためにトラ吉は立ち上がる。

▲その頃、深い森の奥、ダイゴローと呼ばれるはぐれ猫が
烏王クロウと謎めいた会話を交わしていた。
「猫族は烏の呪いの恐ろしさを知ることとなるだろう」
「多くの猫の血が流れることになるでしょう」

トラ吉のもとに、ダイゴローに関する報告が上がってきた。

「ダイゴローは最近どこかからやって来た渡り鳥ならぬ渡り猫。
正体の知れぬ不気味な猫で、烏と話をしているところを目撃したものもおります」
トラ吉は大切なものを奪った犯人をダイゴローだとにらむ。

トラ吉は誰にも知られないように、ネズミ狩りだと偽って
ダイゴロー討伐の旅に出た。

ダイゴローを敵だと思い込んで追い詰めた。

ところが、そこに弟分のチビが現れて王を止める。

ダイゴローは本当の敵ではなかった。
それどころか、ダイゴローは弟分のチビによって密かに王国に呼ばれた
猫の賢者であった。
ダイゴローは、烏王丸の魔力について知っていた。

烏王丸には邪悪な魔力が封印されていた。
もともとは強い満足感を与える宝玉として重宝されていたが、
実は中毒性があり、これを長期間舐め続けると、習慣性、依存性が現れる。
そしてある日、凶暴な吸血鬼になってしまうのだ。

そして、ついに本当の敵キナコが化け物となって姿を現した。
配下の猫がそれを報告に来たが、トラ吉は信じようとしない。

▲ダイゴローはここでトラ吉に烏王クロウを紹介する。
烏王クロウはトラ吉に鳥達が見た情報を伝える。
「烏王丸を盗み出したのは確かにキナコと呼ばれている雌猫だ。
キナコは「食欲の欲求」を満足させるために烏王丸を盗み出し、
隠れて舐め続けていたのだ。
そしてキナコは烏王丸を舐めているうちに吸血鬼へと化したのだ」

それを聞いたトラ吉はクロウに謝罪する。
「祖先の契約の徴しである烏王丸を紛失して申し訳ない。
この命に換えても必ず奪還する。契約とはそういうものだ」

ダイゴローが一振りの剣を差し出す。

▲「吸血鬼を倒すためには、この剣で心臓を刺すしかありません」

しかしトラ吉は首を振ると剣を持たず黙って立ち去る。

縄張りに戻ると、猫たちに遠巻きに囲まれて、キナコが仁王立ちしていた。
尻尾は二つに割れ、本来は薄茶色の毛皮が漆黒に染まり、
血のように赤い目をしている。

キナコの足元で断末魔の悲鳴が聞こえた。
そこには2匹の野良猫が無残な姿で踏みつけられていた。
「キナコ! なんということだ!」
「王様、あたしはただ淋しかっただけなの。あなたのお気持ちが離れていくのが」
「馬鹿を申せ。わしはお前を変わらず愛しておる」
キナコの目から血の涙が噴き出した。
「もう遅いのだ! トラ吉よ、世間知らずの貴様は知るまい。
女という生き物はな、胸が空っぽになるとと腹が減るのだ。
ところが、烏王丸をしゃぶると、
腹が減らなくなって、おまけに力が強くなる。
犬だって前脚の一振りで殺せるほどに。
だがな、そのかわり喉が渇いて生き血が飲みたくなるのだ。ひひひ」

▲吸血鬼となったキナコは恐ろしく強く狂暴だった。
多くの猫たちが命を失い、トラ吉さえも危うくなったその時、
空中から烏たちが急降下し、トラ吉の窮地を救った。

烏王クロウが叫んだ。
「烏王丸はわが先祖の血! そして契約!
お前達がそれを奉ずる限り、我等烏族は猫族と共にある!」

その時、チビが駆け寄ると
あの吸血鬼殺しの剣をトラ吉に差し出した。
「哀れなキナコのためにもこの剣をお取りください」

トラ吉はその剣をとると、化け猫となったキナコの胸を刺し貫く。

王国は平和を取り戻す。その後、トラ吉は一生独身で過ごしたという。

ぴこ蔵
「こんな感じじゃ。ドラマが生き生きしてきたのではないかな?」

ブンコ
「なかなかいいホラ話になったよ」

ぴこ蔵
「ホラーじゃ!」

 

ぴこ蔵ニュースレター

『生成AI時代のストーリーテリング』

生成AIに対抗できるライティング技術を手に入れたければ「どんでん返しのスキル」を身に付けることです。このニュースレターでは文字コンテンツを発信したいあなたに、小説のプロットから記事の構成にまで使える『物語の技法』を徹底解説。謎と驚きに満ちた、愉快で痛快なストーリーの作り方を伝授します。

伏線と並行線(1)

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伏線について

ぴこ蔵
「ブンコちゃんよ! 何ぞ面白いアイデアは浮かんだかな?」

ブンコ
「こんなのはどうかなー? 主人公が道を歩いていて、偶然、手帳を拾うの。その手帳には、近所の家の住所を書いてる。で、主人公がなんとなくその家の前を通りかかるんだけど、偶然その時、持ち主は留守なの。でも、偶然、持ち主が鍵をかけ忘れてたもんで主人公はなんとなく家の中に入っちゃうのよね。

そしたら偶然持ち主が帰ってきて主人公はあわてて隠れるの。それでクローゼットからのぞいてたらその家に住んでいるのはなんと偶然にも昔の初恋の人だったのよ。

でも、泥棒だと思われるから出るに出れないの。そのうちにとうとう初恋の人がクローゼットを開く。どう? ちょっとロマンチックなコメディーでしょ?」

ぴこ蔵
「“なんとなく”とか“偶然”が多すぎる!」

ブンコ
「えへへ! やっぱりなー」

ぴこ蔵
「物語において最も慎重にならなければならないのがこの『偶然』の使い方じゃ。例えば、主人公にあることをさせたいとする」

ブンコ
「どうしても初恋の人とクローゼットで再会させたいんだよねー」

ぴこ蔵
「しかし、その目的を果たすまでに偶然は2回も3回も起こってはならない。さすがにどんな辛抱強い読者も怒り出すぞ」

ブンコ
「じゃーどーすりゃいいのさー」

ぴこ蔵
「偶然が重なりそうな時は、できるだけ『必然』に転化すること。そしてそうなった理由をあらかじめ読者に見せておくこと。なお、いくつもの偶然をまとめて処理したいときには流れを自動化しておくことがコツなのじゃ」

ブンコ
「自動化って何? ベルトコンベアみたいなもの?」

ぴこ蔵
「そうじゃ。この場合は例えば、

初恋の人が技術者で、たまたま『完全自動帰宅システム』みたいなものを研究中。しかし未完成でうまく動かない…という設定を見せておく。

玄関で機械に手帳のバーコードを読ませると、自動的にドアが開き、歩道が動き、コートを脱がせ、それをクローゼットに仕舞ってくれる装置。

ところが、未完成で、コートの代わりに人間をクローゼットに叩き込んで閉じ込めてしまうのじゃ。

そうすると、主人公が手帳を取り出せば後は自動的に事が進み、クローゼットに…ということを読者が予測できるわけじゃ」

ブンコ
「先にそういう仕掛けを作って、見せておくのかー。でも、なんでそんなことを?」

ぴこ蔵
「こうしておけば、読者は『唐突感』に襲われずにすむ。前もって知っていたからすでにその道具の意味も理解済みなのじゃ。手に入れてからいちいち説明する手間も省けるので、ストーリーのテンポを崩すことがない」

ブンコ
「こんな仕組みがあったら繰り返して使っても面白いしねー」

ぴこ蔵
「こういう風にあらかじめ自動装置を前フリしておくことを『伏線を敷く』というわけじゃな」

ブンコ
「これが伏線かー!」

ぴこ蔵
「ただし“伏線”というのはいったん忘れさせることが重要である。なぜなら、「忘れた」ものは「思い出す」ことができるからである。この「思い出す」という作業が読者の心を奪うポイントなのじゃ」

ブンコ
「なんでわざわざそんなことするの?」

ぴこ蔵
「何かを思い出した時、人間はハッとするじゃろ? その瞬間、思わず我を忘れて夢中になってしまうものなのじゃ。それが人間の脳の仕組みなのじゃ」

ブンコ
「伏線敷いたら、ちょっと他の話でもして間を置くわけね?」

ぴこ蔵
「面白いと感じさせるストーリー作りとは、こういう『脳の仕組み』を利用する仕掛けをいくつも積み重ねて、人の心を夢中にさせていくことなのであーる」

ブンコ
「手品師みたいなもんかなー?」

ぴこ蔵
「言えておるな。手品師の技術と科学者の冷徹な眼が必要なのである」

ブンコ
「でも、ちょっと詐欺師みたいでもあるなー」

並行線について

ぴこ蔵
「オホン。ところで、物語には、この伏線と同じような機能を持ち、伏線よりもさらに長大で重要なサブストーリーが必要になる場合が少なくない。それが今回のテーマ『本筋と並行して進む物語』である」

ブンコ
「つまり同時進行するでっかい伏線だね!」

ぴこ蔵
「見よう見まねですでに無意識に使っている人もけっこういると思うが、意識的に使えればそれに越したことはない。それではすぐに使えるように実践的な例を示そう。お題はこれ!」

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

●金持ちが泥棒をつかまえる話

↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

ブンコ
「金持ちが泥棒をつかまえる?」

ぴこ蔵
「この素材で面白いストーリーのオープニングを作ることにしよう。普通に考え付くのは【泥棒が金持ちの屋敷に忍び込んで、へまをしてつかまる】みたいな話であろう」

ブンコ
「うーん、あまりふくらまないなー」

ぴこ蔵
「面白くするためには、本物の泥棒の技術を学んでそのノウハウの面白さで盛り上げるという手もあると思うが、それならむしろノンフィクションを書いたほうがよいのじゃ」

ブンコ
「あたしのように一流ストーリーテラーを目指すものとしてはこれじゃ物足りないなー。ぴこ蔵師匠、なんかない?」

ぴこ蔵
「それでは登場人物のキャラを少しひねってみよう。「裏切りあう言葉」の技を使ってみるのじゃ。こういうのはどうじゃろう? 『善人の泥棒、悪党の金持ち』 するとこうなる…」

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

●悪党の金持ちが善人の泥棒をつかまえる話

↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

ぴこ蔵
「どうじゃ? 少しはインパクトが出てきたじゃろ?」

ブンコ
「なんか水戸黄門の前半30分みたいな話だなー」

ぴこ蔵
「うん、言えておる。これはまさにオープニングで、この後、悪党の金持ちはぎゃふんと言わされるのじゃが、今日はその話はしない。泥棒がつかまる所までじゃ」

ブンコ
「ケチくさいなー。でも、全部語られても長くなりそうだしねー」

ぴこ蔵
「それにしても善人の泥棒とはどんな人間じゃろう? どうやれば善人が他人の屋敷に盗みに入るのじゃろう?」

ブンコ
「よっぽどのことがない限りそんなことしないと思うよ」

ぴこ蔵
「わかっとるわい! そのよっぽどのことを起こすのがドラマ作りなのじゃ。まずはストーリーにアクションを付けてやること。強引でも全然かまわない。とにかく泥棒を金持ちの屋敷に押し込んでやるのじゃ!」

●泥棒の前科がある男がいる。
男が町を歩いていると黄金の鍵を拾う。
それには金持ちの名前と「金庫の鍵」という名札が付いていた。
男はさっそく金持ちの家に盗みに入る。
ところが金持ちの家にはたくさんの猛犬が放し飼いにされていた。
男は犬に追いかけ回されて捕まってしまう。

ぴこ蔵
「これで何とかストーリーが動き出す。しかし…

『泥棒が鍵を拾う』という馬鹿馬鹿しい偶然。
『鍵に名札が付いている』というあり得ない小道具。
『屋敷に猛犬が放し飼い』という都合のよすぎる状況。

この強引な設定を、おぬしは読者に納得させなければならない。ただし、

『たまたま強運の持ち主である泥棒は鍵を拾った』
『そのうえ持ち主がたまたま整理整頓好きで名札を付けていた』
『しかも、偶然にも大型犬の飼育が趣味の金持ちの屋敷だった』

などと書いたらその瞬間、読者は読むのをやめる」

ブンコ
「え~っ!? なんでなんで?」

ぴこ蔵
「『偶然』が2度も3度も重なることを『奇跡』と呼ぶ。例えばO・ヘンリーの「緑の扉」のように『奇跡』そのものが明確なテーマである話を除いて、そんなにたびたび奇跡が起こる物語なんてつまらないではないか。とたんに読者はこの物語が作り物であると感じて醒めてしまう」

ブンコ
「確かにねー。他人が3回も宝くじを当てた話はムカツクよう」

ぴこ蔵
「ところが、泥棒に鍵を拾わせたのも、鍵に名札をつけておいたのも、屋敷にちょうど猛犬を放っていたのも、すべて金持ちが仕組んだ罠だったとすればどうじゃ?」

ブンコ
「ワザとだったら納得できる! 罠だったのかー! 悪い奴だなー」

ぴこ蔵
「罠を仕掛けるような金持ちはじゅうぶん悪党っぽいじゃろ? あとは泥棒が善人であるような理由を作ればよいのじゃが、おぬしならどう設定する?」

ブンコ
「子供が病気で、お金が欲しくてやむを得ずっていうのはどう?」

ぴこ蔵
「どんな理由であっても犯罪は犯罪じゃが、ま、この場合は金持ちが罠を仕掛けているということもあるので、読者の同情もひけるじゃろう。その理由で行ってみよう。

では、いよいよ主人公は罠の待ち受ける屋敷へ侵入するのじゃ!」

ブンコ
「待ってよ! 罠が待ち受けてるってことを読者に伝えるにはどうするの? 主人公は『金持ち』が罠を仕掛けていることなんて知らないよ。主人公が知らないことはどこに描けばいいの?」

ぴこ蔵
「そこで二人の視点を別々に描くのじゃ。

主人公の視点(●)と、金持ちの視点(▲)。
2つの物語が並行して進んでいって、やがて交わる。(●▲) 」

ブンコ
「●主人公の男の話が「主線(メインプロット)」、
▲金持ちの話が「並行線(サブプロット)」ということになるんだね」

ぴこ蔵
「わかりやすくするために交互に描いてみよう」

●主人公がいる。貧乏である。
主人公には前科があった。その世界ではちょいと名の売れた泥棒だったのだ。
しかし、主人公は10年前に捕まり、長い間刑務所暮らしをした。
▲そんな前科持ちの主人公の資料を机の上に広げて
葉巻をくゆらしている金持ちがいる。
彼はさらなる金儲けのために、あるものを盗みたがっていた。
そのために腕のいい泥棒がひとり欲しい。
そこで主人公に狙いをつけたのだ。

●今は2歳になる娘が生まれて以来、
主人公はもう二度と泥棒はやらないと決めていた。

▲金持ちはたくさんの猛犬と訓練士を雇い入れ、屋敷の中に放ち、
人間を追い込む訓練をはじめる。

●主人公は苦悩していた。
娘が重い病気なのだ。高価な薬を飲ませれば治るという。
だが、主人公にはその金がなかった。
▲金持ちは今度は、巨大な黄金色の金庫を作らせ、
町中を目立つように練り歩かせてから自分の屋敷に運びこませた。

●前科持ちの身では、高い給料がもらえる仕事にはありつけない。
主人公は目を光らせて金持ちの金庫を見つめていた。
▲金持ちは次に自分の名前を彫りこんだ黄金の鍵を作り、
「金庫の鍵・予備」という名札を付けて、主人公の目前でわざと落とさせた。

●その鍵を拾った主人公は、ベッドでぐったりする娘の姿を見ながら
何事かを考えていたが、その夜、ついに金持ちの屋敷に忍び込んだ。

▲●待ち構えていた金持ちの合図とともに、たくさんの猛犬が放たれた。
主人公は犬に追いかけ回されて捕まってしまう。

▲●そこへ金持ちが現れ、自分の計画への協力を要請する。
「断ればお前はまた刑務所行きだ」
主人公は仕方なくうなずく。

ぴこ蔵
「以上じゃ。どうじゃな? 悪い金持ちのベタな作戦を笑いながらも、手に汗握るなかなか面白い展開にふくらんだのじゃ」

ブンコ
「つまり、一つの事件を二つ以上の視点から見て進行することで、主人公の行動と同時に起こっている裏の出来事や迫りつつある危機がわかるわけだね!」

ぴこ蔵
「これから主人公を襲う危険の予告ができるから読者はハラハラドキドキ。サスペンスがぐっと盛り上がるのじゃ!」

ブンコ
「これなら主人公がのんびりしていても、読者は陰で進行している悪事のことを忘れないよね!」

ぴこ蔵
「これが並行線の効果なのじゃ!」

 

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『生成AI時代のストーリーテリング』

生成AIに対抗できるライティング技術を手に入れたければ「どんでん返しのスキル」を身に付けることです。このニュースレターでは文字コンテンツを発信したいあなたに、小説のプロットから記事の構成にまで使える『物語の技法』を徹底解説。謎と驚きに満ちた、愉快で痛快なストーリーの作り方を伝授します。

意外な結末とオチ

『どんでん返し』と『意外な結末』の違い

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ブンコ
「突然なんだけどさ、師匠」

ぴこ蔵
「なんじゃらほい?」

ブンコ
「そもそもどんでん返しってどんなもの? いや、そりゃなんとなく大雑把には分かってるつもりなんだけど、いまいちピンと来ないんだよね~」

ぴこ蔵
「むむ。それはマズイなー。どの部分がどんでん返しなのかがきっちり見抜けないことには、いつまでたっても正確に技を使いこなせないのじゃ」

ブンコ
「だからもっとこう具体的にさ、これがどんでん返しだっていうのを教えてくれないと、自分はどんでん返しだと思い込んでいても『意外な結末』だとか『オチ』だとか言われちゃうとさ、自信がなくなっちゃう」

ぴこ蔵
「ならば簡単な見分け方を一つ教えておこう。『どんでん返し』はクライマックスの直前に起こって、物語を一気に盛り上げる号砲となる!」

ブンコ
「号砲って何だ? 警報みたいなもん?」

ぴこ蔵
「大砲とか銅鑼の音とか法螺貝とかサイレンみたいなもんじゃな。これからコトが始まりますぞー、というお知らせじゃな」

ブンコ
「そっかー、どんでん返しの後にクライマックスに突入するのか……」

ぴこ蔵
「例えば、ある事件でどんでん返しが起こり、真犯人の正体が明らかになるとしよう。すると真犯人は高笑いしてこう言う。

『ワッハッハー、よく気がついたな! その通り、私が真犯人・怪盗手品師ピコピーコであーる! しかし、ちょっとばかし遅かったようだな。これを見たまえ、君たちの大切なダイヤモンドは先ほど私がすりかえておいたのだ!』

 さあ、どうする名探偵ブンコ!」

ブンコ
「チクショー! 待てーッ、大泥棒! アタシのダイヤを返せ!」

ぴこ蔵
「そして物語はクライマックスに突入するのじゃ!」

ブンコ
「なるほど、『どんでん返し』はクライマックスの始まりなわけだね」

ぴこ蔵
「それに対して『意外な結末』は、そのクライマックスの大問題が最終的に解決される場面のことじゃ」

ブンコ
「ってことはつまり、さっきの泥棒手品師の話で言うと……」

ぴこ蔵
「……その時、名探偵ブンコはとっさに壁の隠しボタンを押した! すると怪盗手品師ピコピーコの足元が音を立てて崩れ、大きな穴が開いた! あわれピコピーコはその穴に真っ逆さま。床下はるかの荒海へと落ちていったのである」

ブンコ
「しまった! アタシのダイヤが……」

ぴこ蔵
「……ところがぎっちょん、落ちていく怪盗手品師のポケットから一羽のハトが飛び出した。ハトは羽ばたくとぐんぐん上昇し、ブンコの肩に止まった。するとそのクチバシには、なんとあのダイヤモンドがしっかりとくわえられていたのだった」

ブンコ
「ああっ、お前はアタシが幼いころ飼っていた伝書鳩のクーポ!」

ぴこ蔵
「そして名探偵とお手柄の伝書鳩は、いつまでもうっとりと輝く宝石を見つめるのであった。めでたしめでたし」

ブンコ
「くわ~っ! これが『意外な結末』かーっ!」

ぴこ蔵
「もちろんこの鳩と名探偵の関係を語るエピソードは出来るだけ序盤の段階で描いておかねばならない。しかも、いったんそのことを読者に忘れさせておくような工夫も必要じゃ」

ブンコ
「『どんでん返し』と『意外な結末』の違いはなんとなくわかったよ。それじゃ『オチ』はどうなるの?」

ぴこ蔵
『オチ』というのはじゃな、『どんでん返し』と『意外な結末』がいっぺんに起こることをいう

ブンコ
「例えば?」

ぴこ蔵
「……穴から落ちていった怪盗。呆然として残された名探偵と関係者の皆さん。やがてジェニガッタ警部が言う。

『えー、そんなわけで皆さん、ご覧のとおり怪盗とダイヤモンドは海の藻屑と消えました。さてこれからどうしましょ?』

収まらないのはダイヤの警備係・ゲス夫。名探偵ブンコに掴みかかって怒声を浴びせる。

『このヘボ探偵! てめえがあのボタンを押したからこうなったんじゃねえか! 責任取れ! 10億円払え!』

そのはずみに足がもつれてゲス夫とブンコは穴に転落。慌ててはるかな海面を覗きこむジェニガッタ警部。しかし、夜の海、しかも霧が出てきて何も見えない。

途方に暮れる警部はやがて首をふるとつぶやいた。

『まあ、しかたないな。これは単なる事故だ。それ以外に私の責任を問われるような事件は何も起こらなかったことにしよう』」

ブンコ
「アタシのダイヤと命はどうなった?!」

ぴこ蔵
「……その頃、海面では一艘のクルーザーが落ちてきた3人を回収していた。ずぶ濡れの名探偵と警備係にシャンパングラスを渡して、怪盗は言った。

『2年越しの計画は大成功! お疲れ様でした! それでは我々の友情に乾杯!』」

ブンコ
「なるほど、実は警備員と探偵と怪盗がグルだったのか。そんでもってみんなで警部をたぶらかしたと。これが『オチ』なんだね!」

ぴこ蔵
「まあ、急ごしらえのへっぽこコン・ゲームで申し訳ないが、言いたいところは分かってくれたかな」

ブンコ
「一応分かったけど、さすがにこれだけじゃ不安だからさ~、もっと実際の作品の例を教えてよ」

ぴこ蔵
「よかろう。具体的な作品名を挙げておくので、実際に読んでみることじゃな。ここでわしがネタバレして解説したところで、そんなに気やすくお主の身には付かないじゃろうて。鵜の目鷹の目、本気で見破ろうとしなければ真髄は見えてこないものなのじゃ。

と言っても、世の中にどんでん返し入りの作品はごまんとあるぞお。まあとりあえず誰もが知っている有名作家のものを紹介してみよう。

例えばわしが好きなのはおなじみ天才人喰い博士ハンニバル・レクターが登場する『レッド・ドラゴン』(原作:トマス・ハリス)じゃな。シリアルキラーの残虐な連続殺人事件が描かれるサスペンスなのにも関わらず、どんでん返しの伏線となる美しくもロマンティックなラブストーリーの構成がお見事である。

また、どんでん返しの達人といえばジェフリー・ディーヴァーかな。中でも『コフィン・ダンサー』のどんでん返しには恐れいった。

ミステリーの大御所、アガサ・クリスティーの短編『青い壷の秘密』『第四の男』などは短編なので時間がかからずに要点がわかり、しかも面白い。超おすすめなのじゃ!(創元推理文庫『クリスチィ短編全集1』

ディーン・R・クーンツのベストセラーで言えば『汚辱のゲーム』や『ストレンジャーズ』にどんでん返しがあるし、ジョニー・デップ主演の映画『シークレット・ウインドウ』並びにその原作となったスティーヴン・キングの中篇小説『秘密の窓、秘密の庭』(文芸春秋『ランゴリアーズ』収録)は、普段、この手のどんでん返しを使わないキングが珍しく書いたミステリー風の作品。

日本のものなら藤沢周平の『隠し剣孤影抄』(文春文庫)に収録されている『必死剣鳥刺し』なんかどうじゃ。時代小説の名人中の名人が贈る珠玉の傑作短編にはよく読むとラブストーリーの鉄則まで入っていてお得なのじゃ。

きりがないので後1つだけ。

映画『スティング』はポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが共演した傑作名画じゃ。二人の詐欺師がギャングのボスを騙すために命がけで頑張るストーリーなのじゃが、この作品にはどんでん返しもあるが、それとは別にオチがある」

ブンコ
「おっと出たね! 1本で2度おいしいってやつだね!」

ぴこ蔵
「『スティング』のどんでん返しのほうは『主人公を狙う凄腕の殺し屋の正体』で、オチはまさにラストシーンのサプライズなのじゃ。これはまあ本当に面白い映画なのでまだなら必ず観たほうがいいぞ」

ブンコ
「うーん、詳しく知りたいけど、そんなに面白いんなら観てみるよ。だからとりあえずそれ以上のネタバレ解説はしなくていいや!」

ぴこ蔵
「まあ、構造的に言うとすればこうなるかな。

物語を面白くするには3つのポイントがある。主人公の目的と、それを邪魔する敵や障害、そして主人公の変化じゃ」

ブンコ
「それは前にも聞いたな」

ぴこ蔵
「問題はその次。つまり、物語を面白く、エキサイティングに語ろうとするならば、主人公が目的を果たそうとするストーリーラインと、主人公が敵と戦うストーリーライン、そして主人公が変化するストーリーラインの3本の筋が必要だということじゃ。そしてそのストーリーラインが交錯する瞬間に『どんでん返し』や『オチ』が発生する」

ブンコ
「えっ? そういうことなの?」

ぴこ蔵
「もちろんじゃ。これらを一緒くたに一本のストーリーで語ろうとするからお主の物語はごちゃごちゃのボケボケになってしまうのじゃ」

ブンコ
「べ、別々に作るのかー。でもどうやって?」

ぴこ蔵
「そこで大事なのが『伏線』と『並行線』なのであーる」

 

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