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物語の終わらせ方

しりとりで体感する「物語の終わらせ方」

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あなたは誰かにこう聞かれたことはありませんか?

「物語がうまく書けないんだけどどうすればいいの?」

今回は、そんな時にどう説明すれば構成のコツが伝わりやすいか、について考えてみました。

例えば、ミステリーは犯人が誰かを当てるのがゴールですが、それだけでは単なるクイズです。謎解きオンリーではあまり面白い物語にはなりません。「さて、犯人は誰でしょう?」という問題にたどり着くまでに、もっといろんなお楽しみがあってこそのエンタメであります。

そのお楽しみというのは、例えばシャーロック・ホームズや金田一耕助のキャラクターの魅力であったり、複雑な人間関係の奇怪さであったり、舞台となる世界の不気味さであったりするわけですよね。

それらを表現するためには、ストーリーにいろんな枝葉を広げなければいけません。雰囲気や背景を伝えるために本編とは関係のないエピソードを入れたり、話に説得力を増すためにちょっとした登場人物を出したりします。

そういう話って、伝えなければならない情報や結論がはっきり決まっているので、わりと筆が軽くなり、書いているうちにどんどん楽しくなってくるんです。

気が付くと本編とは関係のない方向へと話が広がってしまい、なかなか元に戻せないことがあります。散歩がてら里山を見に行ったつもりが、思わぬ山菜の豊作に夢中になり、森の奥まで深入りしたあげく、道に迷って遭難してしまうのです。

物語を完成させるにあたって気を使わねばならないのは、このように「前半に伏線や世界観構築のためのエピソードで思いっきり広げた話」を、どうやって「後半ではどんでん返しやクライマックスに向けて収束させるか?」ということです。

用事が済んだら本道に戻らなければなりません。しかも、突然ぴょんと一足跳びに戻ってもお話が分かりにくくなります。じわじわと周到にやらなければ、ムードもサスペンスもあったもんじゃございません。

それでは、恣意的に広げた話をうまく収束させるためにはどうすればいいのか?

それには、「帰り道への方角」を確保しておくことです。

「このあたりでそろそろこっちの方向へ舵を切っておかねば!」というポイントを準備しておくことが大事なのです。

しかし、思いつくままに話を広げていく作り方しか知らないと、そのポイントが分かりません。その結果、なんとも曖昧で完成度の低い結末しか迎えられず、犯人の正体が分からないミステリー(笑)や、幽霊の出てこない心霊体験(泣)を書いてしまうハメに陥ります。

だからこそ、「オチのアイデア」や、「あっと驚く意外な結末」の構想をあらかじめ作っておくべきなのです。

早い段階でそれさえ作っておけば、物語の未完成率はもっと下げられます。

「そんなことは分かっているんだけど、途中で別の話が盛り上がったり、魅力的なキャラが出てきたりして、せっかく楽しくなってきたのにと思うとなかなか気分がそっちに向かわないんだよね」

そうなんです。

人は、降って湧いた苦痛にはある程度立ち向かえますが、快楽を諦めるのは苦手です。ましてやその後に苦難が待っていると思うと……、そりゃ楽しいことを優先しますよね。

でも、それではいたずらに時間ばかりかかって、しかも物語がついに終わらないという最悪の事態になりかねません。

問題は、いかにそのクライマックスと結末に向けて方向転換するか、なのであります。

そこで、ぜひ身につけていただきたい『感覚』があります。

物語を終わらせるための『感覚』です。

それには、ある“お遊び”を体験するといいのです。終わらせる流れに入るタイミングを理解しやすくなります。

どこらへんまで話を広げたら、収束への道を探せばいいのか?

それには実は、ある変わった“しりとり”をやってみると分かるのです。

この“しりとり”にはちょっとした特別ルールがあります。

それは、スタートとゴールの単語をあらかじめ決めておくこと。

そして、単語を必ず10個使うこと。(スタートとゴールの単語を含む)

論より証拠。
それではさっそく、試しにやってみましょう。

例えば「リンゴ」から「パイナップル」へ、きっちり10個の単語でつながっていくしりとりをやってみましょう。

実際にやってみるとよくわかりますが、このようにスタートとゴール、使う単語数が決っているしりとりというのは、途中から「必要な文字」が語尾についている単語を探す『逆しりとり』になる局面を迎えます。

つまり
「9つ目の単語をパで終わらせるためにはどうするか?」

「9つ目を“ラッパ”にすればいい!

「では、8つ目をラで終わらせるには?」

「8つ目を“ゴリラ”にすればいい!」

そんなふうに『逆算』していかないと終わらないのです。そうしなければ、9つ目で、偶然語尾がパになる単語に当たるまで、ただただ闇雲に言葉を探すことになります。

この時、最後がパで終わる単語よりも、“ゴリラ”のゴで終わる単語のほうが、数が多くて見つけやすそうですね。

無駄な時間を費やすのが嫌なら、当然あなたは逆算するでしょう。

物語を終わらせる方法を理解するためには、この『逆しりとり』を考える体験が非常に有効なのです。

ただし、全てを逆しりとりにするとけっこう大変です。ある程度まで普通のしりとりをしないと時間がかかって仕方がない。

そこで、しりとりと逆しりとりを交互に繰り返しながら、中間点を探る感じになるのではないでしょうか。

逆しりとりを2つか3つ作ることで、思いつきやすい単語を用意しておきます。さらに、タイムトライアル方式で誰かと勝負すれば、効率的にしりとりをすることに集中せざるを得ません(^^

この感覚は、まさに、物語のあらすじを最後まで作りきる時に感じるのと同じものだと言ってもいいでしょう。

結末まで作らなければ物語は完成しないのです。枚数や制限時間という制約の中でベストを目指す。そのためには何にこだわり、何を割り切るのかを自ら決定しなければなりません。

「しりとりを10個の単語で完結させる」という制約によって、物語を収束するための考え方とその感覚を体験できると思います。

<実践に挑戦!>

さて、こうして実際に「10個の単語によるしりとり」が完成したら、次はその単語をそのまんまの順番で使って、物語のあらすじを作ってみてください。

まずはしりとりのスタートとゴールを決めておきましょう。

なんでもいいんです。

ただ、せっかくなら、あなたのお好きな言葉や、描きたい物語世界を象徴するような単語がいいでしょう。

例:

スタート「江戸城」→→→ゴール「隅田川」
スタート「黒魔術」→→→ゴール「マンドラゴラ」
スタート「機関銃」→→→ゴール「ヘリコプター」
スタート「三日月蹴り」→→→ゴール「かかと落とし」

後はひたすら、その間をしりとりで埋めてください。
単語は、スタートとゴールを含めて10個です。

しりとりが完成したら、その単語をその順番通りに使って物語を作ってください。

落語の「三題噺」と同じようなものですが、10個のお題を順番につなげていくには、さらにしっかりと構成する必要があります。

例えば、下記のガイドに沿った工程などが考えられます。それぞれの内容に「しりとりの単語」を当てはめていきます。

このぐらい無責任&無頓着に物語を作っていくと、案外簡単に、ほぼ自動的にストーリーが出来てしまうものです。

あなたの実力とはあまり関係のない話ですから、気を抜いて、パズルのつもりでトライしてみてください。

あくまでも一例ですから、このやり方が全てではありません。遊びのつもりでやってみて、それがストーリー作りのきっかけになれば十分なのです。

大事なのは、しりとりの単語という制限による重みをかけて、あなたの想像力をストレッチし、固くなった思考回路を柔軟にすることなのであります。

しりとりをすることで、日頃、好きな世界を妄想している時には出てこない言葉が混じってきます。「スマホ」が出てくる時代劇、「消費税」が登場する魔法使いファンタジーはあんまりないと思いますからね(笑)

ところが、よく考えてみれば、江戸時代にも遠距離情報伝達の仕組みはあったはずですし、税金システムのない社会は考えられません。

書きたいことだけを書いていると、そういう面倒なリアリティーは無視されがちです。

ところが、たとえあなたの空想上の世界であったとしても、そこに人間が棲んでいる限り、彼らは狼煙を上げたり、早馬を飛ばしたり、取引をごまかしたり、金融商品を作ったりしているはずなんです。

そういう細かいディテールが、物語世界に奥行きを与えます。誰もが共感できる手触りが出てくるのです。

登場人物の行動の動機が常に「プライドのため」とか「愛と正義を守るため」では飽きられます。そんなお約束に守られて細部にこだわらない都合のいい展開では、作家としてのスケールが小さくなります。

あえてあなたの好みではない「脱税のため」とか「人件費を削減するため」とか「密輸したパイナップルの腐敗を防止するため」に奔走する人物を描くことに挑むのです。

こうして書けるジャンルを増やして、新たな組み合わせを見つける努力をしなければ、新しい物語はなかなか生み出せません。

そこで、しりとりです。

意味ではなく音で選ばれた10個の単語が、かなりの無茶振りをしてくれます。しかし、最初と最後の単語だけは好きなモノを入れられます。

とりあえず練習用の課題ですが、うまく単語がハマれば、あなたのオリジナル・ストーリーが一個増えるかもしれません(笑)

想像の翼を畳んで、リアリティーの上に着地していくのは、翼をはためかせるよりもずっと大変で、知恵と体力のいる作業だということを知っていただきたいと思います。

しかし、だからこそ、そのコツさえ掴んでしまえば、どんなに長い、込み入った物語であっても、バテずに作り上げることが出来るようになります。

今はまだあなたの頭の中だけにしか存在しない素晴らしい物語を、大胆にして細心に、巧緻にして野性的に、現実世界に引っ張りだしてあげましょう!

■■しりとり物語の作り方ガイド■■

※これに従って書くというよりも、書いた後でチェックするための物差しです。うまく行かなくなった時に、その原因を探すのに使ってください。

(1)スタートの単語を使った興味深いオープニングシーン。

その事件の中で、この物語で解決すべき問題を提示できるといいですね。

思い浮かばない場合は、このシーンは最後に作ることにして、さっさと先送りしましょう。穴があっても後から埋めればいいんです。

(2)しりとり2つめの単語を使った興味深い出来事。

主人公やその仲間、敵など、主要な登場人物を紹介するために、「誰かが何かをしている」具体的なエピソードを作りましょう。

(3)3つめの単語を使った出来事をもう一つ。

ここでも、残りの登場人物を、その具体的な行動を語ることによって紹介してください。

(4)4つめの単語は大事件へと主人公が関わっていくきっかけ。

このあたりからいよいよメインストーリーの流れとなります。

(5)5番めの単語はミッドポイント。

この辺は物語の中間地点であり、転換点でもあります。
ここからはクライマックスへの流れを意識し始めてください。

(6)メインの大事件に、6つめの単語を使ったさらに大きな困難が加わります。

(7)いわゆる「転」、どんでん返しのチャンスです。

7つめの単語を入れて、どんでん返しを構築してみてください。

(8)クライマックス。8つめの単語を使って話を大いに盛り上げましょう!

ここでは「最大の難題」が主人公を襲うことを忘れずに!

(9)問題の解決。9つめの単語は「切り札」になるはずです。

スマートにやりたければ、物語前半のどこかにあらかじめこの単語を忍ばせておくと、良い伏線になるでしょう。バレないように、さりげなく。

(10)ゴールの単語を使った意外な結末。

最後の最後に新たに小さな問題を発生させることで、意外性が生まれます。余韻のある結末にするためです。

■以上、しりとりから物語を作る方法でした。しりとりをする際の『拡散と収束』の感覚を、そのままストーリーにも対応させてください。物語の構成力をつける練習なので、文章やセリフに凝る必要はありません。分かりやすければ箇条書きでもかまいません。

さあ、あなたもさっそく物語を作り、それをきっちり終わらせてみましょう!

 

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100年たっても小説を書く

100年経っても面白い小説や漫画やシナリオを書くために

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思えば手探りでショートショート小説を書いていた中学・高校生の頃、私は自分が書こうとしてどうも上手く書けないでいる、作品の『テーマ』というものがさっぱりわかりませんでした。

私は『テーマ』というものを、自分から発信するイメージやメッセージだと、誤解していたのです。

そこには、「宇宙の謎を解く」とか、「人生の意味を明らかにする」みたいな、途方もなく立派な目的が潜んでいなければならないと思っていました。

ところが私には、世界に向けてメッセージを発信できるような、深くて大きい哲学などありませんでした。

難しい問題を考えようとしても
「カレーパンやカレーうどんはあるのにカレー餅はなぜないのか」
ぐらいがせいぜいで、立派な思想どころか幼稚で薄い言葉すら出てきません。

悔しくてへこみました。
大いにプライドが傷つきました。

中学生当時は、ライティングのノウハウとして学校で教わった“作文の書き方”しか知らなかったのと、「まずは文学的なテーマを決めなくちゃ」と思い込んでいたのとで、背伸びした上にさらに大上段に構えていたのです。

私が書きたかったのは、純文学やジャーナリスティックなノンフィクションなどではなく、梶原一騎先生の『タイガーマスク』みたいなエンターテインメント小説であり、活劇漫画のシナリオだったんですけどねえ。

すっかりひねくれて星を睨んだ私は、いつしか小説や漫画やシナリオのテーマなど考えないようになりました。

その代わり、とにかく読者をびっくりさせることだけに集中するようになったのです。追い詰められた鼠が猫に噛みついた挙句の選択でしたが、結果オーライで「テーマ性」に対してある種の覚悟を決めることが出来ました。

テーマなんてものは、結果的に作品全体で表現できればいいや、と思うことにしたのです。

「とにかく優先的にストーリーを面白く語ることだけに集中しよう。白い原稿用紙のジャングルでは面白ければいいのさ、面白ければな。虎だ虎だ。お前は虎になるのだ!」

そう考えを切り替えると、今度はいきなり対極に走りました。テーマに沿ったキャラや暗喩を考えるのではなく、まずは読者を引きずりまわし、誤解させ、ネタをばらした時に「あっ!」と驚かせる話を作ろうと決心したのです。

人を驚かすために何が必要だろう? SF的な奇抜な発想や、ファンタジックなイメージの飛躍は有効だと思いましたが、そこにはいわゆるセンス・オブ・ワンダーが大きく関わってくるので、おそらく自分にはムリだろうと感じました。

鈍感で不器用な私にも出来るうまい訓練方法がどうしても思いつかなかったのです。

でも、どうにかして、面白い小説や漫画やシナリオのストーリーを書きたい。

そこでまずは「そのコツを最も確実に身につけるためにはどんな技術を学ぶべきか?」を考えました。

入手しやすいお手本がたくさんあって、面白くて通俗的で、しかも目的がはっきりしているジャンルは何か?

その結論として、長い歴史を持ち、すでに多くの研究者によって系統だてられている『ミステリー小説の構成テクニック』が強い武器になるのではないかと思い至ったのです。

重要視したのはその「論理性」でした。ルービック・キューブのように基本的なロジックがわかっているものは、反復して練習すればだれでも正解を再現できるからです。

それからはパズルを解くようにあらすじを組み立てるようになりました。テーマやメッセージについて最初から悩むことはしなくなったのです。

そんなことよりも、出来事のつながりを考えることで、ストーリーが最後まで破綻なく完成することに気づきました。

自分が書いている以上、自分らしさは登場人物の行動の選択に絶対に投影されるはず。そう思ったので形而上的で観念的な思索は放棄したのです。そして自分自身に言い聞かせました。

探すべきは、100年間変わらぬ評価を保ち続ける作品を作る方法だ」と。

流行している風俗や、それぞれの時代の社会状況にあったキャラクターのスタイル、最新の科学技術などはすぐに移り変わってしまいます。

知りたいのは、O・ヘンリーのような、具体的でかつ通俗的なスタイルを徹底的に踏襲したストーリーの『作り方』です。

O・ヘンリーが数々の名作短編を書いていたのは約100年前。その小説は世界中で親しまれ、何度も脚本化されては、今も舞台やTVで上演され続けています。世は移ろい、風俗や流行も変わっていったというのに。

そんなふうに、自分が死んだ後1世紀もの間、ずっと面白がってもらえるストーリーが作れたら最高ではありませんか。

「俺はこれから、通りがかりの人に面白い話を語って聞かせて小銭をもらう、街角のエンターテイナーになるのだ。通俗的な『面白さ』を売りにするからには、途中でネタがばれないように気をつけて語ろう。そろそろと慎重に騙していって、思いもよらぬ展開にして、後は思いっきりびっくりさせてやるのだ。ええい虎だ虎だおま(以下略)」

ひとつ間違えると振り込め詐欺師ですが、これでやらなければならないことが明確になったので、落ち着いて考えられるようになりました。

その結果、まず自分がやらなければならないのは、世界中の偉大なる先人たちが残していった名作を解析することだと思いました。とくに、具体的なエピソードをいかに構成しているかに集中しました。

エンターテインメント・ストーリーで重要なのは、何よりも「面白いアイデア」です。キャラや世界観は重要な要素ですが、その前に優れたアイデアがなければ、当然ながら話は面白くならないのです。

小説や漫画やシナリオにおいて、特に短編作品の出来は、中心となるアイデアの良し悪しに直結します。短編を作りたければ、できるだけたくさんの短編、それも評判のいい作品、いわゆる「名作」を探して分析することが大事です。

まずは「その名作のどこが面白いと感じたのか?」と自分の中で考えぬき、言語化して、できるだけその感覚を明確に把握しようと努めました。

そうやって面白い部分のコアをピックアップできたと思ったら、次に、「なぜか? どうしたらそうなるのか?」ということをじっくり考えるようにしました。

図解でもなんでもして、具体的なエピソードを抽象化し、普遍化し、言葉に固定できるまで自分なりに分析するのです。

ここで妥協してはいけないと肝に銘じました。自分がとことん納得できなければその面白さを他人に伝えることはできません。

そして、その作品を面白くしている理屈が完璧に理解できたら、その論理を、キャラや世界観を変えて「再現」してみました。

漠然と感じていた『面白さ』をオリジナルとは全く違う設定の下で確実に再現できたとき、その名作の力を使いこなせるようになります。

技術を学ぶというのはそういうことだと思います。そんな名作の『面白さ』を再現するためのコツを探るべく、あなたの愛してやまない物語の一つを楽しく解析してみましょう!

※新潮文庫『O・ヘンリ短編集』は短篇テクニックの宝庫にして教科書であります。(一)から(三)までありますのでぜひ全部読んでください。

 

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読者をあっと驚かせる

満月の夜に狼男を駆使して読者をあっと驚かせるには

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あなたの作った物語をエンターテインメントとして評価されたければ「読者をあっと驚かせる」ことが不可欠。そのための効果的な方法論の一つが『どんでん返し』という技術である。

もしもあなたの作る物語が、それを読んだ誰かに「陳腐だ」「よくある展開だ」「退屈極まりない」「だからお前は」「そもそもお前って奴は」などと血も涙もない酷評を浴びたとしたら……。

あなたが物書きを標榜する以上、そいつの頸動脈を絞めあげる前に、急いで物語に『どんでん返し』を組み込むべきです。そしてその腰を抜かさせてやるのです。怒りこそは力の源泉であります。腹立たしい批評を喰らったら、反省なんかしないで怒りに燃えればいいのです。そして次はそんな批評を絶対にさせないような圧倒的に面白い作品を書いてみせましょう。

信じきっていた登場人物の怖ろしい正体に震え上がり、少なくとも一週間は一人で学校や会社のトイレに行けないぐらいの、あるいは亭主の幸せそうな寝顔を「こいつもしかしてワシのヘソクリ狙うとるんちゃうんか?」と疑惑の目で見てしまうぐらいの、そんな驚愕と衝撃を与えてやりましょう! そうすればもう誰も二度とあなたの作品に対して「面白くない」とは言わなくなるでしょう。

それでは、読者の腰が抜けるようなどんでん返しをうまく仕掛けるためにはどうすればいいのでしょうか?

『3匹のモンスター』メソッドによって分類された敵のどんでん返しには、それぞれ固有の「伏線と連動」のパターンがあります。

※言ってる意味がよくわからない、という方は以下の講座をお読みください。
『創作講座(どんでん返し編)』

例えば、『狼男』というタイプを使ったどんでん返しを見てみましょう。

主人公自身の中に本当の敵がいるタイプの場合、そのどんでん返しの存在を読者に嗅ぎつけられないためには、まず主人公がその事実を知らないということが大前提です。主人公は自分自身が怖ろしい『狼男』であることに気づいてはいけません。ところが内部にいる『狼男』は、そんなことおかまいなしに悪事を働く。

主人公にそのことを悟られないためには主人公の記憶を奪わなければなりません。主人公が気づけば読者も気がつくからです。しかし、エンタメとしてここが肝心なところなのですが、伏線だけはしっかり張っておかねばなりません。後になって「しまった! そういえば!」と想起されるからこそ衝撃を与えられるのです。

そういえばあの時……「主人公は誰かに睡眠薬を飲まされて眠りこけていたはずだ!」とか「現場に到着するのが妙に早いな、と思ったんだ!」とか。なんだか小さな違和感があったのに見逃していて「そうか、あれはそういうことだったのか!」と後から気がつくわけですね。

でも、地団太を踏んでももう後の祭り。

「思えばヒントは与えられていたのに、ああ悔しい。でも、引っ掛かっていた胸のつかえが解消された。こりゃ気持ち良くだまされたなあ。この作者の物語をまた読みたい!」

あなたもそんな感想がもらえるような物語を書いてみましょう。

この『狼男』タイプの物語には、伏線として「主人公が意識を喪失する」場面が不可欠なものとなります。主人公が気を失っていないと、その意識を伝わって読者に真相が判ってしまうからです。

さらにその他のタイプの敵を組み合わせてどんでん返しを作る場合は、そちらの伏線も敷いておかねばなりません。

例えば……

※偽敵=狼男、本敵=ドラキュラの組み合わせによるどんでん返し

★敵は自分の中にいると思ったら、実は別にいた★

【このどんでん返しの特徴】
物語の基本的な型としては、狼男、つまり【主人公の内側に隠れている敵】を囮にして、本敵ドラキュラが主人公をペテンにかけるという構成です。

つまりこれは「自分の中にいる何かが知らないうちに悪事を働いていた」とばかり信じこんでいたら、実は「悪党にすっかりだまされていた」という話なのです。

どんでん返しが訪れて真犯人が明らかになり狼男の恐怖が真っ赤な嘘だったとわかることで、一転してとてつもない解放感と爽快感を体験することになります。悪いのは自分じゃなかったんだ! と、ほっと安堵できるわけです。

このどんでん返しは、だまされたことによる痛みや苦しみの後で、素直に人生の喜びや楽しみや有難みを味わうために使うと非常に読後感のよいストーリーになるでしょう。

本敵は「偽の記憶(記録)」を巧みに操る知能犯

さて、それでは主人公の内部に別の人格がいるという真っ赤な嘘をでっちあげ、それを信じ込ませるためにどんな手口を用いるか。

この物語にはどんでん返しを成立させるために本敵の補助をする伏線が必要になります。それは「主人公をだます客観的な証拠」を見せるというものです。

つまり『本当の敵』は「主人公が意識を失っている(眠っている)間に、別人格が主人公の肉体を乗っ取って悪事を働いている」という決定的な記録を捏造する必要があるわけです。具体的に言うならば、主人公自身には覚えがない行動が写っているビデオや写真であるとか、あるいはその行動の目撃証人をでっち上げるのです。(ちなみにぴこ蔵はこれらを『記憶装置』と呼んでおります)

このタイプのどんでん返しには、ロジカルな結論として、最低限この仕掛が不可欠なのです。

このようにして、どんでん返しを成立させるには、必要な小道具や人間関係を用意し、そのたびにさまざまな伏線を張らなくてはなりません。どんでんのタイプを選択した瞬間に、好き嫌いに関係なく、必ず書かねばならないシーンが発生するのであります。

どんでん返しを作ることによって主人公のキャラクターや物語のテーマとかを語る以前に伏線が自動的かつ必然的に決まっていきます。Aだと思ったらBだった、というだけのシンプルなパターンの中には実は非常に複雑なストーリーが折りたたまれているのです。

これをゼロから考えるのには大変な時間と労力がかかります。しかも、苦労したあげく誰もが同じ結論に達するわけですから、最初からその定石を知っていれば自分でも驚くほどのスピードで、破綻することなくストーリーが作れます。

まずはどんでん返しを選ぶ。そしてそれに必要な伏線を張っていく。ぴこ蔵がまとめた10タイプの『どんでん返しが入ったあらすじの型』には、それぞれに必要不可欠な伏線があらかじめ組み込まれています。この連動の構図を知ることにより、あなたの物語構成力は格段にレベルアップすることでしょう。

 

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物語を盛り上げる3つのアイデア

物語を盛り上げるのに絶対に欠かせない3つのアイデアとは

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困った問題がもちあがり、解決されるまでの顛末を劇的に語るのが物語である。それが面白いか面白くないかの評価は、構造と問題と解決法に関わる3つのアイデアの質によって決まる。

小説や漫画などのジャンルに関わらず、キャラクターの登場シーンや舞台の説明などを書いているうちは楽しくてどんどん筆が進みますよね。そして、キャラクターたちが全員揃っていよいよ事件が起こります。謎めいた人物や得体の知れない小道具なども次々と現れて雰囲気はいやが上にも盛り上がるのです。

ところが、その謎を解いたり主人公の行動の動機を説明し始めようとするとペンがピタリと止まってしまう。不思議ですねえ。あんなに細部まで生き生きと作りこんだはずなのに、誰が何をしていいのやら、次にどんなことをしゃべればいいのやら全然判らなくなってしまうのです。

なんでそんなことになってしまうのかというと、主人公が行動するための仕掛けがないからです。さらにさかのぼって考えると、主人公はどんな目的を達成しようとし、そのために誰と戦わねばならず、最終的に主人公の何がどう変わるのか? そういう肝心のストーリーの核心を成すアイデアが全く整理されていないからなのです。だから具体的な事件が何一つ起こらないのです。

登場人物が何かを始めてくれるのをじっと待っているのですが、いつまでたっても登場人物たちが何のアクションも起こさないので物語が前に進まないわけです。それはそうでしょう。作者が何も考えていないのに登場人物が意味のある行動をとれるわけがありません。

エンターテインメントとしての物語は、主人公が活動的でなければ話になりません。そのためには、どんなに引っ込み思案の主人公でもあっという間に恋と冒険をおっぱじめてしまうような、強力なきっかけを作る必要があります。

問題はその仕掛けの「アイデア」なのです。それも、驚愕のアイデアが最少でも3つは必要です。

(1)主人公が巻き込まれるアッと驚く事件の構造
(2)主人公が解決しなければならないギョエーッと驚く無理難題
(3)それらを一撃でクリアするオオッと驚く解決法

当たり前のことですけど、面白い物語を作りたいのなら、まずはこれらの「驚愕のアイデア」をひねり出すことです。ここをおろそかにすると、どんなに粘ってみても結局は面白くなりません。

逆に言えば、この3つのアイデアを思いつければ、それだけでかなり面白いお話になるわけです。

(1)の事件の構造を作る上では、各要素の関連性、その連動性を考えなければなりません。こういうと大変そうですが、実は、それを誰でも出来るだけ簡単に作れるように考案したのが、自動あらすじ製造機のコアであるぴこ蔵のどんでん返しメソッドであり、『3匹のモンスター理論』なのであります。

(初耳だと言う方は当ブログの『創作講座』を読んでください。
『基礎編』
『どんでん返し編』
の順番でどうぞ

(2)の無理難題のポイントは、解決しなければならない問題を2個以上作ること。例えば……

・周りをゾンビにとり囲まれた状況で、しかも、自分を狙う殺し屋を倒し脱出する

その解決法(3)についてはまったく異なるアプローチが必要です。それは、複数の問題を「一撃で全て解決する」方法を考えること。ちまちまと一つ一つ個別に対処してもちっとも面白くなりません。全てまとめてたった一つの行動で豪快に切り抜けるからこそ読者はカタルシスを感じるわけです。それでこそ「いいアイデア」なのです。例えば……

・殺し屋を騙してゾンビを惹きつけるオトリにする

――みたいな一石二鳥の『問題解決の切り札』です。

 

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恐怖の描き方

吸血鬼が教えてくれる“高品質な恐怖”の描き方

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ホラーのエースである吸血鬼には伝統的な弱点がある。日光、鏡、墓場の土など。ところが安易な吸血鬼キャラにはその制約が効果的に使われていない。制約こそが魅力を生むことを忘れるな!

吸血鬼ブームは永遠に

2000年から2010年まで、エンタメ先進国アメリカに第1次(笑)吸血鬼ブームが吹き荒れました。

大ブレイクした映画の原作小説『トワイライト』(ステファニー・メイヤー著)。ローレル・ハミルトン著の吸血鬼ロマンス『Skin Trade』。高視聴率を誇る吸血鬼コメディドラマ『トゥルーブラッド』とその原作、シャーレイン・ハリス著『Dead and Gone』。

スリラー・ミステリー『The Strain』は、アカデミー賞受賞監督ギレルモ・デル・トロと作家チャック・ホーガンとの共著で吸血鬼VS人間の戦いを描いた三部作からなる小説。文庫版邦題は『沈黙のエクリプス』『暗黒のメルトダウン』『永遠の夜』(いずれも上下巻/早川書房)。注目のTVシリーズは2014年の夏にアメリカで放映されるとか。これでまた第2次ブームが来るのではないかと楽しみであります。


これらがいずれもベストセラーとなっています。

棺の中で太陽を避けて眠るカビの生えた『吸血鬼』は、いまやイケメンや美少女となり、ヒーローの側面と同時に闇の顔も持つ、まさに時代が求める『クール』の象徴的な存在となっています。

実は、ぴこ蔵宛てに送られてくる作品に登場するキャラクターの中でも特に多いのがこの『吸血鬼』なのです。女子高生だったりイケメンだったり老人だったり。いろんなバリエーションの吸血鬼が続々と登場します。ところが、せっかく生まれた吸血鬼キャラなのにそのほとんどがあまり記憶に残らないのです。吸血鬼ストーリーの数自体が多いのもその一因ですが、それだけではありません。

提出された吸血鬼のあらすじを読んでいてもっとも問題だと感じるのは「これはとりあえず吸血鬼属性のキャラです……」という感じで大雑把に処理されていて、その特徴を生かしたストーリーになっていないことです。

つまり、吸血鬼であることが話の面白みにつながっていないのです。

吸血鬼キャラを選んだ意味はあるか?

面白い物語創作の流れとして、ストーリーの根幹が決まったら、次にキャラを作ります。ただ、それほど間が空くわけではありません。ほぼ同時に閃いたように感じられることも少なくないでしょう。どちらかといえば「ストーリーからの要請をキャラの完成よりも優先するように意識する」ぐらいの感覚でしょうか。

しかし、この微妙な順番がとても大事なのです。ストーリーの核心が決まっていないうちにキャラを先行して固めてしまってはいけません。もちろん不可能ではありませんが、この方法だと後からストーリーを変更しようとする時にとても大変なのです。ストーリーを変えようとするとかなりの確率で登場人物のキャラ変更につながります。

例えば、「ある特徴を持った人を見つけると殺さずにはいられない快楽殺人者が、その条件を満たす人物を殺す」というストーリーだったとします。ところが『どんでん返し』のためのトリックを仕掛けるという理由から「その被害者をあえて生かしておく」というストーリーに変更することになったとします。

そのために、『快楽殺人者』ではなく『職業的な殺し屋』にキャラを変更しなければならなくなるわけです。狂気の情熱で刹那的に行動する人物から、完璧な計算に基づいて冷酷に人を殺す人物に交代するわけです。

真反対の人物になるわけですから、当然、前者のキャラクターは消滅します。

しかし、すでに自分の分身となってしまっている登場人物の場合、(せっかく作ったキャラをなかったことにするなんて無理……)と執着しがちなのです。そうするとどうなるか?

「キャラの魅力である快楽殺人者の情熱を残すために、ストーリーの変更をやめよう。どんでん返しはやらない!」

こうして展開の面白さよりも、好きなキャラクターへの執着を優先するがゆえに、魅力の乏しい陳腐なストーリーへの回帰に走ってしまうのです。

物語というのは始めるよりも終わらせるのが百倍も難しいわけですが、完成されたキャラクターは頑固です。自分の話をなかなかお開きにしたがりません。読者にとって興味のある話かどうかに関わらず、だらだらとしゃべりたがるのであります。作り手がかなりキャリアを積んでキャラに惑わされないコツを掴んでいないとコントロール出来なくなります。

設計図を持たずに話を膨らませていくと、吸血鬼であるがゆえの『タイムリミット』であるとか、その弱点を生かした『障害物』とか。あるいは吸血鬼ならではのリスクを逆手に取った『切り札』などの、面白い物語を形作るさまざまな要素の大半が『連動』しきれないままに終わってしまうのです。

吸血鬼であることが『物語を面白くする要素』とうまく絡み合って連動しないのであれば、そのキャラクターにした意味がありません。いわゆる「書きたいから書いた」という自己満足に終わります。必然性のないキャラを出すと辻褄合わせが大変です。「このキャラを使いたいから」というのは作者の都合に過ぎません。しっかりとストーリーと絡めてこそのキャラ立てなのです。

どうすればキャラを立てられるのか?

しかし、書くべきことがはっきり見えたとき、1の話を10倍魅力的にするのがキャラクターの力です。とくに漫画ではキャラの力が作品の評価を決定します。そこで今回は、人気キャラの代表格である吸血鬼を使っていかに物語を面白くするかについて考えてみましょう。

作者がはっきり決めておくべきなのは「なぜそいつは吸血鬼キャラなのか?」ということです。

「血を吸われる恐ろしさを読者に感じて欲しいから」とか「暗黒世界をスタイリッシュに楽しんでもらいたいから」とか、あえて吸血鬼を選んだ理由があるはず。その『理由』を具体化して前面に打ち出さなければ、吸血鬼モノの面白さは読者に伝わりません。

特に吸血鬼でなくても、狼男でも雪女でもかまわないようにしか思えない、あまりにも必然性のない設定が多いのです。吸血鬼を登場させるのなら吸血鬼らしさを活かさないと、まるでハロウィンの仮装行列みたいな、底が浅くて現実感のない登場人物になってしまいます。

ならば、吸血鬼を書くコツとは何でしょうか? それは、思わず吸血鬼の実在を信じてしまうような『リアリティ』を読者に感じさせることです。夢を見せるとはそういうことなのです。美しい幻ではなく現実感を与えること。ただ登場させればいいのではなく、実在しない吸血鬼が本当にいるかのように感じさせることこそが「キャラを立てる」と言う意味です。

S・キングの吸血鬼2題

そんなわけで、現代に生きる吸血鬼を描く場合、例えば、ホラーの帝王スティーヴン・キングはいったいどんな段取りでリアリティを出しているかを見てみましょう。

具体例として短篇を二つご紹介したいと思います。題名は『ポプシー』と『ナイト・フライヤー』です。両作品ともこの1冊↓に収録されています。

『ドランのキャデラック(文春文庫)』

ただし、ここで気をつけていただきたいのは文芸的な描写方法についてではありません。いわゆる『設定』というものです。それも『背景』や『ルール』に関する設定です。

どちらも短篇なので読んでいただくのが一番速いし、判りやすいのですが、ネタバレにならないように気をつけながらポイントを解説してみましょう。

ポプシーは日常に溶け込む

『ポプシー』に登場するのは、おそらく吸血鬼であろうと思われるモンスターなのですが、彼はアメリカの郊外に住んでいます。ポプシーは人間の日常に溶け込んだ暮らしをしているのです。ただし、吸血鬼らしく、表は黒で裏は赤い絹地のケープを羽織っていたり、普段は緑色の眼が怒ると赤くなったりします。

ちなみにその日、吸血鬼ポプシーはある理由で『ニンジャタートルズ』のフィギュアを買うために巨大なショッピング・モールにやって来ました。

いいですねえ、こういうの。

吸血鬼だって、現代を生きているわけですから、私たちと変わらない毎日の暮らしがあるんです。そんなポプシーは自分たちに接触してきた人間にこう言います。「お前はわしらを放っておくべきだった」

つまり、いろいろ便利なので仕方なく人類の文明を利用しているけれども、本音では彼らは人間社会になんぞコミットメントしたくないのです。完全なるアウトローであり、究極のエトランゼなのです。恐るべき優越性に支えられた傲岸なプライドを隠そうともしません。吸血鬼は人間にとっての純粋な恐怖の対象であることを忘れてはなりません。不倶戴天の敵なのであります。そこを外すと、どこかピンと来ないストーリーになってしまいます。

あなたの『吸血鬼』の日常には『恐怖』がしっかり宿っているでしょうか?

例えアウトプットする作品がコメディであろうと、ギャグ漫画であろうと、「人間がコミュニケーションをはかろうとするだけで死に直結する」という吸血鬼らしい恐怖の悪臭をぷんぷん漂わせることが重要です。

ナイト・フライヤーはルールを頑なに守る

次は『ナイト・フライヤー』というやや長めの短篇です。こちらもキングが『現代に生きる吸血鬼』をテーマに描いた作品。

小さなローカル空港を次々と訪れる一台のセスナ、スカイマスター337。転々とするそのセスナ機が飛び立ったあとには必ず一滴残らず血を抜かれた死体が残される。アメリカ中を股にかけて起こる残虐なシリアル殺人を不審に思ったゴシップ新聞のカメラマンは、自らの飛行機で現場を取材するうちに犯人のセスナが止まっている空港に着陸してしまう。血にまみれた凄惨な『狩り場』で、主人公が目撃した恐怖の光景とは……。

この作品の魅力は『現代の吸血鬼はこんな風に人間を狩っている』という背景(ルール)設定の妙に尽きると思います。

※設定にもいろいろあるが、舞台と背景の設定を混同しやすいので注意。舞台設定は『どんな場所で』事件が起こるのかを決めること。対して背景設定は『どんな事情の下で』事件が起こるのかを考えること。

作者はリアリティを生むために、吸血鬼のさまざまな定番行事を忠実に再現してみせます。必要があれば現代風にアレンジして。例えばこの吸血鬼、夜間はセスナで空を飛び、昼間はその貨物室に詰めた墓場の土の上で眠るのです。もちろん『招待されないと家の中に入れない』とか『古風なマントを羽織っている』とか『鏡に姿が映らない』などの伝統的な吸血鬼のルールもきっちり守ります。

キングはこれらの『吸血鬼のルール』を一つ一つエピソード化し、連続殺人事件と絡めて紹介していくわけですが、そのことによってどんどん吸血鬼の実在感の濃度が高まっていきます。

このように、吸血鬼のように有名なキャラクターを描く場合、読者が吸血鬼には慣れっこであることを計算に入れつつ、しかも吸血鬼らしさを期待していることを考えなければなりません。吸血鬼ならではのベタな設定を徹底的に踏襲して、しかも、『吸血鬼なのにそんなことを?』という新機軸を組み込むこと。何はなくともそのアイデアだけは練ってください。

また、『ナイト・フライヤー』のイントロダクションはちょっとハードボイルドな推理小説風に始まります。そして、主人公が『空の旅』を繰り返すことによって現実世界から吸血鬼の棲むホラー世界への移行が行われます。

二つの異なる世界を往還するというのはファンタジーやホラーでは必然的な構造ですが、『ナイト・フライヤー』で繰り返されるセスナ機による飛行は、まさに異世界への旅を象徴するモチーフなのです。こういう鉄板の原則には徹底的にこだわりましょう。

直接の描写を抑えて想像させる

……と、まあ、ここまで読むと、これらの小説はさぞや吸血鬼についてたっぷり描きこんでいるのだろうなあ、とあなたは思われるかもしれません。

ところが、おどろくべきことに実はその逆なのです!

『ポプシー』においても『ナイト・フライヤー』においても、肝心の吸血鬼はほとんど登場しません。どちらも物語終盤のクライマックスにちょこっと姿を現すだけなのです。しかも、その外見的な描写も1、2行程度。つまり、それこそが正統ホラーの書式であり、怖さを盛り上げる秘訣なのです。

主人公は普通の人間で、ストーリーは彼が体験する出来事として描写されます。ポプシーやナイト・フライヤーが何者であるかはいっさい説明されておりません。読者はポプシーの正体についてほぼ想像のみで読んでいくのです。

しかし、その少ない描写の中から、人血への飢渇と軽蔑に溢れた吸血鬼本来の姿が迫力たっぷりに浮かび上がってきます。人間を捕食する天敵、どう考えても友だちにはなれない輩です。この『天敵としての細部』をしっかり考えておくのが大事なんです。描写するしないに関わらず、こういう何気ないバックストーリーの設定が効くんです。

あなたの吸血鬼物語には、吸血鬼ならではの制約や特徴がこれでもかとばかりに詰め込まれていますか? 吸血鬼でなければ起こりえない事件に仕上がっていますか? 吸血鬼の放つ『絶対悪』の妖しい魅力が読者のハートを鷲づかみに出来ていますか? 何よりも、その外見を描きすぎることで読者の想像を阻害していませんか?

怪物は普段見えない心の暗闇に棲んでいます。質の高い恐怖を生み出したければ、惨劇を扉の向こう側で起こし、読者にはそれを暗示することでより強烈に想像させましょう。

そして、有名な既存のキャラクターを使うときには、彼らのルールを徹底的に守り、さらにそれを詳細に語りましょう!

吸血鬼に代表される『人類の天敵』という設定は、その設定自体がすでに対立軸を内包しているために、ストーリーを最初から全力疾走させやすい構造になっています。つまり、『敵』とか『悪』について迷うことがないわけです。

さあ、あなたもさっそくルールを守って伝統的な天敵を設定に組み込みましょう。そうすれば、いつも苦しんでいる『悪の動機』作りに時間を取られることなく、主人公と敵を思いきり激突させることができるのです。

 

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面白い物語を生み出す4つのマインドセット

面白い物語を生み出すための4つのマインドセット

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娯楽として読む面白い小説を書くためには必須のポイントがある。世界観やキャラももちろん大事だが、それ以前に、誰が読んでも夢中になる『構成上の仕掛け』が必要。その具体的なアイデアを得るための考え方とは?

こんなご質問をいただきました。

自分の書いた小説は「世界観は良いがキャラクターの個性が弱く、ストーリーのテンポで緩急がない」とよく言われます。自分もその欠点を直すため、アクションシーンやキャラクター同士の対立などを描くようにしているのですが、なかなかしっくりきません。それらを描いても、理屈っぽく平坦に考えているように見えてしまい、躍動感がないのです。ストーリー上でハラハラドキドキを表現するには、やはりどんでん返しを上手く活用するしかないのでしょうか?

ぴこ蔵です。

ここでは一般的に広範囲に受け入れられる娯楽の作り方をテーマにしていますので、あくまでも『誰もが楽しめるお話を作る』技術とその基本となる考え方について語ります。

『どんでん返し』は驚きを生むための技です。エンターテインメントとしてこれがあるのとないのとでは評価がずいぶん違います。しかし、これだけに頼っていて他の技術がおろそかになっては本末転倒です。

いまいちウケないのはどうしてなのか? どこが伝わっていないのか? なぜ伝わっていないのか? 読者の不満の原因を発見するために、自分自身の作品を勇気を振り絞って見つめ直してください。

1.やさしくわかりやすく説明する

「理屈っぽく平坦に考えているように見えてしまう」理由は、大抵の場合、独りよがりによる「説明不足」です。とくに、あらすじから作っていく場合には要注意。

自分だけしか分かっていないのに、読者全員が理解しているはずだという錯覚によって、細かい説明を端折ってしまうことがあります。それは『よくある設定』を使った時に起こります。

仲間内での『お約束』という概念に頼ってしまって、暗黙の了解を前提とした共通ルールが存在しているように思い込んでしまうのです。書きたいことだけを書いて終わりにしてしまい、それを読者に分かってもらう努力をしていないのです。「これが理解できない人は自分たちの仲間ではない」という身内意識が嵩じて「わからない奴は馬鹿だ」と思うようになります。

そうなると、『お約束』は、面倒臭い取材や調査、手に負えない細部の描写などを省略するための言い訳になっていきます。自分を甘やかすための仲間内のルールを読者に押し付けているだけです。でも本当はその『仲間』自体がただの思い込みに過ぎない存在であることも多いわけで……。

創作は基本的に孤独で地味な行為です。読んでくれる人を満足させるために、どうすれば想いが伝わるか、どうすれば面白がってもらえるか。そんなトライ&エラーの積み重ねでミクロの単位まで磨きこむ作業が必要なのです。コツコツと苦労せずして高い評価を得るなんて不可能なのです。

TRPGのように同好の士でプレイするために特化されたシナリオは別として、万人に読んでもらいたい娯楽作品を作るのであれば、丁寧な説明は必須です。けっこう大変ですが、ここをきちんと書き込んでおかないと、作品が普遍性を持てなくなります。

エンターテインメントを志望するのであれば自分の作品の読者や観客をできるだけ広く想定し、彼らを夢中にさせる根本的な要因を考えてください。専門的な世界には深くて濃い歓びがありますが、作品が流通する人口が少なくなることは承知しておきましょう。もちろんどちらを選んでもいいのです。誰でも(私にも)マニアックな趣味があります。

むしろ創作意欲はそこから湧き上がってくるものですし、ものを書くモチベーションというのは自分らしさの追求であり、自分だけの至福の時間の再現に他ならないのですから。

2.喜怒哀楽などの感情を再現する

面白いストーリーを作るのにどんでん返し以外で必要なものとは何でしょう? そこにはいくつかの基本的な鉄則があります。

明確な対立軸。
登場人物を行動に駆り立てる強烈な動機。
登場人物が急がねばならない理由。
大きな謎。
息を呑む衝撃。
とてつもない困難。
偶然が紡ぐ運命。
余韻が残る意外な結末。

どれもみな無くてはならない大切な要素ですが、作り手がいちばん考えなければならないのは、それらの要素を使って読者からどんな『感情』を引き出すかです。

そしてそのために最も注意すべきなのは、登場人物の感情を上手に描写することよりも、登場人物の感情をいかにして読者に追体験してもらうかです。

読者に悲しい気持ちになって欲しければ、悲しんでいる人を描くだけでは充分とは言えません。登場人物と同じ悲しみを読者から引き出さなければならないのです。

例えば、オープニングの『つかみ』では、主人公の敵となる悪や試練となる障害を大きく激しく描くことで、読者から「恐れ」や「不安」を引き出したいわけです。

その後に続く『セッティング』のシーンでは、人間関係を説明しながら語られる主人公の日常に「平穏」「親近感」「期待感」などの感情を味わってほしい。

同じように、事件のきっかけやどんでん返し、あるいはクライマックスで読者にぜひとも味わってもらいたい感情や雰囲気として、「欠落感」「不安」「怒り」「恐怖」「焦り」「警戒」「驚愕」「緊迫」「喜び」「カタルシス」「自信回復」「愛しさ」などなどがあります。

具体的にかくかくしかじかの感情を引き出すんだ、という明確な目的意識を持ち、それをきちんと言葉にするようにしてください。

そんなわけで、何はともあれ、まずはあなたが読者に与えたい感情を把握し、それをしっかりと概念化して掲げることから始めてください。あなたの物語を読んだ人を、泣かせたいのか、笑わせたいのか。あるいはゾッとさせたいのか、はたまた温かい気持ちにしたいのか。

要所要所で、場面ごとに、味わって欲しい感情を想定しましょう。

3.『感覚』を刺激して共通体験にする

さらに、その感情を想起してもらうために、どんな『感覚』を利用して追体験させるかを考えましょう。読者の五感を刺激してあげるのです。と言っても、直接触れるわけにはいきません。より読者の心に深く届くように『感覚』に訴えかけるシチュエーションを考えてください。

スピード感や快感、ゾクゾク感やワクワク感、痛み、味、匂いなどの感覚を伝えることによってあたかも実際に体験したかのように記憶してもらうわけです。

状況が産み落としてくれる雰囲気を待っていてはいけません。自分から積極的に仕掛けていくことによって、『感覚』をより効果的に配置できるのです。

4.お手本となる名作を解析する

「登場人物が勝手に動き出す」というのは、話の枠組が決まった後の話です。例えば、19世紀以来、エンタメ小説の技術を進化させてきた牽引役は、紛れもなく探偵小説、推理小説です。そして、そんな代表的な技術体系であるミステリーは、結末や犯人を決めずに書き始めることは不可能なのです。

娯楽小説の歴史はミステリーの歴史であると言っても過言ではありません。現代の読者はそんなミステリーのテクニックを熟知しており、また実際、多くの他ジャンルの作品でその要素は使い込まれ続けています。

面白い物語を書きたいのであれば、まずは本場イギリスやアメリカのミステリー、サスペンスを読んでみてください。何が読者を夢中にさせる要素なのかがよくわかるはずです。ミステリーが時間をかけて育ててきた高度な物語技術を活用することは現代のエンタメ作家にとって常識であり大前提です。ファンタジーやホラー、SF、ラブストーリー等を書きたい方であっても、ストーリーテリング技術に秀でた推理小説の名作をたくさん読むことをぜひお勧めします。

 

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物語のツイスト作り方

意外すぎる展開! 物語を刺激的にするツイストの作り方

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ストーリーを突然あさっての方向に転換し、読者の予定調和予想を覆す『ツイスト』。中でも効果的なのは『偶然』を使って仕掛ける技。登場人物が挑むギャンブルに読者は思わず凍りつく。

こんなご質問をいただきました。

『ツイスト』と言う技法があるのを知りました。この『ツイスト』は”ストーリに突然の出来事を加えることで先の展開を予想できなくする”と解釈しているのですが、「これって重要な伏線を隠すのに最適ではないか?」と思ったのです。ツイストによるパターンの崩壊によって先の展開が予測できなくなり、そのインパクトによって先を読ませたいと思わせると言うことですが、それは同時に読者の頭から直前の展開を忘れさせることも可能ではないかと思いまして・・・・・ぴこ蔵さんはこのことについてどのように考えますか?

ぴこ蔵です。

まさしくご賢察の通りです。たとえばこれはミステリーのテクニックのひとつの例ですが……

「真犯人の正体につながる決定的なヒントを出した直後に、『突然銃声が鳴り響く』とか『女の悲鳴が聞こえる』などのツイストを起こして、語り手の視点をそちらに移動させる」という技があります。

ヒント(伏線)の直後にツイストする、というのがミソですね。そうすると当然ながら読者の関心もそちらに移ってしまう。それで、その重要なヒントを見逃したり忘れてしまうわけです。

後になって謎解きをする時、そのヒントがしっかり出ていたことを思い出して、読者は『しまった!』と臍を噛むことになります。ひらめきのとおり、ツイストは伏線隠しには非常に有効な手口だと思います。試しに使ってみてください。

他にはどんなツイストがあるのでしょうか。

ガルシア・マルケス著のTVドラマ用のシナリオ教室『物語の作り方』では【ギャンブルの要素】を使ったツイストが挙げられています。さすがガルシア・マルケス! という示唆に富んだ一冊ですので、ぜひ読まれることをおすすめします。

 

「強盗に侵入された家の女主人が、一か八かの反撃を試み、強盗を眠らせようとして睡眠薬入りのワインを勧めるのですが、グラスがすりかわってしまい、逆に自分が飲んで眠ってしまう」……という、先の展開が全く読めなくなる意外性に満ちたツイストでした。

登場人物が、運を天に任せて一発勝負の賭けに出るのです。

どんでん返しとの違いは、ツイストが『登場人物による作為的なもの』ではなくて『運命』=『偶然』の要素を使った仕掛けである、というところだと思います。

偶然とは人智を超えるものです。もちろん実際には作者がその結果を決めているのですが、物語の中ではまるで『神様の気まぐれ』であるかのように見えます。《ギャンブルの結果待ち》という凍りついた時間の中では、読者はただ固唾を呑んで先行きを見つめるしかないわけです。

重要なヒントを出した直後に使うツイストは「何が起こっていても、一瞬で読者を受動的にし、思考を金縛りにして その関心を本来の対象から逸らせてしまう」のがポイントです。

《暴力や緊急事態によるパニック》《予想外の出来事による感覚の狂い》など、人間が一瞬、思考を放棄して立ちすくむような場面をツイストとして利用するといいでしょう。

また、精神的にタフで劣勢に耐えるのが強い人間でも、意外に動揺しやすいのが《突然のチャンスとその誘惑》であります。「勝った!」と思った瞬間、冷静な判断ができなくなってペースを乱してしまうのです。これは使えます。

ただし、『偶然』を利用するツイストは一作の中であまり多用すると『ご都合主義』だと言われますのでここ一発の時だけにビシッと決めることを心がけましょう。

よく出来たツイストは単なるヒント隠しだけにとどまらず、後悔してもしきれない一瞬の迷い、強欲による悲哀、はかない夢の切なさなどを表現することも可能です。人間の本質を浮かび上がらせる名場面として非常に説得力があり、うまく使えればあなたの物語に人生の深い味わいを与えてくれるでしょう。

 

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物語の悪を描く

立派な「悪」を描くために、あなたが自分に問いかけるべき3つの質問

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「悪とは何か」という考察が足りない作品は、早い段階で読者に飽きられるし、作り手にとっても長くは楽しめないもの。あなたは一刻も早く「それじゃあ、魅力的な悪って何なんだろう?」と自分に問いかける必要がある。

あらすじドットコムの目標は「面白い物語を最後まで作りきる」ことです。

あらすじドットコムが考えるエンターテインメント・ストーリーの本質は「人生が生きるに値するものであると伝える」ことです。

そして、あらすじドットコムにおける物語創作の最低条件は、以下の3点を満足させることです。

(1)ある欠落感が動機になった『主人公の目的』を設定する
(2)主人公の邪魔をする『敵(障害物)』と対立させる
(3)主人公を変化(成長・堕落)させる

さらにかいつまむと。

●欠落感
●対立
●変化

この3つが基本です。

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

「目的を追う主人公が、邪魔をする敵と戦い、変化(成長・堕落)する」

↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑

つまり、失った大切なものを取り戻そうとする主人公は、邪魔をする人物や障害物と対立し競い合う中で、その意識を大きく変容させる。これが、ぴこ山ぴこ蔵が考える「面白い物語の基本形」です。

ここでいう面白い物語とは『純文学』のことではありません。消費と蕩尽を目的にした娯楽的なストーリーのことを指します。その目的は読者にカタルシスを与えることと、その人生の意義を肯定し、気持ちを上向きにしてもらうことです。

そのためには「誰が何のために何をしている物語なのか」が読者に分かりやすく伝わらないと困ります。したがって上記の3つのポイントをしっかり構築していないと、登場人物の行動に説得力がなくなってしまいます。

特に気をつけたいのが「敵」の取り扱いです。「敵」は、強くて、大きくて、残虐で、できればユニークで悪意に満ちていてほしいものです。ところが、よく目にするのが“主人公と敵を1セットで考えている設定”です。

「遙かな昔からそういう宿命であった」とか、「戦時中という設定だから」とか、「対立する組織だから」という、対立理由の曖昧な敵がけっこう多いのです。まずはとりあえず「敵という設定ありき」で始めており、その対立の根拠を明確にしていないんですね。

スポーツ根性ものなら『くじ引きで決まった対戦相手』というだけでも成立しそうなものです。しかし、実際にはやはりそれだけでは物足りません。そこでライバルの身の上や逸話を素材にして『主人公との対立軸』をなんとか設定することになります。

ライバルとの葛藤。そのほとんどは思想・信条の対立です。お互いに受け入れられない生き方をしているわけです。そして、そういうものは『悪』と呼ばれます。

敵には『悪』であってほしい。例え善人であっても、敵ならば小さな悪を身にまとっていてほしい。そこに葛藤があり、ドラマが生まれ、『悪』の定義が変化するのに伴って主人公が成長することもあります。

あなたの物語に登場する『悪』は、絶対的なものであれ、相対的な概念であれ、主人公と真っ向から対立するものです。つまり、悪を語ることは主人公の思想・信条を語ることと同義なのです。ということは、悪の深さや説得力の有無によって、逆に主人公の魅力や読者からの共感の度合いが変わるというわけです。

立派な悪を生み出すための3つの質問

最近の特撮ヒーローものは錯綜する複雑な人間関係が前提です。「世界を征服するのだ! うはははは!」というのどかな野望だけではもはや誰も納得しない時代なのであります。悪者にも何らかの正当な理由があって、それを満足させようとして悪事を働かないと読者や視聴者が共感できません。悪人にも「何かを成し遂げたい」という切羽詰まった強い気持ちがなければ、読者を説得できるような大それた悪事を働くことは出来ないということですね。

《質問1》 悪事の動機は何ですか?

「悪役がステレオタイプになってしまうんだけど……」そんなお悩みをよく聞きます。

悪こそは物語の華です。その華には毒ももちろんありますが読者の心を惹きつけて止まない蜜もたっぷり含まれています。そして、そんな「悪役」の多くは、主人公の対立軸である「敵役」となるべき宿命です。

敵なくして対立軸はなく、対立がなければ面白みもないわけですから、あだやおろそかにしてはなりません。

このあたりのことは下記の記事をお読みください。

「悪」についてわしも考えた

ところがそんな重要な、敵となるべき登場人物の悪の動機を、どうせ悪党だからこんなものだろうと「富」や「権力」にしてしまうことがあります。しかし、よく考えると「富」や「権力」というのは『目的』を果たすための手段であり、最終目標ではないはずですよね。

金が欲しい、力が欲しい、というのはごく原始的な発想であり、それだけでは小さな犯罪を犯す程度の動機にしかならないわけです。

それでは途中で「悪」のエネルギーが足りなくなります。話の半ばで力尽きてひからびた悪党ほど痛ましい存在はありません。なにしろ全然怖くないので読者から無視されてしまうのです。だから無理やり別の悪人を登場させたりして悪あがきし、ストーリーがぼろぼろになってしまうのです。

ただ単に「世界制覇を企む秘密結社」や「金が欲しくてたまらない犯罪王」、「とにかく変態」などというのでは今どき誰も納得しないのであります。「倒すために設定された敵」というのはすぐに見透かされるものです。なぜならそこに真実の悪がないからであります。『最強のヒーロー』を描きたいのであれば、敵方にもそれに見合うだけの巨大な悪の理論が存在しなければなりません。

さあ、あなたの物語の悪役の動機は何か、教えてください。

《質問2》 あなたの最大の『欲望』は何ですか?

エンターテインメントなんですから、何はともあれ、衆目をびっくりさせなきゃいけません。よくある話じゃ誰も読んではくれません。それではどうすればいいのでしょうか? どうすれば読者が納得できて、しかもびっくりする凄い『悪』を作り出せるのでしょうか?

毎日毎日、新聞やニュースを集めて、悪のドキュメンタリーを探す? 大事なことですけど、それだけではありません。

悪はそれだけで存在するわけではありません。人間が行うから悪事なのです。そして、わが身を振り返って考えてみると、最大の問題は、悪いとわかっていてもつい悪事を働いてしまう自分の中にあるのです。

それではなぜ、人間はそんな無責任なことをするのか?

それには「欲望」が大きく関係しています。欲望は常に自分の中に蠢いているはずです。

詳しくは下記の『基礎講座』をお読みください。

物語を突き動かす「悪」の動機~悪を生み出す6つの「欲望」とは?

あなたの欲望のうちで最大のものは何ですか?
欲求と混同しないように気をつけてお答えください。

《質問3》 あなた自身の『欠落感』は何ですか?

さて、そんな欲望を生み出すのは「まだ何か大事なものが足りないよ」という偽りの警報です。あなたの心にぽっかりと空いた空洞を、他人の幸福を模倣することでなんとか埋めようとする淋しさの衝動です。

つまり『欲望』とはあなたの内部に潜む『欠落感』なのであります。『悪』を目に見えるように具体化し、あなたの物語における「敵」を魅力的にするためには、この『欠落感』は何かを自分に問いかけることが早道です。

さらに、その欠落感をどうやって表現するかを考えてみましょう。欠落の寂しさを埋めるためにあなたは何をしますか?

欠落感については『基礎講座』でも述べております。

主人公の目的を決めるなら「欠落感」を探せ!

なぜ金が欲しいのか? なぜ権力を手に入れたいのか? そこにはもう一段階深いレベルの感覚があるはずです。それを表現しきれないと「よくある話」になってしまいます。登場人物がリスクを犯しながらも犯罪や悪事に手を染める時、彼らはどんな『欠落感』に突き動かされているのでしょうか?

あなた自身の欠落感について語ることによって、悪のバックストーリーが見えてくるはずです。
それでは「立派な悪を作るための」以上の3つの質問を、もう一度まとめておきます。

《質問1》 悪事の動機は何ですか
《質問2》 あなたの最大の『欲望』は何ですか?
《質問3》 あなた自身の『欠落感』は何ですか?

21世紀になっても世界は一向に平和にならず、むしろ次々に激しい対立や変化が起きています。こんな緊迫した時代だからこそ、自分の行く道をしっかり見定めて、規模の大小に関わらず、一つ一つの問題に回答していきましょう。

物語を作るということは、人生を彩る全ての謎にあなたならではの「答え」を出すということなのです。

 

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オープニングシーンを最後に作るべき3つの根拠

 

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冒頭のシーンが面白くなくては作品を読んでもらえない。そのためには3つのポイントがある。そして、その3つこそ、オープニングを最後に作るべき根拠でもあるのだ。

くつろいで本を読みたい……。
そんな時、重厚な大長編の素晴らしさはよく判っているけど、肩の凝らないエンタメで手っ取り早く楽しみたいことも多いですよね。ちょいと寄った書店で、『自炊』するほどでもない、消費というか蕩尽を前提としたエンタメ小説を選ぶとします。

さあ、どれを買うか?

当然、立ち読みでぱらぱらと中味を読むことになります。そのとき途中から読んだりはしません。だからこそ今更ながら思うのであります。オープニングって重要だなあ、と。

小説で一番多くの人に読まれるのは『1行目』です。ということは、作品を『読ませる』上で一番大切だということです。それでは次に大切な部分はどこでしょう? それは『2行目』です。

笑わせようとしているのではありませんぞ。

そもそも読者に「読む義理」はないのですから、1行目の出来次第で2行目を読む人の数は変わります。読者はいつだって読むのをやめてスマホに戻る理由を探しています。あなたの作品のライバルは他人の作品ではありません。LINEでありゲームアプリなのです。

この摂理に従って、1行ごとに読者はどんどん減っていきます。いかなる偶然か、せっかくあなたの作品を手にとって読み始めた貴重な読者が、不用意な1行のせいで離れていくのです。けっして増えることはありません。

だいたいは物語のオープニングシーンの間じゅう、これが繰り返されるのです。作り手はこの読者の自然減と戦わなければならないわけですよね。どんな手を使ってでも。どうにかして読者の乖離を最小に食い止めなければ、最悪、オープニングが終わるとともに読者はいなくなってしまいます。

あなたは静謐で暗示的なゆったりとしたオープニングを書いていませんか?

あなたが名の売れた大作家でしたら読者も期待感で付き合ってくれるでしょうが、知られていない新人の場合、そんなオープニングシーンを誰も読んではくれません。

最初のページを開いたとき、読者の心は半分まだ『日常』にいます。夢うつつで空中浮遊している読者は、よほどがっちりとと捕まえなければ、10行以上読んでくれません。作者はスパイダーであり食虫植物です。練りに練った罠を仕掛け、読者という名の獲物をガツガツと捕食しなければ生きていけないのです。

それなのに、大事なオープニングで、世界観を暗示するイメージや人間関係の説明、登場人物のキャラ立てなどの『セッティング』ばかりに気を取られていると、会話がメインのおとなしいものになりがちです。これでは読者が退屈してしまう危険性が高いので、1行目から何か異常な事態が起きなければなりません。

だからと言ってただ単に『爆発シーン』や『アクションシーン』を書けばいいのか? いやいや、そうではありません。もちろん『見た目の派手さ』はエンタメとして非常に重要ですが、それ以上に大事な要素があるのです。

大切なのは“日常”と“非日常”のズレのふり幅です。読者が共感しやすい日常的な描写の中に、「おや?」という非日常的な違和感を忍び込ませる技です。あなたは共感と違和感の狭間に、強靭な蜘蛛の巣を張らねばならないのです。

サイズや角度や光の反射の具合を考えて、どこに巣をかけるか決めるのです。慎重に計算し、大胆に仕掛けてください、読者をあえかな細い糸でがんじがらめにするのです。そして、その糸には獲物を強烈に誘引する物質を塗りこんでおきましょう。

その誘引物質は読者自身の欲望や恐怖から出来ています。例えば、ただの物理的な爆発シーンではなく、読者の恐怖感を刺激する本質的な喪失の局面。ありがちなバイオレンスアクションではなく、読者の暗い欲望を引き出すような暴力行為を描くのです。うずくほど欲しがらせ、たっぷりと怖がらせるのです。

最初の1行から数ページで読者の心を掴んでしまえば、オープニング明けに少々説明的なシーンが書かれていても、興味を持って読み続けてもらえるはずです。自分が読んでいるときを考えると、まさにそういうことです。

……ところが、これは口で言うほど簡単な作業ではありません。

物語創作には『物語を作るための技術』と『鑑賞者を魅了するための技術』とがあります。ストーリーを作る上ではどうしても終盤がポイントになりますが、魅せるために重要なのは当然『オープニング』なのであります。

それでは具体的に実作品の『オープニング』を見てみましょう。

脚本がシンプルで基本に忠実、なおかつ面白くて分かりやすいのは、何と言っても『ディズニー映画』です。ディズニー流物語の『型』はエンタメの1つの完成形だと思います。例えば、ニコラス・ケイジが主演した映画『ナショナル・トレジャー』を見てみましょう。

これは典型的な『宝探し』のシナリオですが、ごく簡単にまとめるとオープニングはこんな感じ↓です。

▼どこかの辺境に雇い主と共に宝探しにやってきた主人公。お目当ての宝は見つかったものの雇い主に裏切られ殺されそうになる。しかし、主人公は偶然に助けられ、機転を利かせると、雇い主から宝を奪って逃げ出した。

3つのポイント
●ここで手に入れたお宝は実は終盤の『切り札』の伏線になっている。
●ドラマを生み出す原動力となる対立軸である『敵』が登場。
●『目的』にまつわる解けない謎が提示される。

宝探しタイプの話を展開するならこの3つが最低限必要なファクターです。

これに『爆発シーン』『暴力(格闘)シーン』『顔は頼りないけど主人公は機転が利くぞシーン』『髪は薄いけど愛情は濃いぞシーン』などのオプションが加わって、はらはらドキドキのうちに見事にセッティングが完了。最も大事な『登場人物の行動の動機』も大まかに説明されます。

タイトル前のたった数分間でこれだけの要素を、タイムリミットを仕掛けたアクションの中で面白く描写してしまう構成。ハリウッドのお見事な技術力に感心すると同時に、まさにオープニングはもう一つのショートストーリーだということがわかりますね。

それとともに気づいていただきたいのは、上記の3つのポイントは『物語全体の構成』が完璧に把握できない限り作れない、ということであります。特に、主人公の目的、敵対者の動機、問題とその解決方法。作り手はこの3つを早く決めること。

つまり、面白いオープニングを作るためには全体のあらすじをしっかり組み立てておく必要があるわけです。しかも、できるだけ短い時間でオープニングを完結させるためには、オープニングシーン専用のあらすじが必要だと思います。

もう一度、整理しておきましょう。

《オープニングシーンに最低限必要な要素》

・終盤での『どんでん返し』や『切り札』につながるいくつかの伏線
・敵の強さと恐ろしさ
・『目的』に関わる不可思議な謎

あなたのオープニングには、全体の構成から逆算した必要な要素がきっちり入っていますか?

 

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ゴッドファーザーはつらいよ!~その名前でいいのか

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物語の登場人物の名前はその性格や容姿にまで強い影響を与える要素である。初期の段階では固有の名前を付けず、まずは「主人公」や「協力者」などの機能で呼ぶとロジックを組み立てやすい。

名前の持つ魔力

登場人物につける「名前」はその人物のキャラクターと非常に深い関係にあります。そして、この「ネーミング」に悩んでしまい、時間がかかってしまうという人が意外に多いのです。

自分のことを思い出してみると、登場人物の名前に悩んだのはストーリーより先に自前のキャラクターを設定した場合でした。そのキャラクターの勢いというか存在感に頼ってストーリーを引っ張っていこうとしたわけです。

生まれたばかりのキャラクターはきらきらと輝いています。「こいつが冒険する話はさぞや面白いんだろうな」と、作者のくせしてファンになったような気分でウキウキしてしまいます。ところが、これがうまくいかないのであります。

プロットと言うのは因果関係をロジカルに説明するものですから、できるだけシンプルに筋道立てていかないと、頭の中でうまく図式が組み立てられません。 性格とか、外見的な特徴とか、喋り方や癖などなど、自作キャラクターに付随して作りこむ多くの情報は、あらすじ作りの段階ではむしろ邪魔にさえ感じられます。

とくに私の場合、自作キャラまかせではドラマの展開にワンパターンのバリエーションしか出てきませんでした。 自分の創作物なのに依頼心が出てしまうようですぐにアイデアが底を尽いてしまうのです。

そこで、「顔と名前ぐらいは知っているが、あまり親しいわけではない」程度の関係の実在の人物の名前を登場人物に当てはめてみました。これはわりと面白い体験でした。実在する他人の名前を使うと最初からリアルな個性が与えられており、それが制約となって選択の可能性が限定されるので意外に作りやすいものです。

かと言って、例えばロマンチックで壮大な異世界ファンタジーを描こうとするときに、「孤高のドラゴンライダー: 田川 繁夫 52歳 痩せ型 休日はいつも甚平着用 好きな食べ物は仁丹」みたいな実在する隣の家のオジサンの名前とキャラを使おうとしても気分が台無しです。

とくに、『非常に魅力的なキャラ』が必要な場合、残念ながら、身の回りにそれほど素敵なモデルは見つかりませんでした。また、外見的特徴のインパクトだけでは多くの物語パターンを創作するのが難しいように思われました。

名前を付けないでも出来ること

そこで提案ですが、あらすじを作る初期の段階では登場人物の名前を付けないようにしてはいかがでしょう。

ストーリーの進行以外の余計な要素を排除するために「主人公」を「主人公」という名前にするのです。「偽敵」や「本敵」もその役割のままに「偽敵」「本敵」と書くようにします。登場人物の名前を決めないのです。

時代劇の主人公を「青山 晴之助」という名前にしてアイデアを出すのと「闇坂 影十郎」という名前にして書くのとではその後の展開にかなり大きな違いが出てくるのは明らかです。 「正直」とか「青空」と言う名前の悪人ではなんだかピンと来ませんし、フランク張本と言う名の僧侶というのもなかなか辛い。

読者はまず登場人物の名前によってイメージをかき立てられ、ルックスを含めたそれなりの人物像を固定化してしまいます。つまり、名前をつけるということは登場人物に顔を与えることなのです。 ネーミングはそのぐらい重要な作業です。したがって作り手は焦って「登場人物の名前を決める」必要はありません。

それよりも優先すべきなのは人間関係と役割の決定です。 とりあえず破綻なく最後までストーリーを作って、その後に、用途に応じた印象を持つ「名前」を付けたほうが効率的な場合がほとんどなのです。 それでは、その行程の順番を確認しておきましょう。

最初の手順

手順としては、まず、クライマックスの直前に訪れる起承転結の「転」の内容を決めてしまうこと。

面白さを優先するならここでどんでん返しを入れるといいでしょう。 どんでん返しとは、読者や観客を驚かせるために「Aだと思わせておいてBを出す」ことです。 それだけを考えて、AとBに具体的な物や人を当てはめてください。

「蛇だと思わせてゴムホース」とか、「刑事だと思わせて詐欺師」とか、「人間だと思わせてロボット」などです。 上記は作者の立場から見た場合ですから、読者の視点に立つと、例えば、「蛇だとばかり思っていたら、実はゴムホースだった」ということになります。

もっとも、さすがに「蛇とゴムホース」という素材ではボリュームのある話は支えきれないと思われますので(笑) 例えば……「主人公が倒さなければならないのは『ライバル』だとばかり思っていたら、実は『恋人』をやっつける必要があった」 「主人公が探し出さねばならないのは『犬』だと思っていたら、実は犬がはめている『首輪』こそが重要だった」 ――などなど、 「驚き」とそれに伴う「感動」を生むアイデアをまず作るわけですね。

次に、そのどんでん返しを受けての結末を決める。つまり、主人公はゴールできるのかどうかをまず決めて、それから、その後に起こる「意外な結末」を作る。

このあたりまでは「登場人物のキャラクター」には出番がありません。ですから、まずはキャラ抜きで、ストーリーの土台を決めてしまいます。これから読者に届けるのは「主人公が探し出さねばならないのは『犬』だと思っていたら、実はその犬がはめている『首輪』こそが重要だった」という驚きを核心としたお話なのだ、と決めてしまうわけです。

実際にはこの部分のアイデアを出すのがなかなか大変なのですが、最も楽しい時間でもあります。どうすれば読者はびっくりするのか? 盲点はどこにあるのか? いかにすれば錯覚を生み出せるか?

確かにむずかしい作業ではあります。しかし、日頃から注意深く周囲を観察し、錯覚や盲点、二面性などに気を配っていれば必ず発見できるはずです。頭を柔らかくして、ちょっとでも「おや?」と引っかかることがあったらじっくり考えましょう。

このアイデアが凡庸だと、結局は面白さが不足してしまいます。これこそが物語の命です。自分でも思わずドキドキ・ワクワクするようなネタを探しましょう。 逆に言うと、納得のいく案が出るまでストーリーを考えてはいけません。これを思いつかないのなら面白い物語を書くことは出来ないのです。エンターテインメントは確実に面白さを担保しなければなりません。つまらない娯楽なんてあり得ないわけです。ここだけは絶対に誤魔化してはいけません。

そんなわけで秘術を尽くしてアイデアを思いついたら、後は、いかにその「驚き」を最大のインパクトで見せるか、に注力します。

魅力あるキャラを作るなら「行動原理」を確立する

登場人物のキャラ作りは確かに楽しい作業ではありますが、そればかりやっていても物語は動きません。たくさんの登場人物が入れ替わり立ち代わり出てきて、同じような場面で同じようなことをしゃべる作品を よく見かけます。

ところが、登場人物の存在意義がはっきりしていないので、彼らがストーリーの要請に応えて重要な謎を解明したり、主人公を指導したりすることはまずありません。なぜなら、キャラクターを作りこむと言っても大半は自分の好みのタイプの人物を再現しているだけに留まっているからです。

さらに言えば作者がお気に入りの情緒的なシーンを名場面集のようにつなげているだけの話がいかに多いことか。これではキャラに厚みなど出るはずもありませんし、何よりもそういう登場人物が必要なのかどうかさえ疑問です。

キャラと言うのは外見や性格だけでなく行動パターンが非常に重要なのです。例えば、追い詰められて切羽詰った時の行動パターンにはその人物の本質が残酷なほど明らかに反映されます。困ったとき、その人物は何をするのか? どうありたいと望むのか? その衝動の本質を捉えた「動機」をきっちり説明することがキャラクターの造形につながります。

愛される主人公キャラを作るために

また、エンタメの場合は、主人公が読者や観客から「愛される」「好かれる」ということが特に重要な資質となります。これは単に「カッコいい発言をする」とか「やたら強い」とかで達成できる目標ではありません。 他人に愛される人とはどんな特徴を持っているのか? という難問に、作者なりの解答を出さなければ魅力的な主人公像は描けないのであります。

キャラを描くことは人間性を描くことです。それも、作者が自分自身の経験を通じて醸成してきた「これが愛される人間だ」と思っている理想像を公表することなのです。 この観察眼が甘いと、正解が分かりません。あなたの主人公はステレオタイプな言動しかしなくなり、その上、それに気づかないことで読者の期待を裏切る悪循環にはまり、いつの間にやら「疎んじられ」キャラになります。

主人公のキャラ設定をするのなら、例えば、「窮地に立った時、どれだけ人間味にあふれた行動が取れるか?」 というような観点を持つことです。 主人公は作者の人生観や生き方を見事に反映します。キャラ作りは、結局、作者自身の問題なのです。 「外見レベルの設定」から抜け出して、読者や観客を見たことのない地平まで案内するために、キャラクターの行動原理を徹底的に考えましょう。

登場人物の内面を考えるのは、時に手強く、つらい作業です。 一方、主人公の特殊能力やパンチ力、髪の毛の色や愛用する武器の形状を想像し、メモ書きという名の宝物庫にしまいこむのは楽しい作業です。 しかし、そういうお楽しみは後に取っておきましょう。まずはストーリーの要請に従った主人公の行動を確定し、追い込まれた最悪の状況で人間的な魅力を最大限に発揮するような、読者に伝わりやすいシンプルな選択肢を作ってしまうのが重要です。

物語作りは鉄道旅行のようなものかもしれません。ストーリーの線路を敷かないことにはキャラという列車は走れないし、行動を選択する場面という駅がなければ読者が乗りこめないのであります。

 

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