ゴッドファーザーはつらいよ!~その名前でいいのか

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~『生成AI時代のストーリーテリング』

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物語の登場人物の名前はその性格や容姿にまで強い影響を与える要素である。初期の段階では固有の名前を付けず、まずは「主人公」や「協力者」などの機能で呼ぶとロジックを組み立てやすい。

名前の持つ魔力

登場人物につける「名前」はその人物のキャラクターと非常に深い関係にあります。そして、この「ネーミング」に悩んでしまい、時間がかかってしまうという人が意外に多いのです。

自分のことを思い出してみると、登場人物の名前に悩んだのはストーリーより先に自前のキャラクターを設定した場合でした。そのキャラクターの勢いというか存在感に頼ってストーリーを引っ張っていこうとしたわけです。

生まれたばかりのキャラクターはきらきらと輝いています。「こいつが冒険する話はさぞや面白いんだろうな」と、作者のくせしてファンになったような気分でウキウキしてしまいます。ところが、これがうまくいかないのであります。

プロットと言うのは因果関係をロジカルに説明するものですから、できるだけシンプルに筋道立てていかないと、頭の中でうまく図式が組み立てられません。 性格とか、外見的な特徴とか、喋り方や癖などなど、自作キャラクターに付随して作りこむ多くの情報は、あらすじ作りの段階ではむしろ邪魔にさえ感じられます。

とくに私の場合、自作キャラまかせではドラマの展開にワンパターンのバリエーションしか出てきませんでした。 自分の創作物なのに依頼心が出てしまうようですぐにアイデアが底を尽いてしまうのです。

そこで、「顔と名前ぐらいは知っているが、あまり親しいわけではない」程度の関係の実在の人物の名前を登場人物に当てはめてみました。これはわりと面白い体験でした。実在する他人の名前を使うと最初からリアルな個性が与えられており、それが制約となって選択の可能性が限定されるので意外に作りやすいものです。

かと言って、例えばロマンチックで壮大な異世界ファンタジーを描こうとするときに、「孤高のドラゴンライダー: 田川 繁夫 52歳 痩せ型 休日はいつも甚平着用 好きな食べ物は仁丹」みたいな実在する隣の家のオジサンの名前とキャラを使おうとしても気分が台無しです。

とくに、『非常に魅力的なキャラ』が必要な場合、残念ながら、身の回りにそれほど素敵なモデルは見つかりませんでした。また、外見的特徴のインパクトだけでは多くの物語パターンを創作するのが難しいように思われました。

名前を付けないでも出来ること

そこで提案ですが、あらすじを作る初期の段階では登場人物の名前を付けないようにしてはいかがでしょう。

ストーリーの進行以外の余計な要素を排除するために「主人公」を「主人公」という名前にするのです。「偽敵」や「本敵」もその役割のままに「偽敵」「本敵」と書くようにします。登場人物の名前を決めないのです。

時代劇の主人公を「青山 晴之助」という名前にしてアイデアを出すのと「闇坂 影十郎」という名前にして書くのとではその後の展開にかなり大きな違いが出てくるのは明らかです。 「正直」とか「青空」と言う名前の悪人ではなんだかピンと来ませんし、フランク張本と言う名の僧侶というのもなかなか辛い。

読者はまず登場人物の名前によってイメージをかき立てられ、ルックスを含めたそれなりの人物像を固定化してしまいます。つまり、名前をつけるということは登場人物に顔を与えることなのです。 ネーミングはそのぐらい重要な作業です。したがって作り手は焦って「登場人物の名前を決める」必要はありません。

それよりも優先すべきなのは人間関係と役割の決定です。 とりあえず破綻なく最後までストーリーを作って、その後に、用途に応じた印象を持つ「名前」を付けたほうが効率的な場合がほとんどなのです。 それでは、その行程の順番を確認しておきましょう。

最初の手順

手順としては、まず、クライマックスの直前に訪れる起承転結の「転」の内容を決めてしまうこと。

面白さを優先するならここでどんでん返しを入れるといいでしょう。 どんでん返しとは、読者や観客を驚かせるために「Aだと思わせておいてBを出す」ことです。 それだけを考えて、AとBに具体的な物や人を当てはめてください。

「蛇だと思わせてゴムホース」とか、「刑事だと思わせて詐欺師」とか、「人間だと思わせてロボット」などです。 上記は作者の立場から見た場合ですから、読者の視点に立つと、例えば、「蛇だとばかり思っていたら、実はゴムホースだった」ということになります。

もっとも、さすがに「蛇とゴムホース」という素材ではボリュームのある話は支えきれないと思われますので(笑) 例えば……「主人公が倒さなければならないのは『ライバル』だとばかり思っていたら、実は『恋人』をやっつける必要があった」 「主人公が探し出さねばならないのは『犬』だと思っていたら、実は犬がはめている『首輪』こそが重要だった」 ――などなど、 「驚き」とそれに伴う「感動」を生むアイデアをまず作るわけですね。

次に、そのどんでん返しを受けての結末を決める。つまり、主人公はゴールできるのかどうかをまず決めて、それから、その後に起こる「意外な結末」を作る。

このあたりまでは「登場人物のキャラクター」には出番がありません。ですから、まずはキャラ抜きで、ストーリーの土台を決めてしまいます。これから読者に届けるのは「主人公が探し出さねばならないのは『犬』だと思っていたら、実はその犬がはめている『首輪』こそが重要だった」という驚きを核心としたお話なのだ、と決めてしまうわけです。

実際にはこの部分のアイデアを出すのがなかなか大変なのですが、最も楽しい時間でもあります。どうすれば読者はびっくりするのか? 盲点はどこにあるのか? いかにすれば錯覚を生み出せるか?

確かにむずかしい作業ではあります。しかし、日頃から注意深く周囲を観察し、錯覚や盲点、二面性などに気を配っていれば必ず発見できるはずです。頭を柔らかくして、ちょっとでも「おや?」と引っかかることがあったらじっくり考えましょう。

このアイデアが凡庸だと、結局は面白さが不足してしまいます。これこそが物語の命です。自分でも思わずドキドキ・ワクワクするようなネタを探しましょう。 逆に言うと、納得のいく案が出るまでストーリーを考えてはいけません。これを思いつかないのなら面白い物語を書くことは出来ないのです。エンターテインメントは確実に面白さを担保しなければなりません。つまらない娯楽なんてあり得ないわけです。ここだけは絶対に誤魔化してはいけません。

そんなわけで秘術を尽くしてアイデアを思いついたら、後は、いかにその「驚き」を最大のインパクトで見せるか、に注力します。

魅力あるキャラを作るなら「行動原理」を確立する

登場人物のキャラ作りは確かに楽しい作業ではありますが、そればかりやっていても物語は動きません。たくさんの登場人物が入れ替わり立ち代わり出てきて、同じような場面で同じようなことをしゃべる作品を よく見かけます。

ところが、登場人物の存在意義がはっきりしていないので、彼らがストーリーの要請に応えて重要な謎を解明したり、主人公を指導したりすることはまずありません。なぜなら、キャラクターを作りこむと言っても大半は自分の好みのタイプの人物を再現しているだけに留まっているからです。

さらに言えば作者がお気に入りの情緒的なシーンを名場面集のようにつなげているだけの話がいかに多いことか。これではキャラに厚みなど出るはずもありませんし、何よりもそういう登場人物が必要なのかどうかさえ疑問です。

キャラと言うのは外見や性格だけでなく行動パターンが非常に重要なのです。例えば、追い詰められて切羽詰った時の行動パターンにはその人物の本質が残酷なほど明らかに反映されます。困ったとき、その人物は何をするのか? どうありたいと望むのか? その衝動の本質を捉えた「動機」をきっちり説明することがキャラクターの造形につながります。

愛される主人公キャラを作るために

また、エンタメの場合は、主人公が読者や観客から「愛される」「好かれる」ということが特に重要な資質となります。これは単に「カッコいい発言をする」とか「やたら強い」とかで達成できる目標ではありません。 他人に愛される人とはどんな特徴を持っているのか? という難問に、作者なりの解答を出さなければ魅力的な主人公像は描けないのであります。

キャラを描くことは人間性を描くことです。それも、作者が自分自身の経験を通じて醸成してきた「これが愛される人間だ」と思っている理想像を公表することなのです。 この観察眼が甘いと、正解が分かりません。あなたの主人公はステレオタイプな言動しかしなくなり、その上、それに気づかないことで読者の期待を裏切る悪循環にはまり、いつの間にやら「疎んじられ」キャラになります。

主人公のキャラ設定をするのなら、例えば、「窮地に立った時、どれだけ人間味にあふれた行動が取れるか?」 というような観点を持つことです。 主人公は作者の人生観や生き方を見事に反映します。キャラ作りは、結局、作者自身の問題なのです。 「外見レベルの設定」から抜け出して、読者や観客を見たことのない地平まで案内するために、キャラクターの行動原理を徹底的に考えましょう。

登場人物の内面を考えるのは、時に手強く、つらい作業です。 一方、主人公の特殊能力やパンチ力、髪の毛の色や愛用する武器の形状を想像し、メモ書きという名の宝物庫にしまいこむのは楽しい作業です。 しかし、そういうお楽しみは後に取っておきましょう。まずはストーリーの要請に従った主人公の行動を確定し、追い込まれた最悪の状況で人間的な魅力を最大限に発揮するような、読者に伝わりやすいシンプルな選択肢を作ってしまうのが重要です。

物語作りは鉄道旅行のようなものかもしれません。ストーリーの線路を敷かないことにはキャラという列車は走れないし、行動を選択する場面という駅がなければ読者が乗りこめないのであります。

 

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