主人公は変化・成長しなければならない
なぜなら、それが人間を描くことだからであり、感動の焦点だからじゃ。ここでは、具体的に何を書けば「主人公の成長」を表現できるか? について研究している。コツは「選択肢」にあった。
主人公の成長
ぴこ蔵
「さて、物語に『魂』を注入するとしよう。つまり「テーマを表現する」ということじゃ」
ブンコ
「えーっ? そんなこと考えてないよー」
ぴこ蔵
「考えていなくとも、物語である限り自然に備わっているものじゃ。中でも「主人公の成長」を明確に描くことは読者に感動を与える大事なテーマの一つじゃ!
ただし、ここで気をつけたいことがある。成長するためには、主人公が「行動」することが重要なのじゃ。しかし「行動」で表わすというのは実はけっこうむずかしくて、“具体的に何をすればいいのか分からない”という場合が多いのじゃよ。
そこで、ここでは手っ取り早く「選択」という方法を使うのじゃ。あらかじめ、主人公が取るべき行動を2つの選択肢にしておいて、主人公に「選択」させるわけじゃな。
その選択肢は「テーマを表現するために主人公がしなければならない行動」とは何かを考えることによって作り出せるのじゃ。そして、この選択は2度行われなければならない」
ブンコ
「へっ? 2度? どーして?」
ぴこ蔵
「『最初の選択』と『第2の選択』で同じような内容の選択肢が提示され、主人公はそれぞれ違う選択をする。最初は未熟な思考によって誤った選択をする。2回目は何事かに開眼して見事に正解を選択する。そのことによって主人公の「成長」を明らかにするわけなのじゃ。
応用としてわざと同じ選択をすることで「成長」を見せるという、読者の予想の裏をかくひねりを効かせた高等テクニックもあるが要はさまざまな意味での成長を具体的に例示できればよい」
ブンコ
「つまり、主人公に同じようなシチュエーションで2回、次に起こす行動を選択させるわけだなー。で、1回目の選択はいつやればいいの?」
ぴこ蔵
「できるだけ最初の方じゃ。オープニングでもかまわん」
ブンコ
「どんな選択肢を作ればいいの?」
ぴこ蔵
「主人公の性格を説明し、その未熟さを表現するために、ストレートに欲求を表わす選択をさせるのじゃ。例えば『主人公は空腹を感じたのでパンを盗んで食べた』みたいな」
ブンコ
「それじゃあ、2回目の選択はいつやんの?」
ぴこ蔵
「これはちょっと難しいぞ! 物語の後半で、どんでん返しが起こった直後じゃ。このタイミングで1回目の選択とは逆の選択をするのじゃ!」
ブンコ
「逆ってつまり、食べたパンを吐き出して空腹になるってこと?」
ぴこ蔵
「違うわいっ! 空腹でもパンを盗んだりしないということじゃっ!」
ブンコ
「なんだ、簡単じゃん」
ぴこ蔵
「そして、実はここでもうひとつ注意点があるのじゃ」
ブンコ
「まだ~?」
ぴこ蔵
「なぜ2回も選択する必要があると思う?」
ブンコ
「だから、1回目と2回目で別の選択をすることで主人公が成長したことを伝えるんでしょ? 最初は盗んだパンにかぶりついてた奴が、大人になったんで、腹が減ってもパンを盗まなくなるわけだ」
ぴこ蔵
「読者はそう感じるわけじゃが、作者は反対に考える。つまり『第2の選択』で「成長した主人公」を表現するわけじゃから、そのために『最初の選択』は『未熟な選択』でなければならん」
ブンコ
「なるほど! 最初から完成された人格を持った主人公は変化しづらいけど、主人公が未熟だと成長させやすいってことだー」
ぴこ蔵
「その通り! 最初、主人公は未熟であること。成長の余地を残したキャラであることが大事なのじゃ」
ブンコ
「そこであんまり主人公に自分を投影しすぎないようにしないと、つい立派すぎる主人公を作っちゃうおそれがあるんだよね」
ぴこ蔵
「最初から完璧に描いてしまうと、どうしても無理が来るのじゃ。成長させようとすると想像力が追いつかず絵空事になってしまう。
それから、無意識というのは怖ろしいものでな、主人公が自分と一心同体になっておると、その身をまるで我がことのように心配してしまうことがある。
せっかく作った、鋭いガラスの破片で覆い尽くされた床。なのに、主人公は靴底に分厚い鉄板の入ったブーツで走ったりしてしまう」
ブンコ
「あうっ! だって痛そうだったから……」
ぴこ蔵
「毒蛇うようよの穴に落ちた主人公が、誰一人噛まれてもいないうちからさっさと火炎放射で蛇を焼き尽くす」
ブンコ
「げげぶっ! だって気持ち悪すぎるんだもん……」
ぴこ蔵
「じゃあ登場させるなっつーの!」
ブンコ
「確かにあたしの主人公にはびっくりするほど説得力ないっすよ。厚着してたらふく食わせて走るのイヤだからドラゴンにまたがりますよ。ああそうさ、自分に甘いから主人公も過保護さ!」
ぴこ蔵
「それでは読者が可哀想じゃ。なんで他人が楽な思いばかりする話を読まされて『これぞ今世紀最大の冒険!』とか言われなければならんのじゃ。読みたいのは裸足でガラスの破片の上を疾走する主人公の痛みであり、感じたいのは蛇に噛まれてふくれあがる顔面の苦しさなのじゃ。しかしお主の主人公と来たら、全然ピンチになったりしない。いつもカッコつけて説教するばかりじゃ」
ブンコ
「そーいえば、主人公が悪党どもに説教するシーンをお姉ちゃんに読ませたらいつもあんたが親に言われてるセリフだってぬかしやがってさ、頭に来たからお姉ちゃんの柿の種チョコ食べてやった。ガハハ」
ぴこ蔵
「何をやっとるんじゃ!」
ブンコ
「そんな、ちょっと未熟な私でした」
ぴこ蔵
「最後まで未熟では意味がないので、ちゃんと成長させることじゃ」
ブンコ
「あたしがなかなか成長しないのはどーしてだ?」
主人公の成長のキッカケは「他人の指摘」で!
ぴこ蔵
「さて、主人公はある時、成長しなければならん。おぬしとその主人公がなかなか成熟しないのは、成長の仕方に説得力がないからなのじゃ!」
ブンコ
「ギクッ!」
ぴこ蔵
「おぬしの主人公は、自分の未熟さにあまりにも都合よく気づいてはいないか? なんのキッカケもなしに突然目覚めてはいないか?」
ブンコ
「そういえば、家族総出で大掃除やってる時にあたしゃ隠れてマンガ読んでてさー、『遊んでるんだったらみんなの昼ごはん作れ』 って親に命令されたんだ。
だから『あたし料理が下手だってことに今突然気づいたから』って断ったら、『そんなのみんな昔から気づいとるわっ』『こっちは死ぬ気で食ってやると言ってるんだ』『ただ死ぬ前にお前の首だけは絞めさせてもらうからな』家族全員にツッコまれて血の涙流したこともありましたっけ」
ぴこ蔵
「うひょひょ。素晴らしい経験ではないか。そもそもおぬし、小説でも、小手先のギャグで逃げようとして結局失敗するじゃろ?」
ブンコ
「いくら師匠でもそんな質問には答えねーぞ!」
ぴこ蔵
「主人公は自分の未熟さに自分で気づいてはならないのじゃ。だってあまりにも嘘くさいではないか! 成長のキッカケとは、まさにどこかの誰かさんみたいに、必ず『誰か他人の指摘を受ける』ことなのじゃ!」
ブンコ
「耳が痛いよーしくしく」
ぴこ蔵
「それじゃ、その痛みが大事なのじゃよ! 主人公には思いっきり恥をかかせよ。ムチでしばけ。痛みを伴うことによって読者は主人公の気持ちを共有できる。同じ経験、同じ胸の痛み、同じ辛さを感じたとき、読者は主人公に共感してくれるのじゃ」
ブンコ
「ある意味、主人公はダメ人間のほうがいいんだね」
ぴこ蔵
「そういうこと。そして他人から容赦なくそのダメぶりを『指摘』されることが成長への近道となる!」