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物語を効率敵に組み立てるfeedforward

物語を効率的に組み立てる魔法「フィードフォワード」

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「伸びる人は、素直である」と先人は言いました。疑うことなく素直に学ぶ。 そして、学んだことを素直に実践してみる。そういうパターンこそがあなたを最も速くスキルアップさせます。贈られた知識を素直に受け取ったとき、あなたの行動様式が変わります。そして、行動パターンが変わったとき、あなたの人生も変わっていることに気づくでしょう。

物語作りはフィードフォワード

2014ソチ、2020東京と五輪がらみで自分の中のスポーツ熱が上がり始めたので(笑)いろいろ調べているうちに「フィードフォワード」という言葉を耳にしました。ググってみて驚きました。物語作りにとって非常に重要な示唆を含んでいたからです。ちょこっと説明させていただきましょう。

※参考記事:日経ビジネスオンライン
東大生と学ぶ“運動音痴”の治し方
最先端科学で知る運動と脳--柳原大・東京大学大学院情報学環・准教授

そもそも、商売にしてもスポーツにしても、習いはじめは、誰しも誰かの動きを真似ます。しかし、自分と他人は違うので、同じようにしているつもりでも見よう見まねでは完全に同じ動作は再現できません。脳の中で精度の高いプログラムが作成されていないからです。

何かに熟達するためには、その作業の細部が脳内でプログラム化され、さらにそれらが状況に応じて更新されていかなければなりません。「自分にとって最適な方法」を獲得する過程こそがスキルを上げるための最重要ポイントなのです。

それでは、どうすれば最適な方法を身に付けられるのでしょうか?

フィードバックとはどう違う?

私たちが何かを上達しようとか、もっと熟練してさらにいい結果を出したい場合、一般的に「フィードバック」という方法を取っています。誰でも「フィードバック」という言葉はよく知っていますよね。何かを実行したその結果を、自動的に実行段階に反映させて、結果を調整すること。

ビジネスに例えれば、男性アイドルを使っておしゃれなスーツの広告を作ってみたが、思ったほどの売り上げがなかった。だから、今度は、女性のキャラクタを立ててみることにした。――というように、何かをした結果についてだけでなく、結果を導くための計画立案や実践行動の反省点についての情報を伝達すること。

スポーツに例えて言うと野球のピッチャーが、カーブを投げようとして球の握りを変えた。その結果、球は思ったよりも曲がりすぎてボールになった。そこで少し握り方を直した。すると丁度いいカープがかかって打者は空振りした。

――この一連の動作での「そこで少し握り方を直した」こと。これがフィードバックです。

フィードバックの限界

何でもいいからとにかくやってみる。そして、その結果が出たところで、他人の意見を聞くなどしてやったことの効果のほどを検証し、次はそれを踏まえてやり方を変えていく。この方法は、いかにも確実で完璧に思えます。ところが、このフィードバックには修正に時間がかかりすぎるという欠点があるのです。

例えば、テニスプレイヤーは200キロくらいの速いボールを平気で打ってきます。その時にいちいち「どれくらいの強さで」「いつラケットを振るか」などとという行為をフィードバックに頼って行うとしたら、時間がかかるどころか、一歩も動くことが出来ません。

それではクルム伊達公子選手はなぜあんなにデカい相手の恐ろしい速度のサーブを簡単に打ち返してしまえるのでしょうか?

実はそんな時、人は感覚のフィードバックを使っているのではなく、あらかじめ目標値を決め、それを行動に落とし込むという「フィードフォワード」を行っているのだそうです。

フィードフォワードとは「脳からの出力によって動作の内容を事前に決めておき、それを実行することによってシステムを直列的に制御する」という意味です。簡単に言いますと、「力の入れ具合はこんなものかな」「もう少し速く振ってみっか」など、いちいちチェックしながら行動するフィードバックに対して、フィードフォワード制御は、予測をそのままなぞるような方法論です。つまり、ヤマ勘みたいなもんですな。

例えば誰かとハグする場合、「どのくらいの力で抱きしめるのがベストか?」なんて考えませんよね。自分の出す力を加減し、どれだけ抱きしめたら、相手からどの程度抱きしめ返されるかが経験的にわかっているのです。

そうでなければ、路上で抱きしめあったカップルは、いつ「サバ折り」合戦になってしまうか戦々恐々としてしまい、愛をささやくどころか空いている足でヒザ蹴りを入れあうというとんだ総合格闘技マッチになってしまうではありませんか。馬鹿なこと書いてすみません。

好きな人とそんな修羅場を迎えたくなければ予測と出力の連動精度をあげることです。

フィードフォワードを使った物語作り

最初はフィードバックに頼っていても、練習を繰り返すうちに、すばやく自動的に行動を選択できるようになります。フィードフォワードのシステムが完成するわけです。

ぴこ蔵流の「どんでん返しという型から物語を作っていく」手法はまさにこの「フィードフォワード」理論に則っています。まずは「転」を作り、それから始まるクライマックスを予測し、オープニングやミッドポイントはそこに向かって準備を整えていくつもりで書く。

そうでなければエピソードの緻密な連動は出来ません。何も知らないような顔をして、実は最後まできっちり計算しておく。それがエンタメのスキルというものです。そして、そのすばやい連動の精度向上に不可欠とされるのが「自分は何を間違ったか」という誤差情報なのだそうです。

私たち人間という生き物は、「誤りを通じてしか適正な行動を獲得できない」存在なのであります。予測に応じた目標に乗っ取って行動し、即時に誤差を修正し、すばやく適正な選択をすること。これは「効率の良い物語作り」においても重要な指針となります。プロを目指すのなら特に「生産力」は大きなキーポイントですからね。

自分のパフォーマンスを正しく知る

それでは「エンターテインメント物語」を作る上での誤差とはいったい何でしょうか?

物語を語る上で最悪なのは「相手を喜ばせられない」ことであります。そもそもはけなされたくないから自信のないことや苦手なことには極力触れないようにする。だから少ない経験の中から好きなことしか書けない。しかし、それでは当然面白くならないために期待したほどの評価は得られない。

そこで、親しい仲間同士で見せ合って褒め合うようになる。しかしそのうちに身内の回覧だけでは飽き足りなくなってくる。そこで思いきって賞に応募するがまったく反応がない。結局、へこむ。もう書きたくない……。

笑い事ではありません。これは誰しもが必ず通る道なのです。私もそうでしたし、今でも大いにそうなのかもしれません。多かれ少なかれ、ものを書くということはそういう「ギャップ」にぶつかることであり、現実を知ることであり、自分の小ささに気づくことなのであります。

人間なんてものは、一人だけで生きていくには弱すぎる存在なのです。だからこそ、そこに「他人を喜ばせる」という大義がなければすぐにスランプに陥ってしまうのです。

楽しむことが最大の奥義

気をつけなければならないのは、何でもいいからがむしゃらにやったとしてもいい結果にはつながらないということなんです。

ちょっと失礼な例えになるかも知れないんですけど、「追跡犬」という、逃亡する密猟者などを追いかけて探し出す犬がいます。いわゆる警察犬とは少し違って、正確に服従させる訓練ではなく「追跡犬」には好き勝手し放題にしか見えないトレーニングを施すのです。足跡を追跡させるということは、犬にとって遊びである以上、楽しくなくてはならないのであります。

そして、無事に足跡を追跡し終わった時には、干し肉がもらえる。臭いを嗅いで足跡を追うことは「遊び」、そしてうまくいけばおいしいご褒美ももらえる。だから、犬たちは追跡するのが楽しくて仕方ないのだそうです。なので、訓練はその遊びと楽しさを強調させることがコツなのです。楽しくなくなってしまったら、追跡はしなくなってしまうから。

私たちも「遊び」にかけては彼らと同じです。「とにかく力の続く限りゴリゴリ書け! 面白くなくてもかまわん!」そんな精神論の濫用は、結局のところ自己中心的で不毛なパフォーマンスしか生み出せないと思います。何事もプレッシャーやノルマではなく、「おもしろいなあ」と思えることが大事なのです。オリジナリティも達成感も、まさにそこから生まれるわけですから。

あなたは、物語を予測に応じた目標に乗っ取って書き、面白くないなと気づいたらすぐに誤差を修正し、読者を喜ばせるための適正な選択を行っていますか? そして何よりも、そのことを心から楽しんでいますか?

さあ、今日も思いっきり楽しく「面白い物語」を作りましょう!

 

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可愛い子には試練の旅を

可愛い子には試練の旅を~マイナスからの出発

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最初から困難に直面している主人公には構成上の利点が多い。欠落がそのまま目的になるし、動機が明確だから行動力がある。そして振り幅が大きいため強烈な達成感が得られるのだ。

さて、こんなご質問をいただきました。

 「マイナスからの出発」ですが、それで描き始めるとどうしても、「共感型」の主人公に限定されてしまう気がします。凄い主人公の凄さを描きたい場合、例えば、よく少年誌とかで見受けられる、始めから完成された主人公、いわゆる「北斗の拳」のケンシロウのような「憧れ型」の主人公を描きたい場合は、「ゼロ、若しくはプラスからの出発」も、有り、なのでしょうか?

少年誌とかですと、「平凡な日常に突如現われた、超人的な主人公の超能力の紹介」、で成り立ってしまっている読み切り作品とかもありますので、(この場合、準主人公がハンデを背負っていることが多いですが)、「ゼロ、若しくはプラスからの出発」でも、主人公の目標さえ高ければ、また凄さに説得力があれば、エンターテイメントとして面白くなる、ということなのでしょうか? (Jさん)

マイナスからの出発とは?

ぴこ蔵です。

まずは念のために確認しておきましょう。

「マイナスからの出発」というのは、面白い物語の基本形である<【目的】を追う主人公が、邪魔する【敵】と戦い、変化する>の中の『【目的】を追う主人公』のシナリオを作る際のコツのひとつで、「主人公が苦労に苦労を重ねた末、何かを達成し、望むものを手に入れるまで」という『到達劇』をいちだんと盛り上げる『障害』設定のテクニックです。

「何かを達成する話」で大切なのは「達成がいかに大変だったか」を読者に伝えることであり、そのために必要なのは「障害物」や「邪魔者」や「失敗」などの困難です。つまり『到達劇』とは障害物との戦いに翻弄される「試練の物語」のことであり、主人公は最初から困難に直面していなければなりません。

例えば「年取って体がガタガタになったボクサーが、猛特訓の挙句、世界チャンピオンになる」とか、「不倫の代償で会社をクビになったOLが、新しい料理を考案して日本一のレストランを作る」など、物語の出発地点で、主人公はトラブルやハンデを背負っていることが重要です。

こういうと「キャラクター」の話だと勘違いすることもありますがトラブルやハンデというのは主人公の本質とは関係ありません。

マイナスからの出発はキャラのことではない

「マイナスからの出発」はキャラクターの話ではありません。シチュエーションの話です。つまり、筋を展開させるために設定された状況。形勢や局面、境遇、立場、状態に関わる事柄なのです。

例えば『北斗の拳』のケンシロウのキャラは「むちゃくちゃ強い男」ですよね。これに対して物語開始時にケンシロウが置かれたシチュエーションは「南斗聖拳のシンに敗北し、胸に七つの傷を付けられた上に、婚約者ユリアを強奪されている」というものです。

キャラが結果だとすれば、シチュエーションはそこに至るまでの経緯、つまり「バックストーリー」を圧縮したものだと言えます。「マイナスからの出発」とは、状況設定なのです。

他の「憧れ型」のヒーロー、例えばゴルゴ13はどうでしょう。ほとんど不死身の殺し屋で、精神的にも尋常でなくタフです。弱点なんかありません。あってはいけないキャラなのです。

しかし、そんな無敵のヒーローが毎週たやすく暗殺に成功する話ではこんなに人気が出るわけがありません。

不死身のゴルゴには、そのキャラに見合うだけの難易度を備えた「いくらゴルゴでも絶対に不可能」としか思えないような超ウルトラスーパーハードな仕事が依頼されるわけです。

例えば、脱獄不可能とされる刑務所に潜入し、独房の奥深くに収監された標的を暗殺し、しかもその証拠を持って帰らなければならないという話がありました。

受刑者として監獄に入所したゴルゴは、武器が使えないは、厳しい監視の目を盗んで標的に接触しなければならないは、挙句の果てに脱獄までしなければなりません。

それがつまり「マイナスからの出発」であり、話を盛り上げるためのシチュエーション設定なのです。

そんなムリムリな仕事内容こそがシチュエーション。でもゴルゴは圧倒的に強くてクール。そこがキャラ。その違いをはっきりと認識してください。

同じように、暴力だけがモノをいう世界に生きるケンシロウも確かにむちゃくちゃ強くてクールなわけですが、最初の状況は「何もかも失くしてしまったチャレンジャー」という絶望的に過酷な設定から始まっているわけですよね。

たしかにものすごく強いのだけれども、周りにはもっと強い相手がたくさんいるのです。ケンシロウは負けるかもしれないという不安が読者にはある。だからこそどきどきして読むわけです。

キャラの持つ尋常でない「強さ」をも揺るがすような絶体絶命のシチュエーションに主人公を置くこと。

それが「マイナスからの出発」の意味です。

その理由は、単なるゼロからの成功話よりも、マイナスから始めた方が最終的な「振り幅」が大きくなり、感動を与えやすくなるからです。

ですから、プラスからの出発をした場合はいったんマイナスに戻さないと面白くありません。大相撲のスポーツ根性物語を書くのにいきなり「大関」から登場させると後がほとんどありません。そんな時はいったん時間を巻き戻して、ひょろひょろでやせっぽちの中学生が無理やり相撲部に入部させられるところから描いたほうが面白いわけです。

「マイナスからの出発」とは要するに『苦労話』を作ることです。「共感型」でも「憧れ型」でもかまいませんが、主人公をさらに輝かせるために苦境に立たせるという状況設定の技法なのです。

暗くて重い要素を避けるな!

どんなに強くてかっこいい主人公でもいいのですが、それでも心配になってしまうほどの悪条件を用意すること。設定が適切にハードでないとふわふわと甘すぎる話になります。甘いと舐められます。

作り手が稚くして拙い場合、ともすると「地球が爆発する」とか「人類が滅亡する」などの大味で物理的な障害にのみ心を向けがちですが、それでは誰が作っても大差なくなってしまい、なかなか「自分ならではの魅力」が出せません。いかにユニークな障害を設定するかが勝負です。「マイナスからの出発」は心理戦なのであります。

そんな時、有効なのは「個人的でネガティヴな体験」です。「ネガティヴな要素」は人を惹きつけます。さらに「失敗談」は無性に気になってしまうものです。「ひどい目に合った時のこと」や「屈辱の体験」をきっちりエピソードで再現することで物語は俄然面白くなります。

自分のことでなかなか普通は書けないことってありますよね。醜いこと、かっこ悪いこと、ダサイこと、コンプレックス、嫌いなこと、屈辱感、挫折感、恥ずかしいこと、怖いこと……。

これだけは人前から隠していたい。しかし、実はそれこそが人生そのものなのであります。

盗んでしまった友だちの大切な宝物。教室の机の中に詰め込んだカビの生えたパン。ベランダに隠れている裸の愛人。寝室の床の下に埋めた白骨死体。

今もひりひりする心の傷と共に全て忘れたい。でも、どうしても思い出してしまう。あの時、私の身に起きた嫌なできこと、ついつい口がひんまがるような苦い記憶。

私たちの人生とは、まさにこれらのネガティヴな諸問題を毎日毎日乗り越え続けることと言っても過言ではありません。

物語が読者に生きていく力を与えられるかどうかはこのネガティヴな出来事をどれだけリアルに描けるか、そして主人公がリベンジできるか、に懸かっています。

さあ、今こそあなたの「ネガティヴ」なネタを棚卸しして、その痛みを再現し、イメージを誇張し、困難な状況を作りましょう。そして主人公を「マイナス」から出発させるのです。

あの時へこんだあの経験も、時が過ぎれば貴重な資源なのであります。生きるとは物語を紡ぐこと。そして物語を書くことは生きることであります。それは屈辱を乗り越える方法を見つけることから始まり、読者とその力を分かち合うことによって完成すると言えるでしょう。

 

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物語における悪役

「悪」についてわしも考えた

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今さらながらですが、ジャック・ヒギンズの名作『鷲は舞い降りた』 (ハヤカワ文庫NV)には痺れました。(小説の方です。映画はあまり感心しません)

第二次大戦末期、形勢が悪くなってきたナチスが一発逆転の秘策として企んだ「チャーチル誘拐」。そのために選ばれた男たちが挑む驚愕の作戦の内容とは?!

これが単なる戦争の与太話で終わらないのは中心人物である二人の男のキャラクターが非常に生き生きしていて魅力的だからです。

戦場という緊迫感や恐怖感に満ちた設定では、やれ銃撃だ爆発だと、派手で描きやすい舞台や状況の描写にばかり走ってしまい、キャラが平板になってしまいがちです。ところが「鷲は舞いおりた」をはじめ、「大脱走」とか「マーフィーの戦い」でもそうですが、傑作はキャラクターの立て方が素晴らしい。とくに登場シーンのエピソードは非常に重要です。作者は、主人公のカッコ良さよりも、むしろその苦境や欠点を描くことに苦心しているように見えます。

それはそうです。主人公の魅力というのは、見た目の良さや由緒ある血統や、強大な権力の後ろ盾などではありません。何よりもまず、読者が共感する人間でなければなりません。人間として好きにならずにはいられないような主人公でなければ誰も興味を持ってはくれないわけです。

そんな「人間臭さ」という魅力を登場人物に持たせるために今夜はじっくり『悪』について考えてみましょう。(昼間に読んでいる人ごめんなさいね。言葉の勢いですじゃ)

「対立軸」が足りない

ぴこ山ぴこ蔵へのメールでいちばん多い悩みが「私の作品は今ひとつ面白くない」というものです。そして、作者自身がそんなふうに感じている作品の多くには、とてもはっきりした共通の特徴があります。

一つは「対立軸が不明確」であることです。

そもそもドラマとは、葛藤であり、対立です。特にエンターテインメントでは派手なケンカを起こさなければなりません。何もこれはヤクザ映画とか番長モノとかに限ったことではありません。スポーツものでは試合そのものが対戦相手とのケンカみたいなものですし、同じチーム内での確執やぶつかり合いも必須要素です。

アルプスの少女ではハイジがロッテンマイヤーさんと対立しますし、天才バカボンではパパと目ん玉つながりのおまわりさんが衝突します。緊張感を呼び覚まし、ストーリーに求心力を生み出すためには、何よりも「対立しあうもの」が必要なのです。

物語の中で反発しあい、対立し、ケンカする2つの極。言ってみれば、対戦の組み合わせです。プロレスやボクシングのマッチメークみたいなもんですな。

自分の作品がどうもピリッとしない、と思う人は「主人公」と対立するしっかりした「敵」がいるかどうかをチェックしてみてください。「対立軸」は他人とばかり決まったわけではありませんぞ。主人公の心の中の「正義」と「悪」だったりすることもあります。具体的であれ抽象的であれ、それらははげしく衝突し戦います。

メインのストーリーラインは、単純なようですが、この『対立とその決着』がテーマででないとあんまり面白くなりません。ところが、初心者の物語ではこの「対立しあう関係」がうまく描かれていないことが多いのです。

例えば、簡単に言うと「悪人」が出てこない。主人公の周りの登場人物は全員いい人ばかりで、みんなが善意で行動するために、事件らしい事件が起こらないのです。あるいは、「必要悪」とか「しかたがない流れ」とかで処理されがちで、あまりその「悪」についての深いツッコミが入りません。

嫌な感じの人はけっこう出てくるものの、なぜその人が嫌な感じなのかについては深い考察がなされません。せっかくそこに「悪」の存在があるにも関わらず作者が目を瞑って避けていくようなケースが多いわけです。

もったいないことであります。あなたの作品に「悪」は登場していますか? そしてその「悪」はきっちり本質が追究され、物語に現実感を与え、面白さに貢献できていますか? もう一度、よくチェックしてみてください。

「悪」について語れ!

「悪」とは何か、という問いかけに対する答えに深みがない。これが「物語が面白くならない」もう一つの理由です。悪を描きましょう。悪こそは物語の華であります。これを描くからこそ楽しいのです。悪人を描かないのは、物語を面白くするチャンスをみすみすドブに捨てているようなものです。

これはどうも無意識のうちに、私たちが日常生活を無難に送るために身に付けてしまった「空気を読んじゃう癖」が出てしまうものと思われます(笑) 空気なんか読まないでいいので、思いきって「極悪人」を登場させてください。

善人ばかりではドラマが生まれないのです。ここは「悪」のパワーを全開にしてストーリーを前進させるためのアクセルを踏み込みましょう!

ある程度ストーリーを書き慣れて来ると「善良さ」が結果的にもたらす「悪」みたいなテーマが描けるようになってきますが、最初の頃はなかなか難しいと思います。普通の人間にとって最も分かりやすい敵は「悪人」や「犯罪者」ですから、話を面白くしようと思ったら、そういう奴をどんどん登場させればいいのです。

ただし、ここで気をつけたいのが「犯罪者だから悪人」という素朴な割り切りをしないことです。犯罪イコール悪、という決め付けをしてしまうとキャラがそれ以上深まりません。作り手がそこで思考を停止するからです。

物語で言う「悪」が発生する瞬間というのは法律に触れた時ではありません。「恐怖や欲望に負けた」時のことです。法に触れることは(「障害」を生むきっかけではありますが)物語で描かれるべき「悪」の本質とはほとんど関係がないのです。

「悪」とは何か、というのは非常に深くて大きな問題ですから描くときには正論に囚われないこと。そうしないとせっかくの「悪」が色褪せます。「対立軸」が平凡で退屈なモノになってしまうのです。

映画「SAW」の問題点とは?

悪についてもう少し。「ソウ (字幕版)」という映画を見ました。構成も非常に練られていますしどんでん返しにもびっくりするわけですが惜しむらくはやはり「悪」の取り扱いであります。

「SAW」というのは基本的にはかなり面白い作品で、ぜひ実際にご覧になっていただいた上でじっくり分析してもらいたいのでネタばれしないように慎重に語りますけど(笑)

この映画の真犯人は、悪に目覚めた瞬間の喜びや、「人間は悪事を働く時が何よりも楽しい」というダークサイドからのメッセージを語るべきではなかったかと思います。そうすることによって悪を正面から捕らえて、「悪とは何か?」という深い部分に一歩踏み込めたのに。

本当の悪には喜びが付きまとうものではないでしょうか? だからこれだけ世の中に悪がはびこるのです。悪事は楽しいのです。わしは「SAW」に、そのあたりをもっと追求して欲しかった。

これだけよく出来た映画なのに最後まで見たときになぜか二流感が漂う「SAW」。せっかく登場させた最高の「悪」を追求しきれず、未消化な状態のままで終わってしまった印象があります。

ここにあるのは切羽詰った犯罪ではありません。「SAW」の犯人は明らかに残虐な仕掛けを楽しんでいる。人が苦しんでいるのを見て楽しんでいるわけであります。

良い「悪」とは、それを目にした瞬間、腹の底から恐怖感がこみ上げてくるものでなければなりません。「SAW」が面白いのはそこに「悪意」の存在があるから。理解不能な快楽があり、それに対する恐怖があるからなのです。それを指摘する一言が登場人物にあればよかった。

犯人がやっていることには悪への喜びがある。自分を正当化しているが、実は楽しんでやっていることが伝わってくる。だから許せないのだ、と。

「悪事を働く喜び」に対する嫌悪と恐怖。その恐怖感さえあれば「SAW」は完璧だったのにな、と思いましたのじゃ。

決して他人事ではありませんぞ。翻って、自分の作品の『悪』に足りないものは何かを常に考え抜きましょう。

 

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ユーモアという武器

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真面目に生きることは素晴らしいことですし、誠実さは何よりの美徳であります。

運転士が真面目に運転しなければ電車は遅れます。海パン一丁の出納係がいる銀行にお金は預けたくありません。皆さん勤務中はニコリともせずにお仕事に打ち込んでいただきたい。

だがしかし、人間、堅いだけでは長く持たないもんです。

真面目に仕事をするだけでは飽きがきます。ストレスも溜まることでしょう。ぴりぴりした現場に長時間いると身も心も疲れ果てます。だからこそ人生にはユーモアが必要なのでしょう。

いわんやこれを読んでいるあなたのように、小説であれマンガであれ映画や演劇であれ、ましてやセールストークならばなおのこと、面白いストーリーを書いて他人を楽しませようって人は、誰よりも楽しみ上手、笑い上戸、感動屋でなければなりません。何よりも洒落が分かんなくちゃいけません。

断定! 断定! 断定! こうあらねばならない! かくかくしかじかで間違いない! ナントカなのだ! カントカしかあり得ないのだ!

……そんなに張り詰めてばかりでは酸欠で死んじゃいますぞ。

作者の断定が激しくてちっともくつろげない物語では末梢血管にまでヘモグロビンとか多分そういうものが届かないのだのだ! そうなのだ! そうに決まっているのだ! 断定口調はたまにやるから面白いのだ!

ユーモアは心を豊かにさせてくれるけれど、笑いと言うのはなかなか難しいものです。人気芸人だってそう簡単に爆笑百発百中とはいかないもんね。

でも、大切なのは、なんとか人を笑わせてやろう、リラックスさせてあったかい心持になってもらおうというサービス精神なのであります。そういう気持ちは必ず通じます。

汝の隣人を愛するのです。寒さの夏はおろおろ歩くのです。まずはお茶でも一杯いかがですか、なのです。おもてなしの心がないとユーモアなんか生まれません。

人を癒し、気持ちを楽にし、冷え切った感情に血を送り込み、ああ、生きてるって悪くないなあ、と思わせてくれるもの。

ユーモア、ドイツ語で言えばフモール。ヒューマン、つまり人間性とかかわりの深いこの言葉、「ユーモア」を解さない奴は大成しないぞう。ギャグやお笑いが好きとか、ジョークを収集しているとかそういうこととはまた少し違うようですな。もっと複雑で知的で、そして人間的であることが求められます。人に対する洞察力と懐の深い愛情がなきゃダメなのじゃ。

あなたがユーモアという名の他人に対する興味と情愛を残念なことにまだ持っていないというのであればそれは非常に由々しき事態であります。

ユーモアのセンスは必ずあなたを救けてくれます。

短めの白い浴衣(正式名称は知らぬ)を着て真冬の早朝に滝に打たれたり、バヌアツの若者にまぎれ足をくくって高い塔の上からジャンプするなどの難行苦行荒行を重ねながら是が非でも身につけることをお薦めしますぞ。

コミック・リリーフ

まあ、あなた自身のことはこの際おいておきましょう。大事なのはいつもながらあなたの物語の登場人物のことです。ユーモアがどこかに漂っていなければその物語は誰からも好かれっこありません。

困ったときのwikipediaにはこんな記述もあります。

「小説、映画、漫画などの物語芸術では、まじめな話ばかりで読者を飽きさせないように、またあまりに深刻な雰囲気を和らげるためにコミック・リリーフと呼ばれるコミカルな登場人物を登場させることがある。」

コミック・リリーフ。

あなたの物語にそういう機能を持ったキャラクターはいますか?

スターウォーズのロボットコンビC3POとR2D2といえば分かりやすい。チューバッカなんかもコミック・リリーフだと言えます。ストーリーを軽やかに語るために、とぼけた会話やドタバタでシリアスな展開にちょっとした息抜きを与えて読者や観客の緊張をほぐす役回りです。こういう存在がストーリーに深みを加えるんですね。

初心者は、ともすると主人公に直接おっちょこちょいな失敗をさせて「私ってドジな女の子、てへっ」みたいなことを直接言わせてしまう。これはいかん、いけませんなあ。何がイカンと言ったって、自分で自分にツッコむのは断固として禁じ手でございます。だってキモイでしょ、ひとりでノリツッコミする人って。

これでは作者のノリノリぶりが痛々しいだけで誰も主人公を好きになってはくれません。だから主人公は絶対にやってはいけないのです。禁断のテクニックの一つでありますな。

そういうヘンテコなことは、コミック・リリーフ・キャラにやらせればいいのです。

重苦しく緊迫したシーンが長く続くとだんだん肩が凝ってくる。物語の聞き手は緊張感に飽きてくる。ふとコミック・リリーフ・キャラがおかしなことをつぶやく。笑いが生まれる。聞き手はホッと息をつく。また緊迫した状況に戻る。すると聞き手は新鮮な気持ちでまた緊張感を楽しむことができる。

こういうシーンは映画やドラマでもよく目にしているはずです。こういうキャラが使いこなせるようになるとちょっとおしゃれなあなた独特の世界が作れます。

コミック・リリーフ。

それはユーモアという気配りの武器。大人の階段を一歩登るために、あなたもさっそく使ってみてください。

 

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面白くない物語の作り方

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まずベタから始めよ!

ストーリー作りを始めたばかりの人が最も恐れているのが「自分のストーリーはベタすぎるのではないか?」ということです。

しかし、それはそれでいいのです。今はまだ。

最初はとにかく手順を覚えるのです。物語を作る上で必要な要素をまずは決めてしまうのです。そういうと何やらごそごそと計算を始める人がいます。

私も昔、計算した覚えがあります。好きなタイプのキャラクターを2人思いついていましたが、あまりにもネタが浮かばないもので、先に『枠組み』を決めてやろうと思ったわけです。

全部で何ページの小説にしたいから登場人物は何人で、シーンはいくつで、エピソードは何個。それが決まれば「後は何とかなりそう」な気がしていました。

そこで、手近にある小説を読んで登場人物の数を数えてみました。こういう時、海外のミステリーは便利です。たいてい登場人物一覧が付いておりますから。

『マルタの鷹』341ページで12人。
『羊たちの沈黙』505ページで15人。
『鷲は舞い降りた』493ページで22人……。

なんとなくですが、長編小説を書く場合、20ページから30ページの分量に対して登場人物が一人という関係ではないかということはわかりました。自分の作品を240ページにするとなると、適切な登場人数は8人ぐらいかなと思いました。

この時点で少しヤな予感がしました。人数だけ決まっても、イメージが全く浮かばなかったからです。そこで今度はシーンを数えてみました。

『レッド・ドラゴン』は720ページ。全部で54章ありました。各章に2~3シーンが入っていますので120シーンぐらい。「240ページの作品なら40シーンぐらいか……」

タチドコロに計算しました。私がこれから書こうとしている小説は240ページで登場人物は8名、シーンは40。

……だからどうした。

結局、この数字から何か物語が浮かんでくることはついにありませんでした。自分が語るべき事柄を見つけ出せていなかった私には登場人物やシーンの数が分かったところで何の参考にもならなかったのです。

紅葉した渓谷の美しさの秘密を理解しようとして生えている樹木の葉っぱの枚数を数えてしまったわけです。

こういう試行錯誤が悪いと言うわけではないのですが、猿知恵と言われても仕方がありません。そんなヘンテコな計算をしていては面白いものなんぞ出来るわけがない。それどころか私は「数合わせ」のために無理矢理エピソードを作ろうとしました。

ところが、何のテーマもイメージもない。決まっているのは主要なキャラクターが二人だけ。仕方なく、なんとなく仲間であるということにして二人を会話させてみました。

しかし、最終的に何をすればいいのかが見えていないので目的を持った話などは全然出てきません。畢竟、今後の展開を探ることが中心になります。

情けないことに、何とかしてキャラクターに自分自身で目的を見つけさせて行動してもらおうと思ったわけです。

そうすると例えば……

「あいつだけは許さないぞ」
「そういうのを弱い犬ほどよく吠えるというんだ」
「黙ってろ、一寸の虫にも五分の魂があるんだ」
「愚か者め、郷に入れば郷に従え」
「いや、虎穴に入らずんば虎子を得ず」
「急がば回れ」
「河童の川流れ」
「屁のつっぱりにもならんですよ」

見事にことわざや故事成語のオンパレードになりました。

テーマがない会話というのは恐ろしいものです。ひねり出されるのはよくある常套句の応酬。どこかで見たようなじゃれあいとツッコミ合い。

ストーリーはちっとも前に進まず、自分ならではの主張や意見など、どこを見渡しても一言もありません。

これじゃいけません。

一方、キャラクタからエピソードを発想する人もいると思います。この方法だと、時たまいいアイデアが出てくることがあります。もともとキャラの誕生と同時に発生したシーンなので、自分の中では物凄く鮮烈でインパクトがある。我ながら才気に溢れた名場面の出来上がりであります。

しかし、パッと思いつくシーンがいくら強烈でも、それをストーリーの文脈としてつなげていくのはとても大変な作業なのです。

あなたの創作ノートの中にも、私のそれと同じように、塩漬けになったままの名場面がたくさんあるはずです。

名場面の中の主人公は、燦然と輝いています。いつだってどこからともなくマントを翻して現れるのです。モンスターバイクのエンジン音と重なって、どわはははは、と聞こえる高笑いを響かせながら。

しかし実は、あなたの主人公はこの先、どこへ行けばいいのかさえわからないのです。思いついたはいいが、その後の展開が出てこない名場面。

何とか次への展開を試みていろいろと書くうちに、どこまでが夢でどこからが現実なのかよくわからない、まるで半身が霧の中に溶けているようなゆるい妄想になることも度々です。

それじゃ困るのであります。

書くべきことが見当たらない。何を書けばいいのかわからない。日記なら書けるのに、小説が書けない。

そういう人にとっては、まず、最後まで作りきることが大事なのです。

肝心なのはどうやって話を終わらせるか。クライマックスをどう盛り上げるか。エンターテインメントの読者はそこが一番読みたいのです。

そのためのどんでん返しであり、伏線の練りこみなのであります。単なる日常のスケッチではいけません。思いつきだけで書けるのはオープニングまで。

最初のアイデアを披露したところで作者だけが気持ちよく燃え尽きてしまい、クライマックスもエンディングもない断片的な話では感想の言いようもないではありませんか。

それは物語などではなく「なんでもいいから俺様をリスペクトしろ!」という一種のジャイアン・リサイタルであり、読者への幼稚極まりない脅迫なのであります。

ベタを恐れてはならない

「よくあるベタな展開にはしないぞ!」という意気込み。これは非常に大事なことだと思います。

あなただからこそ書ける、あなたらしいお話であるために、オリジナリティーにこだわるのは重要です。ずっとこの気持ちを忘れずにいてほしいと思います。

ただし私は、まだストーリー創作を始めて間がない方には、むしろあえてベタな物語を作ってみることをオススメします。

ベタを憎むことも重要ですが、ベタを恐れないことも大事なんです。

テレビの2時間サスペンスドラマのようなベタな展開、という例えをよく使います。私も何度もそう言ったことがあります。もちろん否定的なニュアンスで。本当は自分でもベタなストーリーを作ってきたくせに。

しかし、実のところ、ベタな物語を作ったことのない人にベタの本質は絶対に分かりません。

ベタのいけないところは安易な設定にあります。どこかの漫画で見た類型的なキャラクター。いつかのテレビで見た類型的なセリフ。それらを乱発してしまうと「ベタ」な作品だと言われるのです。

しかし、その類型の使用頻度を考慮しながら鑑賞すれば、ベタドラマのストーリー展開にはとても大切なツボが隠されていることに気がつくはずです。

それは「予定調和」のさじ加減です。

どこかにこの「予定調和」的な側面があると、人は安心します。緊張するシーンの後にコミカルなキャラが出てきたら、案の定おかしなことを言って笑わせてほしいのです。

結婚式のシーンでは花嫁の父親は号泣してくれないと、なんだか心がホッとしないのです。

頭から終わりまで予定調和ばかりしているとさすがに馬鹿にされてしまいますが、多少はこれがないと、全編が緊張感だけでは読者や観客も疲れてしまいます。

また、無駄なようでもリラックスする時間は必要なのです。弛緩があってこそ次の緊張の効果が出るからです。これは基本ですよね。

自分の作風に最適な「緩急」のリズムを調整するためにも、ベタな展開をどこまで盛り込むか、斬新なアイデアをどこまで広げるか、というバランスを計算してください。

そのためには、やはり最低でも2,3本は習作を書いてみることです。

具体的であれ

ストーリー作りに慣れるまでは、目的が抽象的になってしまうことがよくあります。

抽象的な概念だと自分自身がイメージしづらい恐れがあります。これを何か具体的なものに変換すると、その存在が想像力を刺激して話を活性化してくれます。

「具体性」はイメージを喚起してくれます。「世界の平和を守るんだ!」よりも「この重要な機密の入ったUSBメモリを守るんだ!」のほうが物語を発想しやすくなるのです。

そうやって一手間かけることで、その具体的なイメージから読者がすんなり理解しやすいエピソードが生まれて、もっともっと共感しやすい物語になります。

ベタな物語を作る

物語を語ることはあなた自身を語ることでもあります。何気なく紡いだ一言から恐ろしいほど自分自身が剥き出しになってしまうものです。

そこにはあなた自身の性格を形作ってきた人生観や人間に関わる考察の深さ、あるいは浅さ、そして強さと弱さが、残酷なほどあふれ出してしまうのです。

もしかすると逆にそれこそが私たちがこれほどまでに物語を語りたがる理由なのかもしれません。

しかし、エンターテインメントはそれだけでは済みません。そんなあなたの個性を生かすためにも、あなた自身を語ったところで一丁上がりとはいかないのです。

しっかり展開して、たっぷり盛り上げ、きっちり終わらせる。

いくら複雑な構造でも、今何が起こっているかが子どもにも明快に伝わるストーリーを作ってください。

その練習のためなんですから、最初はベタでかまわないんです。ベッタベタでいいから最後まで作りきる!

――創部以来、一度も勝ったことのないお嬢様ラクロス部 しかし一人の転校生を迎えることで戦うチームに変貌し、 全国大会出場のために燃え上がる。

ところが副主将のユキには家庭内の心配事があり練習に打ち込めない。それに気づいたチームメイトは一計を案じて……

そんな「どこかで見たような」話でいいんです。

最初から独自性の高い斬新な物語を作ろうとしては必ず失敗します。まずはベタな設定を使って、肝心なクライマックスの作り方を身に付けましょう。

ベタなストーリー作りの大まかな流れとしては……

【ストーリーラインその1】

▼ベタな舞台を設定する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼ベタな目的を設定する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼目的の達成を邪魔するベタな問題を設定する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼その解決のためのベタな『切り札』を用意する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼『切り札』の伏線を物語の序盤に張る
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼『切り札』を使って問題を解決する
↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
▼最後にちょっと意外な結末

やってみるとわかるのですが、ベタでもけっこう満足できるものです。

もう一つ、主人公のベタなエピソードの流れを紹介しておきましょう。

【ストーリーラインその2】

主人公は、まず何らかの失敗を犯し、それが元で大惨敗します。しかし、あることをきっかけに反撃を開始し、ついに大逆転するのです。

失敗→大惨敗→反撃開始→大逆転

この大きな流れを押さえるだけでスカッとする話が作れます。

試しに、この2つのストーリーラインを交錯させながら物語を構成してみてください。ベタです。しかし、強力です。

そして、そういう作業を繰り返すうちに、ベタな展開のどこが自分の表現したいものとどれだけ重なり、どれだけ理想と食い違っているのかを客観的に確認できるようになってきます。

物語を作るあなたのポジションがはっきりしてくるのです。

やがて物語をコントロールするすべを身に付け、自分が書いたベタストーリーに飽き足らなくなった時、初めて本当の創作が始まります。

手順を覚えるまでは苦しい作業です。しかし、薄っぺらな自尊心を捨ててこの作業をやり遂げない限り、あなたの物語はリアリティーを獲得できないのです。

この段階を省略したり、考えることさえ避けていたりしていては、本当に大切な基礎の部分、地味でも面倒でもごまかさずに作りこまなければならない箇所がいつまでたっても見えてきません。

一歩一歩、一作一作、物語を作り、それを分析すること。

上達のためにはベタでもなんでもとにかく書くこと。書いて書き続け、書き終わったら何度でも読む。それが一番の道であり、この他に道はありません。

 

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意外な結末とオチ

『どんでん返し』と『意外な結末』の違い

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ブンコ
「突然なんだけどさ、師匠」

ぴこ蔵
「なんじゃらほい?」

ブンコ
「そもそもどんでん返しってどんなもの? いや、そりゃなんとなく大雑把には分かってるつもりなんだけど、いまいちピンと来ないんだよね~」

ぴこ蔵
「むむ。それはマズイなー。どの部分がどんでん返しなのかがきっちり見抜けないことには、いつまでたっても正確に技を使いこなせないのじゃ」

ブンコ
「だからもっとこう具体的にさ、これがどんでん返しだっていうのを教えてくれないと、自分はどんでん返しだと思い込んでいても『意外な結末』だとか『オチ』だとか言われちゃうとさ、自信がなくなっちゃう」

ぴこ蔵
「ならば簡単な見分け方を一つ教えておこう。『どんでん返し』はクライマックスの直前に起こって、物語を一気に盛り上げる号砲となる!」

ブンコ
「号砲って何だ? 警報みたいなもん?」

ぴこ蔵
「大砲とか銅鑼の音とか法螺貝とかサイレンみたいなもんじゃな。これからコトが始まりますぞー、というお知らせじゃな」

ブンコ
「そっかー、どんでん返しの後にクライマックスに突入するのか……」

ぴこ蔵
「例えば、ある事件でどんでん返しが起こり、真犯人の正体が明らかになるとしよう。すると真犯人は高笑いしてこう言う。

『ワッハッハー、よく気がついたな! その通り、私が真犯人・怪盗手品師ピコピーコであーる! しかし、ちょっとばかし遅かったようだな。これを見たまえ、君たちの大切なダイヤモンドは先ほど私がすりかえておいたのだ!』

 さあ、どうする名探偵ブンコ!」

ブンコ
「チクショー! 待てーッ、大泥棒! アタシのダイヤを返せ!」

ぴこ蔵
「そして物語はクライマックスに突入するのじゃ!」

ブンコ
「なるほど、『どんでん返し』はクライマックスの始まりなわけだね」

ぴこ蔵
「それに対して『意外な結末』は、そのクライマックスの大問題が最終的に解決される場面のことじゃ」

ブンコ
「ってことはつまり、さっきの泥棒手品師の話で言うと……」

ぴこ蔵
「……その時、名探偵ブンコはとっさに壁の隠しボタンを押した! すると怪盗手品師ピコピーコの足元が音を立てて崩れ、大きな穴が開いた! あわれピコピーコはその穴に真っ逆さま。床下はるかの荒海へと落ちていったのである」

ブンコ
「しまった! アタシのダイヤが……」

ぴこ蔵
「……ところがぎっちょん、落ちていく怪盗手品師のポケットから一羽のハトが飛び出した。ハトは羽ばたくとぐんぐん上昇し、ブンコの肩に止まった。するとそのクチバシには、なんとあのダイヤモンドがしっかりとくわえられていたのだった」

ブンコ
「ああっ、お前はアタシが幼いころ飼っていた伝書鳩のクーポ!」

ぴこ蔵
「そして名探偵とお手柄の伝書鳩は、いつまでもうっとりと輝く宝石を見つめるのであった。めでたしめでたし」

ブンコ
「くわ~っ! これが『意外な結末』かーっ!」

ぴこ蔵
「もちろんこの鳩と名探偵の関係を語るエピソードは出来るだけ序盤の段階で描いておかねばならない。しかも、いったんそのことを読者に忘れさせておくような工夫も必要じゃ」

ブンコ
「『どんでん返し』と『意外な結末』の違いはなんとなくわかったよ。それじゃ『オチ』はどうなるの?」

ぴこ蔵
『オチ』というのはじゃな、『どんでん返し』と『意外な結末』がいっぺんに起こることをいう

ブンコ
「例えば?」

ぴこ蔵
「……穴から落ちていった怪盗。呆然として残された名探偵と関係者の皆さん。やがてジェニガッタ警部が言う。

『えー、そんなわけで皆さん、ご覧のとおり怪盗とダイヤモンドは海の藻屑と消えました。さてこれからどうしましょ?』

収まらないのはダイヤの警備係・ゲス夫。名探偵ブンコに掴みかかって怒声を浴びせる。

『このヘボ探偵! てめえがあのボタンを押したからこうなったんじゃねえか! 責任取れ! 10億円払え!』

そのはずみに足がもつれてゲス夫とブンコは穴に転落。慌ててはるかな海面を覗きこむジェニガッタ警部。しかし、夜の海、しかも霧が出てきて何も見えない。

途方に暮れる警部はやがて首をふるとつぶやいた。

『まあ、しかたないな。これは単なる事故だ。それ以外に私の責任を問われるような事件は何も起こらなかったことにしよう』」

ブンコ
「アタシのダイヤと命はどうなった?!」

ぴこ蔵
「……その頃、海面では一艘のクルーザーが落ちてきた3人を回収していた。ずぶ濡れの名探偵と警備係にシャンパングラスを渡して、怪盗は言った。

『2年越しの計画は大成功! お疲れ様でした! それでは我々の友情に乾杯!』」

ブンコ
「なるほど、実は警備員と探偵と怪盗がグルだったのか。そんでもってみんなで警部をたぶらかしたと。これが『オチ』なんだね!」

ぴこ蔵
「まあ、急ごしらえのへっぽこコン・ゲームで申し訳ないが、言いたいところは分かってくれたかな」

ブンコ
「一応分かったけど、さすがにこれだけじゃ不安だからさ~、もっと実際の作品の例を教えてよ」

ぴこ蔵
「よかろう。具体的な作品名を挙げておくので、実際に読んでみることじゃな。ここでわしがネタバレして解説したところで、そんなに気やすくお主の身には付かないじゃろうて。鵜の目鷹の目、本気で見破ろうとしなければ真髄は見えてこないものなのじゃ。

と言っても、世の中にどんでん返し入りの作品はごまんとあるぞお。まあとりあえず誰もが知っている有名作家のものを紹介してみよう。

例えばわしが好きなのはおなじみ天才人喰い博士ハンニバル・レクターが登場する『レッド・ドラゴン』(原作:トマス・ハリス)じゃな。シリアルキラーの残虐な連続殺人事件が描かれるサスペンスなのにも関わらず、どんでん返しの伏線となる美しくもロマンティックなラブストーリーの構成がお見事である。

また、どんでん返しの達人といえばジェフリー・ディーヴァーかな。中でも『コフィン・ダンサー』のどんでん返しには恐れいった。

ミステリーの大御所、アガサ・クリスティーの短編『青い壷の秘密』『第四の男』などは短編なので時間がかからずに要点がわかり、しかも面白い。超おすすめなのじゃ!(創元推理文庫『クリスチィ短編全集1』

ディーン・R・クーンツのベストセラーで言えば『汚辱のゲーム』や『ストレンジャーズ』にどんでん返しがあるし、ジョニー・デップ主演の映画『シークレット・ウインドウ』並びにその原作となったスティーヴン・キングの中篇小説『秘密の窓、秘密の庭』(文芸春秋『ランゴリアーズ』収録)は、普段、この手のどんでん返しを使わないキングが珍しく書いたミステリー風の作品。

日本のものなら藤沢周平の『隠し剣孤影抄』(文春文庫)に収録されている『必死剣鳥刺し』なんかどうじゃ。時代小説の名人中の名人が贈る珠玉の傑作短編にはよく読むとラブストーリーの鉄則まで入っていてお得なのじゃ。

きりがないので後1つだけ。

映画『スティング』はポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが共演した傑作名画じゃ。二人の詐欺師がギャングのボスを騙すために命がけで頑張るストーリーなのじゃが、この作品にはどんでん返しもあるが、それとは別にオチがある」

ブンコ
「おっと出たね! 1本で2度おいしいってやつだね!」

ぴこ蔵
「『スティング』のどんでん返しのほうは『主人公を狙う凄腕の殺し屋の正体』で、オチはまさにラストシーンのサプライズなのじゃ。これはまあ本当に面白い映画なのでまだなら必ず観たほうがいいぞ」

ブンコ
「うーん、詳しく知りたいけど、そんなに面白いんなら観てみるよ。だからとりあえずそれ以上のネタバレ解説はしなくていいや!」

ぴこ蔵
「まあ、構造的に言うとすればこうなるかな。

物語を面白くするには3つのポイントがある。主人公の目的と、それを邪魔する敵や障害、そして主人公の変化じゃ」

ブンコ
「それは前にも聞いたな」

ぴこ蔵
「問題はその次。つまり、物語を面白く、エキサイティングに語ろうとするならば、主人公が目的を果たそうとするストーリーラインと、主人公が敵と戦うストーリーライン、そして主人公が変化するストーリーラインの3本の筋が必要だということじゃ。そしてそのストーリーラインが交錯する瞬間に『どんでん返し』や『オチ』が発生する」

ブンコ
「えっ? そういうことなの?」

ぴこ蔵
「もちろんじゃ。これらを一緒くたに一本のストーリーで語ろうとするからお主の物語はごちゃごちゃのボケボケになってしまうのじゃ」

ブンコ
「べ、別々に作るのかー。でもどうやって?」

ぴこ蔵
「そこで大事なのが『伏線』と『並行線』なのであーる」

 

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補足:「あるない型」のどんでん返しについて

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どんでん返しには二つの流派がある

どんでん返しには大きく分けて二つの流れがあります。

一つは「α(A)だと思っていたら、実はβ(B)だった」というタイプ。

もう一つは「あると思っていたら、実はなかった」(あるいはその逆)というタイプです。

前者を「AB型」、後者を「あるない型」と呼んでもいいでしょう。
※αβ(アルファーベータ)型は呼びづらいのでAB(エービー)型にします。

どんでん返し「二つの流派」から4つの基本形ができる

こうして「目的のどんでん返し」と「敵のどんでん返し」のそれぞれを『AB型』と『あるない型』の2タイプに分類することによって、2×2=4つのどんでん返しの基本形が明らかになります。

つまり……

「どんでん返し」の大きな流派は、
【敵】・【目的】×[AB型]・[あるない型]の4つのパターンに分類されます。

(1) 「敵の正体が明らかになる」
(2) 「死んだはずの敵が甦る」
(3) 「失われたはずの力が復活する」
(4) 「探しものは自分のそば(内部)にあった」

どんでん返し基本形4パターンの解説

まず、「敵のどんでん返し」における『AB型』に相当するのが(1)「敵の正体が明らかになる」 というパターンですね。

このパターンは「敵」の種類によってさまざまなバリエーションを持っており、なんと最少でも7タイプのどんでん返しを生み出します。まさにどんでん返しのマザータイプと言ってもいいでしょう。

次に、「敵のどんでん返し」における『あるない型』に当たるのが(2)「死んだはずの敵が甦る」 というやつです。

10タイプのどんでん返しパターンで言うところの<TYPE08>です。

<TYPE08>(ドラドラ2)
★敵は死んだと思っていたら、実は生きていた★

ぴこ蔵がどんでん返しについて深く考えるきっかけになったトマス・ハリスの名作、レッド・ドラゴン』で使われているパターンであることから、ドラドラ2ではなく「レッドラ」という呼び方をすることもあります。

この型を使う際の注意点は「死者をも甦らせる強い説得力」に尽きます。ゾンビは別ジャンルですからダメですよ(笑)あくまでも合理的な理由でなければなりません。うまいトリックや緻密な設定を必要とされる、なかなか難しいどんでん返しです。

また、これには裏パターンとして、「生きているはずの敵がすでに死んでいた」というものもあります。この場合は『ないある型』ということになりますが、だましのコンセプトは『あるない型』と同じなのでひとくくりにしておきます。

そして、「目的のどんでん返し」における『あるない型』が(3)「失われたはずの力が復活する」パターン。こちらも敵どんでんと同じく、やはり「復活」のための理由に強い説得力が要求されます。オカルトやファンタジーなら必ずしも科学的である必要はありませんが、逆にそれだけ読者の納得感を支える論理構築力が求められます。

さらに、「目的のどんでん返し」における『AB型』、それが(4)「探しものは自分のそば(内部)にあった」です。これもまた、宝探しからラブストーリーまで、実に多くのドラマを生む永遠のどんでんパターンだと言えるでしょう。

以上4つの基本形をさらに細分化していくと全10タイプになるわけです。

 

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どんでん返しを作る

さあ、どんでん返しを作ってみよう!

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<あらすじ初稿>

トラ吉は野良王国の王様。手下に野良猫たちを従えて今日も平和に暮らしている。
弟分のチビや、愛人のキナコも幸せそうだ。
ある時、何者かによって野良猫トラ吉のまわりから
王様の象徴である宝玉「烏王丸」が奪われた!
宝物には多くの場合、ご先祖猫たちの血に濡れた伝説と、
それに見合うだけの不可思議な霊力が潜んでいるとのことだった。
伝説によると「烏王丸」はその昔、猫族と烏族が大戦争をしたときに
猫族が烏族を破り、当時の族長である大烏を殺し、その血を固めて作ったとされる。
怨みと魔力のこもった宝石で、おろそかに扱ってはならないとされていた。
失ったものを取り戻すためにトラ吉は立ち上がる。
急がなければ、タイムリミットがやってくる!
ダイゴローは最近どこかからやって来た渡り鳥ならぬ渡り猫だ。
乱暴者で、王国の国民達も被害を受けていた。
トラ吉は大切なものを奪った犯人をダイゴローだとにらむ。
トラ吉はダイゴローを敵だと思い込んで追い詰めた。
ところがダイゴローは本当の敵ではなかった。
烏王丸には邪悪な魔力が封印されていた。
もともとは一時的に空腹感を抑え怪力を与える宝玉として
重宝されていたが、実は中毒性があり、
これを長期間舐め続けると、習慣性、依存性が現れる。

そしてある日、凶暴な吸血鬼になってしまうのだ。
そして、本当の敵キナコが姿を現した。
キナコは「食欲」を満足させるために烏王丸を奪ったのだ。
タイムリミットは容赦なく迫る。
キナコは烏王丸を舐めているうちに吸血鬼へと化していた。
トラ吉は壮絶な死闘の末、化け猫となったキナコを倒し、王国に平和を取り戻す。(終)

さあ、創ってみよう!

ブンコ
「てなわけで、まず最初は以上の手順をもとにあらすじ初稿を作ってみましょう!」

ぴこ蔵
「今回のあらすじ実例は『猫の世界を舞台にした伝奇ホラー』じゃ! ポイントは、いかに機械的にストーリーを作っていくかじゃ」

ブンコ
「でも、師匠、機械的なストーリーなんか読んだってつまんねーんじゃねーの? 」

ぴこ蔵
「大丈夫じゃ! 機械的に作った物語に『魂』を入れる方法はたくさんある! 例えば、「タイムリミット」「事件のきっかけ」「主人公の成長」など。そんなわけで、まずは物語の土台をしっかり作ること。大切なのは、まずここまで自分で書いてみることなのじゃ。

この方法論を身につけようとしたら、まずどうしても自分でいったんあらすじを作ってみなければならないのじゃ。そうしない限り、絶対に体得できない世界があるのじゃ」

ブンコ
「やっぱり実際に書かないとわからないものなの?!」

ぴこ蔵
「うむ。理論だけではダメなのじゃ。プレイヤーにならねば。例えば自転車の練習みたいなもんじゃよ。自転車についていかに詳しく知っていようとも実際に乗ったことのない人には、あのバランス感覚はどうしても理解できない。逆に、一度でも乗れたら、その感覚を一生忘れることはない」

ブンコ
「肉体的な感覚が大事ってことなのね。でも、なんで最初は機械的に作るのさ?」

ぴこ蔵
「それは、余計なことを書かないためじゃ! 初心者が挫折する原因は、余計なことにばかり気を取られて例えばキャラの外見の説明だけで疲れ果ててしまうことにある」

ブンコ
「久しぶりにギクッ!」

ぴこ蔵
「キャラクターの容姿などは後でどうにでもなるのじゃ! 大事なのは、キャラクター同士の関係じゃ。愛し合っているのか、憎みあっているのか、関係性こそがストーリーを動かす要因だからじゃ。物語の進行に関係のない話はこの段階では考えてはならん。キャラクターとはストーリーの要請に従って作るべきものなのじゃ!」

ブンコ
「わかりましたよ、わかったけど師匠、仮筋なんか使ったらオリジナリティーがなくなってしまいませんかねえ?」

ぴこ蔵
「ふぁっふぁっふぁ! ふぁーっふぁっふぁっふぁ!!」

ブンコ
「な、なんだー? すっごく笑ってるぞー」

ぴこ蔵
「これを使って自分で一度書いてみればわかるが、ストーリー作りはそんなヤワなものではないぞ! このカリスジの恐ろしさとは、たったこれだけなのに、使う者の全てを引き出してしまうところにあるのじゃ! 展開は無限じゃぞ!」

ブンコ
「ひえ~っ!! 恐るべしカリスジ!!」

 

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どんでん返し意外な犯人

どんでん返しTYPE01を作ろう

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TYPE01 応用例

登場人物の名前を仮に決める

※物語の舞台となる世界を作る上で名前は非常に大きな影響を及ぼす。家族や親しい友人だと却って詳しいデータに縛られて想像力が働かない。

名前と顔が一致するぐらいの関係が最も自由に想像できるようだ。

※そこでまずは「仮筋」に近所の野良猫たちの名前を当ててみた。

主人公の名前を「野良猫トラ吉」
囮の敵の名前を「ダイゴロー」
本当の敵の名前を「キナコ」にしてみた。

仮筋に名前を挿入▼▼▽

ある時、何者かによって
野良猫トラ吉のまわりから
「大切なもの」が奪われた!
失ったものを取り戻すためにトラ吉は立ち上がる。
急がなければ、タイムリミットがやってくる!
トラ吉はダイゴローを敵だと思い込んで追い詰めた。
ところがダイゴローは本当の敵ではなかったのだ!
そして、本当の敵キナコが姿を現す。
キナコは
「自分勝手な欲求」を満足させるために
大切なものを奪ったのだ。
タイムリミットは容赦なく迫る。
トラ吉はついにキナコと対決する。
そして、意外な結末を迎える。

登場人物の人間関係

名前から登場人物のキャラクタや関係を想像する。実際に近所にいる野良猫たちの関係(▼の部分)をそのまま持ち込んでみた。

▼トラ吉は野良王国の王様。
▼手下に野良猫たちを従えて今日も平和に暮らしている。
▼弟分のチビや、愛人のキナコも幸せそうだ。
▼ダイゴローは最近どこかからやって来た渡り鳥ならぬ渡り猫だ。
▼乱暴者で、王国の国民達も被害を受けていた。
▼トラ吉は大切なものを奪った犯人をダイゴローだとにらむ。

大切なもの

目的である「大切なもの」を設定するのであるが、ここからが想像力の働かせどころである。自分がイメージした物語世界へどっぷりと身を浸すこと。五感を使ってその世界を感じること。ここまでのあらすじを読んで、今はまだあなたしか知らないその世界へどんな手を使ってでも入り込むこと。そして、旅を始めよう。

野良猫の王様にとって奪われたら困る一番大切なものを「王の権威」としてみた。と言っても抽象的な概念ではつまらない。ファンタジックな感じのただよう象徴的なアイテムがよいだろう。「煮干しの王冠」とか「マタタビの首輪」とかでも良いのだが、大人が読んでも楽しめるように少し時代がかったものにしてみた。

(▼の部分)を加えてみた。
▼「大切なもの」は王様の象徴。
▼代々伝わる「烏王丸」という宝玉だった。
▼怨みと魔力のこもった宝石はおろそかに扱ってはならないとされていた。

悪の動機

ここで敵の悪事の動機となる「自分勝手な欲望」を設定するために、その引き金となる欲求を『マズローの欲求段階』から選択する。

この物語のテーマが『悪とは何か?』を徹底的に追求するのであればもっと複雑な欲望を考える必要があるが、なにしろ猫と烏の戦争の話である。シンプルでピュアな動物たちの対立を描きたかったのでここは猫らしく「生理的欲求」(▼の部分)を選んでみた。

この選択により、『目的』は『敵の生理的欲求を満たすもの』である必要が生じる。

キナコは
▼「食欲や性欲及び睡眠・排泄・空気・庇護・睡眠への欲求、
▼ 金銭欲や俗にいう物欲など、
▼ 生きる上での根源的な生理的欲求」
を満足させるために大切なものを奪ったのだ。

欲求

敵の動機となる欲求を絞り込む。欲求は「食欲」に決定。

これにより、『目的』は『食欲を満たすもの』である必要が生じる。つまり「大切なもの」には食欲に関わる魔力が秘められているのだ。この場合はホラーということで「吸血鬼」を連想した。

前半で「伏線」(▼の部分)、
後半クライマックス部分でその「謎解き」をする。(▼▼の部分)

ある時、何者かによって、野良猫トラ吉のまわりから
王様の象徴である宝玉「烏王丸」が奪われた!
▼宝物には多くの場合、ご先祖猫たちの血に濡れた伝説と、
それに見合うだけの不可思議な霊力が潜んでいるとのことだった。
▼伝説によると「烏王丸」はその昔、猫族と烏族が大戦争をしたときに
猫族が烏族を破り、当時の族長である大烏を殺し、その血を固めて作ったとされる。
怨みと魔力のこもった宝石で、おろそかに扱ってはならないとされていた。
▼▼烏王丸には邪悪な魔力が封印されていた。
▼▼もともとは一時的に空腹感を抑え怪力を与える宝玉として
重宝されていたが、実は中毒性があり、
これを長期間舐め続けると、習慣性、依存性が現れる。
▼▼そしてある日、凶暴な吸血鬼になってしまうのだ。
そして、本当の敵キナコが姿を現した。
キナコは「食欲」を満足させるために烏王丸を奪ったのだ。

クライマックスの切り札について

クライマックスで描かれるのは「問題の解決」である。主人公が敵に勝つにせよ負けるにせよ、何らかの変化が起きて問題は解決される。もちろんテーマによっては「解決されない」という解決方法もあるわけだし、主人公が納得しさえすれば、事件は未解決でも悩みや疑問は解決されている場合もある。

ただし、主人公が派手に活躍してスカッと敵をやっつけて終わる物語ならば、ここは『切り札』を使って問題を解決しなければなるまい。

問題の設定と同時に解決のための『切り札』を考えておき、それがご都合主義と避難されないようにあらかじめ綿密な伏線を敷いておくこと。

結末

結末を決めるためにまずはハッピーエンドかバッドエンドかを選択する。そして、その選択に沿った『結末』を考える。

この例の場合は「怪物退治」のハッピーエンドを選択してみた。つまり、主人公が無事に敵を倒して平和を取り戻すのである。

ホラーらしいバッドエンドを選択するとしたら、敵を倒すが吸血鬼はどんどん増えていく、というのも面白いかも。

 

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生成AIに対抗できるライティング技術を手に入れたければ「どんでん返しのスキル」を身に付けることです。このニュースレターでは文字コンテンツを発信したいあなたに、小説のプロットから記事の構成にまで使える『物語の技法』を徹底解説。謎と驚きに満ちた、愉快で痛快なストーリーの作り方を伝授します。

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仮筋

面白いストーリーを素早く効率的に作るためには どんでん返しを組み込んだ「あらすじ」の原型が必要です。 今後、ご自分でいろいろ研究して、自分だけの必殺パターンを 作り上げることをおすすめいたします。例えばその一つが、これから紹介する「 仮筋 」です。

「仮筋」は、秘伝と奥義をたっぷり詰め込んだ、物語の濃縮エキスです。タイプごとに異なる「どんでん返し」をきっちり成立させるためにはどのタイプならどの段階でどんな伏線を張っておくべきか? 事件はどんな順番で起こらねばならないか? そんな、ストーリーの「定石」を誰にでもわかりやすい形式にして組み立ててあります。

「仮筋」こそは「型」です。秘伝中の秘伝です。どんでん返しを無理やり物語に挿入するのではなく、物語をどんでん返しから自然に作り上げる黄金の型なのです。この仮筋を元にあらすじを作ってみてください。

娯楽作品として読者を楽しませるために不可欠なポイントが示されますので、「面白い物語」の創り方を効率よく身につけることが出来ます。

どんでん返しTYPE01の仮筋と実例

<TYPE01>(ドラドラ1、ウルウル1、フラフラ1)

★敵だと思って追い詰めたら、実は別にいた★

◆仮筋◆

主人公は、他には替えがたい「大切なもの」を持っている。
主人公のまわりから「大切なもの」が失われる大事件が起こる。
「大切なもの」を奪った敵を探し出す必要がある。
「大切なもの」を取り戻すために主人公は立ち上がる。
急がなければ、タイムリミットがやってくる!
主人公は「偽敵」を敵だと思い込んで追い詰める。
さまざまな障害が主人公の行く手を阻む。
ところが、追い詰めた「偽敵」は敵ではなかったのだ!
そして、「本敵」が姿を現わす。
「本敵」は強烈な欲求に突き動かされていた。
タイムリミットは容赦なく迫り、危地に陥る主人公。
主人公は危地から脱出し、ついに「本敵」と対決する。
そして、意外な結末を迎える。

▲構造上の特徴▼

読者をだますための囮である「偽敵」と、本当の敵である「本敵」が同じタイプである場合、「えっ? 本当に悪いのは主人公だったの?」みたいな、主人公のアイデンティティーに関わる深甚な衝撃はなかなか仕掛け難いものである。

そこで、「敵の意外な正体」を設定するという方法をとる。まるでノーマークだった人物が、最後の最後に、主役に踊り出るのである。これが「正体探し」の王道であり、最も多用されるノーマルなプランなのじゃ。

これには「こいつの存在を忘れていた」という「盲点」を突く技と、「こいつは絶対に敵ではないはずである」という「誤解(錯覚)」を招く技がある。

ベタな例だが、前者(盲点)は「貴族のパーティーが行われている会場にいる小間使い」のように
ついその存在を員数外に置きがちな人物を設定するパターンである。

後者(誤解)の代表格は「連続殺人事件で3人殺されたうちの2番目の被害者が殺人犯」みたいに
「一見、論理的にありえない」と思われるパターン。

この手のトリックは出尽くしたと言われるが、要はいかに「型」をドラマティックに使うかであり、また逆に、よく知られた定石を使うと見せかけて裏をかくという手もあるのである。

いずれにせよ、「型」や「定石」を知らなければ話にならないので、この手のトリックを仕掛けたいのならクリスティーでも読んで基礎を学ぶことを勧める。応用として「目的のものを隠す場所」にもこの技は有効である。「木は森の中に隠せ」というやつである。

▲解説▼

【TYPE01】のどんでん返しは”犯人当て”のためのものです。「ミステリー」と呼ばれるジャンルで多用されるパターンです。「意外な敵」が登場する物語を作りたい時に使ってください。もちろんミステリーだけで使われるわけではありません。

例えば…時代小説の名手・藤沢周平。『隠し剣孤影抄』(文春文庫)に収録されている「暗殺剣虎ノ眼」という短編などでこのどんでん返しが見られます。

 

詐欺師を題材にした傑作映画『スティング』で「主人公を追う殺し屋の正体」に仕掛けられたどんでん返しもこのタイプでした。成功のポイントは盲点を突くことです。

 

さて、それでは、あらすじの作り方の手順とともにぴこ蔵の実例作品を見ていただきましょう。どうやって話をふくらましていくかを見てください。

 

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